第4話 勇者童貞を捨てる


「なぁ理人…此処は流石に不味い…俺は勇者なんだ、俺の子種は」


『勇者の子は優秀な子が生まれる』これは本当の所は迷信だ。


だが、その為『こういう行為』は余り推奨されない。


特に仲間内では不味い事になる。


それこそ、勇者が聖女を妊娠なんてさせたら、子供が生まれるまで聖女は戦えなくなるから…イチャついているが『やれない』


それは他の二人も同じだ。


それじゃ外でやればいいのでは、そう考えるかもしれないが、それも不味い。


『勇者の息子』はそれなりのブランドだ。


実際には大した能力が無くても…世間体からして不味い。


魔王討伐した暁には貴族、場合によっては王族を妻に迎える勇者に『娼婦や庶民との間』に子が居たらまずいだろう。


「だから、高級店に来ているんじゃないか? 場末の娼館じゃ確かに危ないな、だがこう言う高級娼館は女性に『避妊紋』を刻むから絶対に妊娠はしない…まぁ、その代わり金額は馬鹿みたいに高い。貴族や大商人、場合によっては王族がお忍びで使うのがこのクラスだ…口外も絶対しないから安全なんだぜ」


「そう、なのか?」


これは本当だ。


前世で言うところの芸能人、政治家、ご用達のVIP専門の風俗店みたいなもんだ。


「そうだよ、なぁ普通は俺たちの年齢なら、こういう事はもう経験済みなんだぜ、恐らく近隣の村で育った奴で童貞なんて俺たちだけだ…この先いつ終わるか解らない魔王討伐の旅…じじいになる迄童貞なんて悲しすぎないか?」


