俺の弱点〜焼くまでの下準備〜

 航平と竜二のエプロン姿を見て、2人とも似合ってて良かったと、俺の気持ちは少しホッとしていた。


 さぁ、料理教室が始まる。

 だが、キッチンにみんなで入るには、少し狭い。だから、卵焼きの下ごしらえは、バーカウンターにみんなで並んでやることにしたんだ。


 バーカウンターには、2人が使う耐熱ガラスのボールが並べられて、そこに卵と調味料も準備された。


「…凌空、はいっ!!!」


 ん…?な、なんだ、なんでボールがもう1個渡されるんだ…?

 2人分あるし、もう必要ない…よな?


「紡、ボールなら足りて…」


「りっきゅんも一緒に、作ってみてって事なんじゃないの〜?」


 航平がニヤニヤしながら、俺にそう告げてきた。な、なんで俺まで作らなきゃ…


「凌空、僕さ、ちゃんと料理を教えてあげられたこと無いかもしれないから…良かったら2人と一緒に覚えて欲しいなって、僕、思ったんだ…」


 …くっ…!そ、そんな可愛い顔で、俺にボールを渡すなっ!!!み、みんなの前で色々抑えるのでやっとになっちまうじゃねぇかっ!!


「…にししっ!りっきゅん、照れてるぅ!」


「はっ?!て、照れてなんかいねぇっ!」


「あははっ!可愛い〜っ!☆ むぐもそう思うでしょ?」


 航平の物怖じしない、このグイグイがなんでだろうこんなにも憎めない…なぜなら、綺麗に図星を突かれているからだ。


「まぁまぁっ!その話は置いておいて、料理教室始めるよっ!///」


 照れながら始まりを告げた紡

 結局、俺も2人と一緒に卵焼きの焼き方を教えてもらうことになったんだ。


 -まずは卵を割る。


 なんだ、こんな簡単なことは俺にだって出来る。割ってボールに入れるだけだろ?


 そんな事を思いながらも、3人で卵を割ろうとしたその時…


 グチャっ!!


「うおおっ?!紡さんっ!俺、やっちまったぁ!!!」


 グチャっと音ともに、竜二の声が響き渡る…力の加減が出来なかったのか、卵を割るどころか潰しちゃったようだ…


「竜二、ほんっと馬鹿力???」


「うるせえっ!こんなに繊細でちっこいもん、どんな力で割るんだよっ!!」


「もっと優しく扱えばいいんだよぉ〜!」


 と、航平はコンコンっと卵に上手にヒビを入れ、程よい力加減でボールに卵を割って見せた。


「ほらっ!ちゃんと割れたぁ〜☆」


「おおおっ…航平すげぇなっ…優しく…かっ!よし、俺も、も1回やってみっかっ!」


 竜二は、新しい卵を紡から受け取り、今度は優しく…そして慎重に卵へヒビを入れ、手がプルプルと震えながらも、ボールの中へ綺麗な白身と黄身を解き放ったんだ。


「うおおおっ!!!出てきた出てきた!!やっぱ俺、やっれば出来るじゃ〜ん!!」


 竜二もなにかと調子がいい。

 卵を綺麗に割れた事にすごく満足そうで、俺らにドヤ顔を決め込む。


 まだ…卵割っただけだぞ…??


「りっきゅんもほら、早く割らないと!」

「凌空さん、早く早くっ!」


 はぁ…そんな急かすなよ…急かさなくたって卵ぐらいは、サッサっと割れるさ…!


 コンコンっ…!!!パカァっ!

 ほら、綺麗に割れた!全然問題ないなっ!


「…凌空…?殻、入っちゃってるよ??」


 と紡がクスッと笑いながら声をかけてきた…

 う、嘘だろ?とよくボールを見てみると、一欠片の殻が白身にプカプカと浮いていたんだ…


「あははっ!りっきゅんも完璧ではないんだねぇ☆」


「なんか、凌空さんってイケメンでなんでも出来るのかなぁ!なんて、勝手に考えちまってましたわっ!」


 ふ、2人して俺の事を茶化しやがって…!…誰にだって得意不得意はあるんだよっ!俺は、特に料理になんか無縁だったんだし、むしろ食べる専門だ…!


「完璧な人間なんて、そうそういないさ!隠すことねぇよな?俺は、料理が全く出来ん!紡に胃袋を掴まれてるからな!」


「なんだよぉ〜!りっきゅん、惚気かよォ〜っ!」


 と少しばかしムスッとする航平とは裏腹に、ちょっとだけ落ち着かない竜二。


「竜二、どうした?」


「い、いや…胃袋掴まれてるって言うから…ああ、俺もそうなのかもな…なんて思っちゃって」


 ん…?という事は、竜二にも恋人がいるのか?どんな子なんだろうな?でも、料理が上手い子なんだろうな…??


 そんな俺の思いを悟ったかのように、竜二は言葉を元気よく紡いだんだ。


「ははっ!俺も隠すことなんかねぇんだなっ!俺、ゲイなんで!んで、大事なヤツに料理振舞ってやりたくてさ…!いつもうめぇメシ、食わせてくれるからさ、喜んでくれるといいなって…!」


 馬鹿力で腕白な裏には、ちゃんと彼氏の事を思う純粋な心があって、竜二の思う気持ちがみんなに伝わった瞬間だったんだ。


「そうだよね…うん!僕も紡が喜んでくれると嬉しいなっ…」


「んんっ?どういう事なんだ?だって、話の流れ的に紡さんと凌空さんは付き合ってるんだろっ…?」


「そこら辺は説明したら時間かかるから、また今度ね!僕も大切な人、大切な彼氏のために料理を習いに来たんだ!あははっ!みんな仲間だねっ!☆」


 そう、この料理教室は、みんなが同性愛者であり、大切な人のために料理を振舞ってあげたい…その気持ちで参加してくれていたんだ。


「それなら、尚更、僕の料理で2人の恋人に幸せを届けられるようにちゃんと教えるから、しっかり覚えて帰ってね?」


 大切な人に幸せを届けたい。

 そうか、そうだよな…俺も紡に美味しい卵焼きを焼いてあげられるのかな?


 そんなことを心で思いながら、料理教室はその後も楽しく進んでいったんだ。



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