第9話 オートクチュール

「今日もガイアは居ないのか?」


「仕方ないじゃないか? ガイアは勇者だから忙しいんだよ」


「だけど、討伐も此処の所、していないし、別に疲れる事はしていないわ」


「そうよ、そうよ」


「男には、そういう日もあるんだ、偶に一人で飲みに行ったり、男同士で飲むの位許してやらないと嫌われるぞ…その分埋め合わせは俺がするからさぁ、許してやれよ…」


「まぁ理人がそう言うなら私は構わないが…」


「居ない人の事をとやかく言っても仕方が無いわね」


「まぁ理人で手を打つかな」


この間の食事とペンダントが地味に効いている気がする。


多分、それが無ければ断られた可能性も高い。


「それじゃ行きますか? 姫様方」


「姫、お前なに言っているんだ」


「ぷふっキザですわね」


「なんの冗談、似合わないわよ」


確かにな…だがこれならどうだ!


宿の外には高級馬車を泊めてある。


勿論、御者もいる。


俺はエスコートするようにエルザの手を引いた。


「それでは参りましょう」


さあ…『アッシー君』の本領発揮だ。


この世界にはマークⅡもソアラもスープラもBMWも無い。


だが、やる事は一緒だ。


「ああっ、あの理人?」


「どうしたのこの馬車…」


「これ、まるで貴族の馬車じゃない…」


驚いたか…そうだよな。


勇者パーティと言っても普段の旅は徒歩だ


乗っても乗合い馬車だ。


こんな高級な馬車なんて普段乗らない。


「何を言っているんだ? 勿論3人の為に用意したに決まっているじゃないか? 皆は凄く綺麗なんだから、こういう馬車が凄く似合うよ」


「あのな」


「あのね」


「私、こんな馬車」


3人の前に赤い絨毯が御者の手によって敷かれる。


「良いから、良いから乗ってくれ、周りが注目しているぞ!」


「ああっそうだな」


「そうね」


「うん」


サプライズはこの位派手な方が良い。


この世界の教会は『勇者』や『聖女』にはトコトン甘い。


近くの教会の大司教に聖女達に慰労をしたいから高級な馬車を借りたい…そう相談したらこの馬車を何処からか借りてきた。


大方、どこぞの貴族から借りてきたに違いない。


一神教のこの世界、貴族よりある意味教会の方が立場は上だ。


何だか三人とも落ちつかないな。


まぁ、三職とはいえ元は村娘だからそりゃそうだな。


「こんな凄い馬車を借りて、何処に食べに行くつもりだ」


「そうだな、マリア達に相応しい場所だよ…その前に1か所寄り道して良いかな!」


「私は別に構わないが、何処に行くんだ」


「別に構わないわ」


「良いけど、何処に行くの?」


「それは内緒、行ってからのお楽しみだ」


「「「そう」」」


◆◆◆


「さぁ着いたよ」


「おい、本当に此処なのか…」


「流石に場違いですよ」


「そうだよ」


確かにそう思うよな。


だが、そんなのは関係ない。


俺は間違いなく此処で頼んであるんだから。


『高級ドレスショップ ラチュール』


貴族から王族、大商人の娘までもが憧れるドレスショップだ。


通常なら3年待ちと言われる程の人気のお店で全てのドレスがオートクチュールの1品物で二つと無い。


俺は勿論、待つ気は無いから…『勇者特権』とおなじみの教皇の名前を出して短期間で作らせた。


まぁ、防具の修復と洗濯は俺の仕事だからサイズは解ってたしな。


「大丈夫だから行こう…ほら」


「ああっ」


「ええっ」


「そうね」


何で顔面が蒼白なのか解らないな。


◆◆◆


「これは、これは理人様、お待ちしていました」


「頼んでいた物は出来ているか? 聖女であるマリア様、賢者であるリタ様、それに剣聖であられるエルザ様に相応しい出来を期待している…あとこれから出かけるから着替えもお願いしたい」


「はい…ただいま用意させて頂きます」


「頼んだ」


「おい、理人これはどういう事だ?」


「まさかと思うけど…」


「此処は3年待ちが当たり前と聞いたよ…」


普通はそうだ、流石に買えるなんて思わないだろうな…


「なに言ってるんだか、此処はドレスを買う場所だよ、ドレスを買わない訳ないだろう? 3人に似合いそうな感じに仕上げて貰ったから...行った、行った」


「おい…」


3人とも女性店員に引っ張られる様に連れていかれた。


凄くたどたどしく歩いている…転ばないと良いな。


「理人様は何かお飲みになりますか?」


「そうだな紅茶を頼もうか?」


「はい、ただいま」


俺は一応男物のタキシードモドキに着替えた。


まぁドレスのついでに頼んだ、女性物と違い簡単に作れるらしい。


靴や小物も用意して貰ってコーディネートと化粧も頼んで置いたから時間は掛かるな。


俺は紅茶をすすりながら三人を待った。


一番最初に終わったのはエルザだった。



「理人、私にはこんなのは似合わないと思うんだが…」


「そんな事はない、凄く似合っているし綺麗だ」


「本当にそうか? 剣ばっかり振るっている、私だぞ」


「そんな事はない、本当に綺麗だよ」


エルザに用意したのは前の世界でいうチャイナドレスだ。


足が長く背が高いエルザには普通のドレスじゃ似合わない。


それに活動的な彼女ならこう言う足が出るようなデザインが向いて居る気がした。


「そうか、それなら良いが…少し変わったデザインだな」


「それは、俺が考えて、此処のデザイナーと話して作った物だからな」


「理人が考えたのか?」


「まぁな」


「あの、お連れ様にも飲み物をご用意しましょうか?」


「ああっお願いする、ミルクティーを入れてくれ」


「畏まりました」


エルザはミルクティーが好きだから、これで良い筈だ。



次に終わったのはリタだった。


「私こういうの着た事ないから、どう可笑しくないかな?」


リタに用意したのはいわゆるロリータファッションだ。


背が低く胸が小さい彼女には良く似合う気がする。


白を基調にして清楚なイメージにしてみた。


「凄く似合っている、見違えたよ」


「そう…それなら良かったわ」


飲み物を勧めて来ないから、すぐにマリアの準備も終わるのかも知れないな。


少し遅れてマリアが来た。


「なんだか、少し恥ずかしいわ」


「恥ずかしく思う必要は無いよ…まるでお姫様みたいだ」


「そうお世辞でも嬉しいわ」


マリアのドレスは純白のよくあるドレス。


だけど、生地と飾りにかなり気を使って作って貰った。


聖女の彼女には下手になにか考えるよりオーソドックスな物の方が似合う気がした。


「さぁ出かけるか」


「本当に何処に行くんだ」


「聞くだけ無駄ですよ」


「まぁ良いや、きっとまた驚かすんだね」


「それは内緒だよ」


再び俺は彼女たちをエスコートするように馬車に乗せた。




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