あはははっ、凄く考えていやがんの。


この世界は寿命が短い。


しかも農村部は早くに結婚して子供をつくるからこれも事実だ。


ただし…村だけ。


都心部は違うが、敢えてその事を言う必要は無いだろう。


「そうだな、そうだよな」


「それじゃ決まりだ、ほら行こうぜ」


俺はガイアの手を取って娼館に入った。


「いらっしゃいませ」


「予約していた理人ですが…」


「はい、チョチョリーナ嬢ですね」


「宜しくお願い致します」


「ちょっと待てよ! 普通はこういう所は相手を選ぶんじゃ」


「普通はそうだけど…ガイアには最高の相手をと思ったから指名しておいたんだ」


「俺は…」


「あの、私がチョチョリーナですが…そのチェンジなさいますか?」


「あっ…いや、良い」


「どうだ! ガイアの好みだろう? 違うか? あん!」


「違わない…ああっ済まない」


「それじゃ行ってらっしゃい!」


「ああっ」


ガイアはチョチョリーナ嬢に腕を組まれてそのまま奥の部屋に消えていった。


チョチョリーナ嬢はハーフエルフで、噂では貴族がエルフの愛人に産ませた子と言う話しだった。


本当の所は解らないが、綺麗なスレンダーなスタイルに尖った耳、透き通るような肌から、ハーフエルフなのは間違いないだろう。


風俗に詳しい、風俗のルポをしている変わった冒険者の記事ではナンバーワン嬢として何度も特集を組まれていた。


「それじゃ、2時間後に迎えにくる」


「あの、理人様は遊んで行かれないのですか?」


「今日は、良いや次回は楽しませて貰うよ」


「そうですか」


「ああっ、勇者であるガイアが気に入るようなら、また来る」


「解りました」


俺は娼館を後にした。


◆◆◆


『貢くん(みつぐくん)』の本領発揮。


俺はこの街の宝石商に来ている。


「理人様…ようこそいらっしゃいました」


「頼んでいたネックレスは用意できましたか?」


「無かったので、急いで制作してオーダーで用意しました、気に入って頂けると良いのですが…」


「あははっ、何をいいますか? 王家ご用達のこのお店の品が気に入らない訳がないでしょう」


「そこ迄言って貰えると宝石商冥利に尽きますな」


「早速、見せて貰えるかな」


「ただいま用意致します…」


剣聖のエルザには、獅子が緑色の石を咥えたペンダントを作って貰った。 勇ましくボーイッシュなエルザには凄く似合うと思う。


聖女のマリアには、美しい天使が抱えるように白い宝石を持つペンダントをお願いした。清楚なイメージの聖女の胸元にはピッタリだ。


賢者のリタには、蛇をモチーフにした赤い宝石を使ったペンダント。蛇は知恵を司るから賢者のリタに似合っていると思う。


「素晴らしい出来だ…思っていた以上に素晴らしい」


「お褒め頂きありがとうございます」


これなら、指輪と重ならないからつけて貰えるかもしれないな。


俺は昔の事を思い出した。


王に謁見した時の事だ。


俺は遠巻きにしか見てなかったが、綺麗なドレスや宝石を身に着けていた貴族を羨ましそうに見ていた気がする。


俺は質素な女性が好きだから、敢えて今まで触れてこなかった。


それに勇者パーティは『質素』な方がやっかみが無くて良いからな。


今はそんなのを気にする必要は無い。


喜んでくれると良いな…流石に、ガイアの風俗代やキャバクラ代を合わせてワイバーン1羽分を使ったから、要らないとか言われたらめげる。


◆◆◆


「どうだった?」


「ああっ、最高だった…こんな素晴らしい事があるなんて」


そりゃそうだな…最高の美女が初体験の相手、しかも超一流の風俗嬢で最上級の2時間コース、最高に違いない。


「良かったよ…それじゃ帰るか」


「ああっ、だが理人お前、今日は遊ばなかったそうじゃないか? なんでだ?」


「今日は勇者である親友のガイアの為の遊びだ、次回は俺も楽しむよ…ちょっと用事があってな」


他の皆へのプレゼントの話は少しタイミングを見た方が良いな。


「そうか、俺ばかり悪いな」


「いや、良いんだ勇者はモテるだろう」


「ああっ凄くモテるんだな」


実際にモテるのは事実だが…風俗だからお金を払えば更にモテるのは当たり前だ。



◆◆◆


久々にガイアと二人で歩いた。


夜風が気持ち良い…ガイアは上機嫌だ。


「なぁ、今日あった女達を見てどう思った?」


「凄く綺麗で『ああいうのを絶世の美女』そう言うんだな、そう思ったぞ」


「なぁガイア、これは他の三人には絶対に言わないで欲しいんだが、少し話して良いか?」


「構わない…男同士の話だな、解った」


随分と温和になった者だ。


「今日一緒に過ごした女達とあの三人を比べてどうだった」


「聞きづらい事を聞いてくるな…悪いが今日理人が用意してくれた女の方が遥かに上だったよ」


そりゃそうだよな…聖女だ賢者だ剣聖だというが外見だけで言うなら村娘…化粧すら真面にしていない田舎娘だ。


村では美人でも都会の本当の美人からみたら只の芋ねーちゃんだ。


ましてガイアも田舎者だから、都会の綺麗な女がさぞかし綺麗に見えただろう。


「俺にとって一番大事な親友はガイア、お前だから親友として、また一緒に馬鹿する様な悪友として言わして貰うけどよ…あの三人にお前は勿体ないよ」


「なんだよ急に」


少し顔が曇ったな。


だが動揺しているから此処から叩き込む。


「勇者のお前なら、今日相手した女クラスなら、簡単に尻尾振ってついてくるんだぜ…しかもあれでもお前が手にする女の中じゃ中の下なんだ、そこを考えた方が良いぞ」


「ちょっと待てよ、ロザリーやチョチョリーナの程の美人、俺は見たことが無いぞ、あれでも理人は俺の手にする女の中で中の下と言うのか? はっきり言ってしまえば、嫁にしたい位だ」


