第19話 理人のいない1週間 その②

もう理人に譲ってしまった事は、理人が帰ってから説明すれば良いだろう。


まだ説明する必要は無い。


これでもう終わりだ…終わり、後はもうあいつ等に関わるのは討伐だけで充分だ。


金も貰ったし…1週間、娼館で入り浸りながら理人を待てばよいな。


彼奴らは…知らねーっ。


◆◆◆


「ごめん、私頭冷やすために素振りしてくる」


「ええっ行ってらっしゃい、私はちょっと冒険者ギルドに行ってくるわ」


「なんでだ?」


「様子がおかしいから、ガイアの調査を頼むわ、あと理人の指名依頼について聞いてくる」


「悪い、頼んだ、私は頭に血が昇っているから…ごめん」


「良いのよ」


リタはショックだったのか、あの後部屋に駆け込んで出てきません。


理人を振ってまでガイアを選び戻る事が出来ないから私達以上にショックでしょう…


私達も茶化してはいましたが、理人と別れてガイアを選ぶのはかなりの葛藤があった筈です。


そしてその結果がこれですから…


ガイアは本当に大丈夫なのでしょうか?


私が気持ちを先延ばしにしたのはチームワークを考えたからです。


あの状態のリタが戦えるとは思えないし、ガイアへの信頼が無くなれば後ろを気にしないでエルザも斬りこむ事はできません。


最悪『愛情』は無くなっても、『信頼』は必要です。


少なくとも今の状態のガイアの為に命を張る事は二人には出来ないと思います。


私も同じですね。


さて、済んでしまった事は仕方ありません。


私は…ギルドに行きますか。


◆◆◆


「そうなんですか?」


「はい、理人様が受けた依頼は、指名依頼じゃありません…塩漬け依頼です」


指名依頼じゃない? 塩漬け依頼。


確かに理人はS級ですから塩漬け依頼も受けています。


ですが、今まで、こんな1週間もかかる依頼を受ける事はありませんでした。


私達の為に離れる依頼は多分敬遠していたのでしょう。


それが今回に限りなんでそんな依頼を受けたのでしょうか?疑問しかありません。


「それで理人が受けた依頼はなんでしょうか?」


「それは守秘義務があるのでお教えできません」


「それでは『聖女の権利』を行使します」


「仕方ありませんね『地竜の討伐です』」


地竜ですって、そんな、ワイバーン迄は亜竜。


竜と言っていますが似て異なります。


ワイバーンは一流の冒険者なら狩る事は可能です。


ですが…その上になると途端に難易度があがります。


地竜ともなれば普通は騎士団2個師団で戦う相手です。


一対一ともなれば、私達でも危険です。


個体によってはガイアでも後れを取ります。


「そんな相手の討伐を何故理人は受けたのですか?」


「ハァ~そんな事知りませんよ!」


「知る限りで良いですお教え下さい、聖女としての命令です」


「拒否します…此処から先は『勇者ガイア様』絡みですからお話しできません」


「話せないという事は知っているという事ですね」


「そうですね…もし知りたいなら『勇者ガイア』の身辺調査とご自身の事を調べれば解かると思いますよ? 依頼なら受けますが」


仕方が無いわ。


これを調べないとスッキリしません。


「それじゃ依頼しますので宜しくお願い致します」


「畏まりました、危なくない依頼ですので金貨2枚で大丈夫ですよ…明日には多分調査は終わりますから、夕方以降なら何時でも来て下さい…まぁ驚きますよ」


「そう、また来るわ」


多分ギルドはある程度の事情を知っている気がしますね。


じゃなきゃ『驚きます』なんて言わないわ。


それに理人の件がガイア絡みなら…これでガイアの事も解るかも知れないわ。



「マリア様、これはギルドではなく私個人からのお願いです」


「何かしら?」


「もう少し、理人様に優しくしてあげられませんか?」


「あの…それどういう事なの?」


「リタ様が理人様を振って以来、いつも悲しそうな顔をしていましたよ? 親友の恋人を略奪する勇者、平気で恋人を捨て勇者に乗り換える賢者…それが『人類の希望』と言われる勇者パーティがする事でしょうか? それなのに、何も見返りも与えていない男に命まで捨てさせようとしますか…私利私欲や金の為に利用しきって殺すつもりですか?」


