温めたフライパンにそっと…
俺たちのボールには、卵が綺麗に光り輝いている。早速、箸で卵を溶こうとする竜二を紡は止めた。
「溶く前にカラザを取るよっ!」
か、からざぁ?
聞いたこともない単語に、俺の目は点になってしまった…そっと航平と竜二に目を向けてみると、2人もなんだかしっくり来ていないような感じだったんだ。
「ああ!そうかそうか〜からざは取らなきゃダメだよなっ!!」
「…ねぇ竜二、それ分かって言ってる??」
「…あ〜っ…お、俺にだって分からないものなんて…おけ!わかんねぇやっ!☆」
満面の笑みで、だははと笑う竜二
それを見て、はぁっとため息をつく航平
良かった…分かってないのは俺だけじゃなかったようだと少しホッとしたんだ。
紡は指差しながら、俺たちにからざとやらを教えてくれたんだ。
「ほら、黄身の横にちょこんと白い塊みたいのがくっついてるでしょ?それをカラザって言うんだよ〜っ!」
「へぇっ〜!むぐ、なんでこれを取らなきゃいけないの??食べちゃダメなものなのぉ?」
「いや、食べらなくもないし身体に害はないんだけれどね?カラザがあるかないかだけで、食べた時の舌触りとか見た目が変わるんだよ?」
「料理って結構めんどくさい、ひと手間ってのがあるんだなぁ〜っ!…こんなちっこい白いヤツ…ブヨブヨしてんのに取れんのかぁ?」
「竜二くん、料理はひと手間加えるだけでグンっと美味しくなるから、そこは頑張って覚えてみてね?」
ニコッと、そして優しく俺たちに教えてくれる紡。
それに応えるかのように、俺たちは悪戦苦闘しながらもカラザを取り除き、次は調味料を入れていく。
砂糖、醤油に出汁を入れて…
で、出た?!マヨネーズ!!!
「む、むぐっ?!ま、マヨネーズなんか入れたら味、変になっちゃわないの?!」
「えへへ、これが隠し味だったりして!そしてね?マヨネーズを入れると、マヨネーズの油のおかげでふっくらと焼き上がるんだよっ?航平くん、僕の卵焼き食べてマヨネーズの味した??」
そう言われてみると…いつも食べてる卵焼きは、マヨネーズの味がしない…
航平も紡の問にううんっと首を横に振って答えていたんだ。
料理って…不思議だなぁ…
その後は、しっかりと調味料が混ざるようにかき混ぜていく。
竜二、かき混ぜるのは上手いな…でも、エプロンに要所要所、黄身がぶっ飛んでるぞ??
かき混ぜ終わった後は、少し狭めのキッチンにみんなで入り込み、焼き方を紡から教わった。
まずは、紡がお手本を見せてくれて、あれよあれよとふわっふわの卵焼きがお皿の上にちょこんっとお目見えしたんだ。
め、めちゃくちゃ簡単に作り上げちゃうもんだな…これ、俺たちに出来るのか…??
そんな不安と共に、俺たちの焼く番が回ってきた。まずは、航平から焼いてみることに…
「火の加減は…中火っ!☆」
「油の量は、500円玉ぐらいっ!☆」
「キッチンペーパーでふきふきっ!☆」
やっぱりなにかと要領がいい航平は、紡の教えられた通りにどんどん進めていき
「温まってきたら、卵を流し込んで…周りが少し膨らんできたら…とうっ!!!☆」
卵焼き用のフライパンを手首のスナップを効かせながら上手くひっくり返していく。
う、うまいな…!で、でもさ…そのままいくと、卵…た、足り…
「…んあ、あれれっ?!むぐっ!どうしよう…!卵、足りなくなっちゃったよっ!!」
やっぱり…2.3回に分けてフライパンに流し込む予定が、1回目と2回目で入れすぎてしまったんだ。そんな時でも紡のフォローは的確で
「そういう時は、最後の1巻分だけでも、流し込んであげたら大丈夫だよ?ちゃんとくっついてくれるからね?」
と手際よく航平の卵焼きを手直ししてみせる紡…おい、今お前…めちゃくちゃ輝いてて、カッコイイよ…??
手直しした卵焼きを、最後は航平の手でお皿に盛り付けていく。
お皿の上には、紡のお手本とは少し形は違うけれど、とても美味しそうな卵焼きが湯気を立てて、俺たちの嗅覚を刺激してきたんだ。
「やったぁい!ねぇ、むぐっ!僕、上手に出来たかなっ?☆」
「うんっ!とっても上手だったよ!これなら紡くんも喜んで食べてくれると思うよ?頑張って作ってあげてね??」
褒められて航平も満面の笑みを振りまいてくれた。
さぁ…次は俺たちの番だぞ…
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