流石は田舎純情ボーイだな。


「やはり気が付いて居なかったか…悪い、パーティで唯一の男の俺が教えてやるべきだったな…勇者のお前が魔王を倒すだろう、そうしたらこの世の女なんかよりどりみどりなんだよ! 本物の貴族の令嬢から山ほど縁談が来るんだぞ」


「おい、マジか?」


「マジかじゃねーよ、こんなのはまだ付録だよ…本命は美姫で有名なマリン第三王女とか、美しい燃えるような赤髪の帝国の第二王女ティーナとかからの縁談が来る可能性も高い」


「おい…マジかそれ」


「それに勇者パーティ所属の男は複数婚可能だから 王女が正室、他の女が側室だぜ…欲しければエルフの奴隷も買って愛人か側室にできるんだ…そんなハーレムがお前を待っている。流石のロザリーもその中じゃ並み以下だな」


「お前騙しているんじゃないのか?」


「違う、本当の事だ…嘘だと思うなら少しは勇者の本とか読めばわかるぞ、歴代の勇者の中でハーレムを望んだ者は全員、そのレベルの物は手にしているんだ」


当たり前じゃないか?


魔王を倒すんだぜ…何でも手に入る。


「悪い、俺は字があまりな…」


知っていたさ。


此処で畳みかけるか…


「今までのお前は童貞の魔法に掛けられていたんだ、やりたい盛りの男がやれない状態で女三人と暮らすんだぜ…傍にいる女が特別な女に見えてきて当たり前だ…戦場に行くと女が居ない状態に何か月も晒されるからゴリラみたいな女騎士でも美女に見えるらしぜ…よくある事だ」


金で買えるレベルとはいえ『最高の女』を抱いた今のお前ならどうだ。



三人は平凡に見えるんじゃないか?


「確かに、大した女じゃないかもな」


そりゃそうだろう。


俺の前に居た世界で、三人クラスメイトでそこそこ可愛いレベル。


それが三人のレベルだとすれば、今日用意したのはナンバー1キャバ嬢にフードルクラスの女、外見だけならアイドルでも可笑しくない女だ。


「まぁ、今後どうするかよく考えた方が良い」


「そうだな…」


「それでな…親友のお前にお願いがあるんだ」


「なんだ急に…」


「あの三人にプレゼントしたり、デートするのを許してくれないか? ああっ勿論四職(勇者 聖女 賢者 剣聖)だから一線を越えたり、キスなんてしない」



「それなら俺と一緒に夜遊びした方が楽しく無いか?」


「それはそうだが…ガイアも含む4人とはもうすぐ、お別れだからな、小さい頃から10年以上一緒に居た幼馴染なんだ、前にも言ったが俺はお前達との思い出が欲しいんだ」


「あのよ…俺はもし魔王を討伐してもお前とは親友で居るつもりだぜ」


「無理だ、恐らく魔王城の手前の街で別れて…それが俺たちの最後になる。その後はガイア達が魔王を倒し…凱旋パレード、その後はもう俺なんか手の届かない所に皆が行ってしまう…もう無理なんだよ」


「でもお前、リタに…」


「俺だって1人は嫌だ!1人位幼馴染に傍に居て欲しいと思っていたんだ…まぁ寂しがりの俺の我儘だった…それが良く分かったよ」


「なんだか、悪かったな…良いぜ、三人と自由に付き合えよ、存分に思い出を作れば良い、だがあいつ等は4職だから魔王と戦うのに必要だ、一線は超えるなよ」


「解つている…だが良いのか? 三人ともお前の恋人じゃないのか?」


「そうだな…だが、理人…なんだかそれも解らなくなってきたんだ」


「まぁ時間は山ほどある、魔王と決着する時までに決めればいい…だが三人をとるなら、他は多分無理だぞ」


「ああっそれは解る…あいつ等は結構独占欲が強い」


「相談も気晴らしも俺が居る限り付き合うから、ゆっくり考えるといいさ」



「ああっそうしてくれ」


これで、3人から心が離れたかもしれないな。


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