第8話 ギルド長の家で

 結局、夜はギルド長の家でお世話になることになった。


 ギルド長の家は、東門のギルドから南へ20分程歩いた5階建てのマンションと言う建物にある家で、子供は既に独立して、今は奥さんと2人暮らしをしているそうだ。


 玄関で奥さんが出迎えてくれて、優しく話し掛けて来た。


「まあまあ! 可愛いお客さんね。お腹は空いているかしら? 直ぐにご飯の用意をするわね。ふふふ」


 可愛い……あぁ、見た目は5歳だからか。


「悠斗です。お世話になります」


 ペコっと少し頭を下げる――こっちでは、丁寧に挨拶する時に頭を下げる習慣があったはず。


「悠斗……さっきと違って礼儀正しいな。『お世話になります』なんて、5歳児が使う言葉じゃないぞ」


 ギルド長、お世話になる人には丁寧に話さないとね。だけど、僕の話し方はかなり子供っぽくなったな……。


「ふふ、こんなに可愛いお客さんなら、いつでも大歓迎よ。悠斗君、お肉は好きかな?」


「あっ、お肉なら新鮮な肉を持っているから、焼いてもらっても良いですか?」


 今夜の宿代にと、何の肉かは言わずにワイバーンの肩ロース肉を出した。


 この肉は、向こうの世界の貴族でもなかなか手に入らないんだよ。


 ギルド長の奥さんは、「まあ、美味しそうな肉ね。悠斗君、ステーキにするわね」と言って嬉しそうに肉を持って行った。


「悠斗、ウサギの肉は売らなかったのか?」


 ギルド長は何でウサギの肉だと思ったんだろう? ウサギの魔石や毛皮を出したからかな?


「肉は自分で食べるから売らない」


「お前……しっかりしているな」


「良く言われる」


 見た目が5歳でも普通の子供とは違うからね。


 テーブルに料理が並べられた。ウサギ肉と玉ねぎのスープとワイバーンのステーキ。美味しそうだ。


 テーブルの真ん中に、小さな小皿に入れたサプリメントが置かれた。それは、朝、孤児院で飲んだからいらないと言うと、大人は1日2袋飲むらしい。


 子供は1袋で足りるけど、大人は2袋飲まないと栄養が足りないそうだ。なるほどね。


「グフォ!? おい、悠斗、これ……ウサギ肉じゃないじゃねーか! 旨すぎる!」


「そうだよ」


 肉を頬張ったギルド長が叫ぶように言うけど、僕はウサギ肉だとは一言も言ってない。


「とっても美味しいわね~! 初めて食べる肉だわ……悠斗君、この肉は何の肉なの?」


 フフ、奥さんはニコニコしてご機嫌だ。


「この肉はワイバーンの肩ロース肉だよ。美味しいでしょ?」


「なっ、何だとー! ワイバーンはランクAの魔物だぞ!」


 この時代でもワイバーンはランクAか。魔物のランクは昔と変わらないのかもね。


 ダンジョンの中でドロップするワイバーンの肉は脂が少なめで、『彼女』はランプかモモ肉みたいねって言ってたよ。


 ダンジョンの外でワイバーンを狩ると、色んな部位を楽しめるんだ。この肩ロースの肉は、旨味と少しくせがあって脂が甘くて柔らかいんだ。サーロインはもっと美味しいけどね。


「へえ~、ワイバーンの肉って美味しいのね。今度、スーパーで見かけたら買うわ。ふふ」


 ギルド長がテーブルを叩いて立ち上がり、かがんで僕に頭を近付けて大声を出す。


「……お前、ワイバーンの肩ロース肉なんて、スーパーなんかでは売ってないぞ。競売に掛けられる肉だ。何で悠斗はワイバーンの肉なんて持っているんだ!?」


 えっ、ワイバーンの肉を競売に掛けるのか? あっ、日本では『氷魔法』が使えなくても、冷凍技術が発達していて簡単に肉を冷凍できるんだったな。


「ちょっと、あなた! 小さな子供に大声を出すなんて何を考えているの!」


「あっ、悪い悠斗……」


 ギルド長が奥さんに怒られて小さくなった。フフ。


「ギルド長、どうやってその肉を手に入れたか話すよ……」


 大阪に来る途中、列車を攻撃していたワイバーンを見つけて、魔法で片翼に穴を開けて、空から落ちて来たワイバーンを魔法で狩ったと話した。


 奥さんは「えっ、悠斗君が魔物を狩ったの? 凄いわね~!」と言い、ギルド長が「そんな訳ねーだろう!」って、また怒鳴どなる。


「あ・な・た! いい加減にしてください……」


「あっ……すまない」


 奥さんがギルド長をにらみつけている。ギルド長、きっと後で説教されるよ。


 その後、ギルド長に僕は強い魔法を使えると言っても「子供が使える訳ないだろう!」と言い張る。本当のことを話しているのにね。


「悠斗、ステータスが発生するのはダンジョンで……まさか、お前その歳でダンジョンに入ったのか? 亡くなった親がハンターで、一緒に入ったとか……有り得んだろう」


 あきれるように言われたけど、違うよ。


 ――もしかして、未だにこっちの世界ではスキル持ちが生まれないのか? そう言えば、ダンジョンに入るとステータスが見えるようになるって誰かが言っていたな。


「ギルド長、調べたいことがあるんだけど、大阪の周りの街が書いてある地図はある?」


「ん……大阪の周りの町だと? 悠斗は大阪に来たかったんだろう?」


 そうなんだけど、ここじゃなかったんだ……。


「神戸から東の街が大阪だっただけで、どこに行きたいかって聞かれても、街の名前を知らないから答えられないんだ。大阪を出て、あっちに行きたい……」


 手を上げて、『彼女』を感じる方を指差した。


 ギルド長は、悠斗1人だけで大阪から出せないからなと言いながら、僕が指を指した方を見る。


「あっちか……ここから東の方角にあるのは枚方ひらかただ。町って言うより都市だがな」


「都市……?」


 ギルド長が、メモ用紙に簡単な地図を書きながら教えてくれる。


 人口が増えたら『村』が『町』になって『都市』になるんだと……ん? 日本では『まち』じゃなくて『まち』なのか。


「都市は人口の多い大きな町のことだ。小学校に行くようになったら勉強するぞ。こんな話、悠斗には難しかったな」


「いや、勉強になるよ」


「その向こうは伏見ふしみと京都だな。宇治うじには、ハンターギルドの施設はあるが、まだ町じゃない」


「……ハンターギルドの施設だけ? 町じゃないってどういうこと?」


 ギルド長が言うには、宇治のダンジョンは最近できたダンジョンで、発見するのが遅れてJDAが攻略できなかったダンジョンだと言う。


 新しく出来たダンジョンは、発生から48時間以内に見つけたら、魔物が少ないから完全攻略が出来るらしい。


 <宇治ダンジョン>には、まだハンターギルドの施設しかなくて、1つ目の防壁が出来たらハンターや住民を受け入れるんだって。


「へえ~、なるほどね」


「大阪に近い場所だと、<箕面みのうダンジョン>と<吹田すいたダンジョン>にハンターギルドが管理する施設があるぞ。箕面はだいぶ人口が増えたって聞くがな」


 ――箕面ダンジョンは覚えている。


 その後、ギルド長に神戸での話を聞かれたので、仲が良かった一輝のことや、スタンピードのことを話した。

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