竜二くんの卵焼き、凌空の卵焼き
さぁ次は、竜二くんの番だ。
スポーツで焼けた少し太い腕で、彼も彼で一生懸命、僕が教えた通りに工程を踏んでいく。
「どわぁっ!!あ、油入りすぎたっ!」
「竜二くん、落ち着いて!キッチンペーパーでしっかり吸い取ってあげれば大丈夫だよっ?」
「ぎゃ〜っ!!油が腕に跳ねてきたっ!」
「熱いから気をつけてねぇっ?!」
「とやっ!…えっ?!ま、巻けてない?!」
「上に持ち上げるだけじゃなくて、箸で支えつつ、しっかり手前に持ち上げる感じだよっ?」
「おおっ!きたきたっ!…ああっ!戻っちまった…泣」
「早くしないと焦げちゃうよぉっ!!頑張れっ!」
必死に焼き上げた竜二くんの卵焼きは、少し焦げが残った卵焼きになっちゃったんだ…。
でも、これはこれで美味しそうだし、頑張って作った気持ちがぎゅっと詰まっていたんだ。
「お、俺…やっぱ不器用だから上手くいかねぇのかな…」
ちょっと落ち込み気味な竜二くん…
でもさ、ここまで出来たことだけでも凄いことだよ?初めて作ったのに頑張ったじゃないか。
「竜二くん?初めてフライパンを握って、初めて卵焼きを作ったのに、ここまて形になってるのは凄いことだよ?大丈夫、絶対に上手く出来るようになるからねっ?」
僕は落ち込む竜二くんの肩に手を添えて、励ましの言葉をかけてあげたんだ。
「…俺は、あいつに…あいつに美味いって言わせたいんだ…!」
「…あいつ…?」
そう、それは竜二くんの大切な彼氏、
いつも馬鹿やって迷惑かけたり、美味しいご飯を作ってくれては、お腹を満たしてくれて…竜二くんにとって、なくてはならない存在…
そんな大地くんの為にも、竜二くんは恩返しも込めて手料理を振舞ってあげたい…
その気持ちで今は、このキッチンに立っている…なのに上手く行かない悔しさを竜二くんは滲み出させたんだ…。
その時だった…
「竜二、次は俺だ、俺の卵焼きも見ておけ」
な、なんでこのタイミングで凌空が張り切ってるんだよ…!ちょっと凌空の気持ちが読めなかったけれど、落ち込む竜二くんを前にして、凌空の調理が始まったんだ…
「…油はこれぐらい…か?」
「り、凌空っ!」
ジャーっ!!
あっ……卵、入れちゃった……
「…おいおいおい…!フライパンから卵が剥がれない!!」
「凌空、油が少なかったんだよ!」
「んなっ!油だけでこんなに変わるのか…」
「とりあえず巻ける所まで巻いて、2回目で少し多めに油を敷くよ!」
「わ、わかった…!……あ、やべっ!!!」
「こ、今度入れすぎっ!!卵が吸っちゃう前にキッチンペーパーで吸い取らせて!!」
「うわぁっ!焦げ焦げじゃねぇかっ!!」
「りっきゅん!頑張れっ!!!!」
竜二くんよりてんやわんや過ぎて、僕の方がヒヤヒヤしちゃったんだ…
でも、卵焼きを作り終わった凌空が竜二くんに微笑みながらも力強い言葉を差し伸べてあげていたんだ…
「竜二…?俺の見ただろ?俺もさ、いままでずっと紡に腹を満たしてもらって、フライパンすら握ったこともなかったんだ…でもさ、見てたら俺にも出来るのかも…なんて思ったけど、やっぱ料理は難しいよな?」
「俺より竜二の方が上手だし、ちゃんと形にもなってる。大丈夫、絶対に俺より上手く出来るようになるし、きっと大地も喜んでくれると思うぞ?…大地のために頑張って美味い料理を作ってやろうな?」
凌空もまた、竜二くんの肩をポンポンと叩き、竜二くんにエールを送ってあげたんだ。
凌空って、こういうところがカッコイイ…
次の次まで見据えて、行動出来るところが僕は尊敬してやまない…
だって、自分を笑いものにしながらも、励まし、鼓舞し、頑張れるぞ!って応援する…
人の前で失敗する事って、あまり見せたくないものなのに、それを恐れずに披露して相手を励ます…
すごい…すごいよっ…!
僕はやっぱり、凌空には敵わないな!
「何回か練習すれば、必ず自分のモノに出来るから、何度か繰り返してみようね?」
いつの間にか竜二くんの顔にも笑顔が戻り、僕たちはその後、何度か卵焼きの練習を繰り返していったんだ。
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