「あの、最初のは不本意ですがその通りです…ですが後半は解りません」


「それは調査で解りますから見て判断して下さい…あの、本音で一言言わせて貰ってもいいですかね?」


「はぁ…構いませんが」


「1人の男に散々世話になって命まで賭けさせたんだ…これからはちゃんと愛してやれ馬鹿女―――っ ついでに糞リタにもう二度と裏切るんじゃねー――っそう伝えて置いて下さい」


「なっ…」


「これは言ってはいけない事でしたね! 正直言えば、私、貴方達三人が羨ましくて、妬ましくて仕方がありません。理人様は凄い人気なんですよ! あんな悲しそうな理人様見たくありません…悲壮感を漂わせいつも悲しそうで…調査の結果を見れば解かるでしょうが、地竜の討伐なんて命賭けです…理人様死んじゃうかもしれません…誰のために自分の命を捨ててまで戦おうとしているか、しっかり考えて下さいね」


泣いているわね。


「解ったわ、凄く腹が立つけど泣きながら言うのなら多分私が悪いのでしょうね…ごめんなさい」


「良いんです、冒険者ギルドの受付として言ってはいけない事を言いました…こちらこそごめんなさい…それで明日の報告なのですが、出来たら三人一緒で来ていただけますか?」


「三人って私とエルザとリタでという事?」


「はい、極めて重要な話で、ギルマスも同席でお話する事があります」


「解ったわ、必ず連れてくるわ」


◆◆◆


「これはいったいなんなの?」


「いや、理人が居ないんじゃ、飯を食いに行くか買うしかないじゃん? だから買ってきた」


串焼きだけ50本…それにお酒…


「串焼きだけですか?」


「ああっ何処で飯買って良いか解らないから目についた屋台で買ってきたんだ」


「そう…ごはんは解ったけど、なんで床が濡れていて、荷物がぐちゃぐちゃなの?」


「いやぁ~風呂を沸かそうと思ったんだけど、使い方間違って水浸しにしちまったんだ、タオルが何処にあるか解らないから探したらこんな事に」


「それならなんでリタに聞かないの?」


「まだ、部屋でグスグス泣いているから聞けねーんだよ…それよりギルドに行ってどうだった?」


「理人が受けたのは『指名依頼』でなく塩漬け依頼だったわ、しかも『地竜の討伐』だって」


「不味いな、理人が死んじまう今すぐ助けに行くぞ!」


「無駄よ…何処にいったか解らないわ、それに日時の差があるから、着いた時にはもう」


「ああっ間に合わないな…それでなんで理人はそんな依頼を受けたんだ」


「それが私達に関わっていそうなんだけど、明日まで教えて貰えないみたい」


「変だな、教えないという事はもう情報は掴んでいる…そう言うことだろう」


「多分ね」


「死なないでくれ…そう祈るしか無いな、流石に危なくなったら逃げるだろうけど」


「そうして欲しいわね…それとね」


「他にも何かあるのか?」


「そのかなり強く、理人の事言われたわ」


「仕方ないだろう」


「そうね、それで明日は三人で来て欲しいって言われたの」


「そうか…それならリタを明日は部屋からださないとな」


「まだ部屋から出てこないの?」


「ああっ、最悪一人ボッチになるかも知れない…そう思っているんだろうな」


「そうね」


「まぁ、私からしたら自業自得だ」


「確かに」


今は幾ら考えても仕方ないですね。


ですが…その前にこの水をどうにかしないと、眠れません。



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