第9話 翌朝、ワイバーン換金

 ギルド長に風呂に入るぞと言われ、1人で入れると言ったら「風呂で溺れたらどうするんだ!」と、抱きかかえられて風呂場に連れて行かれた。


「悠斗、お湯を掛けるぞー。目をつむれー」


「うん……」


 ギルド長に髪と体まで洗われたよ。


 湯船につかろうとして思いついた。


「そうだ! ギルド長、僕の魔法を見せるよ」


「ハハッ、悠斗、どんな魔法を見せてくれるんだ?」


 ギルド長、直ぐに笑えなくなるからね。


 湯船に向けて『水魔法』を放って大量の水を溢れさせたり、その水を『火魔法』で沸騰させたりした。


「なっ、な―!? 水と『火魔法』だと……マジか……」


 ギルド長の顔をチラッと見ると、面白いほど変化する。フフ。


 次に湯船のお湯を『氷魔法』で凍らせると、ギルド長の動きが止まったと思えば、目と口が大きく開いて、顔が白くなったり赤くなったり忙しい。


 挙句あげくの果てには体がプルプルしだして、あっ、それ以上口を開いたら……あごが外れるよ?


「何ー!? 『氷魔法』まで使えるのか! 何でだ……」


「ギルド長、僕はもっと強い魔法も使えるし、倒したワイバーンの頭や魔石も持っているんだ。見る?」


 脱衣所に置いたリュックを持って来て、ワイバーンの頭と魔石を取り出して見せると、ギルド長は口を半分開いたまま固まっている。


「マジか……ワイバーンの頭だと! 悠斗がワイバーンを倒したって本当だったのか!? お前、とんでもない奴だな……しかし、何でその歳で色んな魔法が使えるんだ……親が覚えさせたのか? おかしいだろう……」


 ギルド長がブツブツ言い出した。


「ギルド長、信じてくれた?」


 嘘は言ってないよ。言ってないことはあるけどね。


「……ああ。悠斗、それ……どこから出したんだ!?」


 あっ、しまった。


「う~ん、アイテムバッグ?」


「お前……アイテムバッグまで持っているのか!」


 ギルド長の顔は真っ赤で、目がこれ以上は大きくならないだろうなって位に見開いている。こめかみがピクピクして……フッ、変な顔。


「あっ、そうだ。ギルド長、言っておくけど、僕を孤児院に入れるって言うなら逃げるからね」


「何だと!?」


 ギルド長に、僕が孤児院に入らないといけない理由を教えて欲しいと言った。


 ギルドでは、ハンターでなくてもアイテムを買い取ってくれる。普通に魔物を狩って稼げる僕が、孤児院に行かないといけない理由……


「ギルド長、教えて?」


「むむむー、理由!? それは……」


 子供だからとか言わないでくれるかな? 納得したら孤児院に入るよ。『彼女』に会いたいから少しの間だけね。


 ギルド長が腕を組んでうなり出した。



 ◇◇

 翌朝、朝ごはんもご馳走になり、ギルド長の奥さんにお礼を言って家を出た。


 通りには人が多くて、車もかなり走っている。


「悠斗、本当に枚方に行くのか?」


「うん、準備が出来たら行く。ギルド長、買い物が終わったらギルドに寄るね」


 昨日、お風呂の後に、ワイバーンの素材をギルドで買い取らせて欲しいって言われたんだ。


 ワイバーンを買い取ってくれるなら、リュックの容量も空くから換金してもらうことにした。


「悠斗、買い物って何を買うんだ? お金は足りるのか? 素材を換金してからの方が良いんじゃないか? それに、昨日大阪に来たばかりなら、店を知らないだろう?」


 そう言われたらそうだけど、心配しすぎだ。


「買いたい物は調味料と野営道具かな」


 後は、僕が使えそうな短剣が欲しい。


 店は誰かに聞いたら分かると言ったら、ギルド長が付いて来ると言い張る。


「悠斗、5歳の子供が、知らない町を1人でウロウロするなんて危ないじゃねーか!」


 以前の『日本』は治安が良かったけど、今は違うのかな? それにしても、ギルド長はまるで僕の父親……いや、祖父みたいだね。


「ギルド長、1人でも大丈夫だよ。昨日、僕の魔法を見て、普通の子供じゃないって分かっただろう?」


「そうだが……」


 口に出して言わないけど、身の危険を感じたら人にだって容赦なく撃てるよ。


 まあ、ワイバーンを換金してくれるなら先にギルドに行ってもいいか。所持金が増えたら買い物がしやすいし、大阪から東にある町についても調べたいからね。


「ギルド長、ハンターギルドに、近くの町やダンジョンについて書かれた資料とかある?」


「ああ、あるぞ」


「じゃあ、先にギルドに行くよ」


「おう! 悠斗、買い物にはついて行くからな!」


 何故かギルド長が嬉しそうに言う。もしかして、僕を孫扱いしている?


「別に良いけど……」


 あ、ギルド長、手をつなごうとしないでくれるかな。


 ◇

 今、2階にあるハンターギルドの応接室で、ワイバーンの魔石や爪、肉をはぎ取った残りをテーブルに並べている。


 応接室に連れて来られたのは、ワイバーンを換金するのが僕だと知られないようにする為だって。知られたら、ややこしいらしい。


 まぁ、向こうの世界でも、5歳の子供がワイバーンを狩るなんて聞いたことないかな。


 んー、テーブルには並びきれないな。まだ尻尾の部分や、大きな残骸があるんだけど。


 切り取ったサーロインとかの美味しい肉は売らないけど、肉だってまだまだ残っている――モモ・ランプ・バラ肉とか、尻尾の肉も食べられるんじゃないかな。


「悠斗……ワイバーンは魔法で狩ったのか?」


「ギルド長、昨日、話したよね」


「ああ、だが……んー」


 ノックがして、昨日、買取りカウンターで担当してくれたベテランの職員が入って来た。中村……だったかな。


 ギルド長から聞いたけど、2人は若い頃に一緒にダンジョンに入っていたパーティーメンバーだって。


「おい……。ギルド長、これは……どういうことだ?」


 中村が、テーブルの上のワイバーンの残骸を見るなりため息交じりにつぶやいた。


「中村、アイテムバッグを持って来たか? あ~、詳しいことは後で話すが、簡単に言うとだな……悠斗がワイバーンの素材を持っていたんだ。他のギルドに持って行かれるより、うちで換金してもらう方が良いだろう?」


「それはそうだが、どうして悠斗君がワイバーンの素材を……これをどうやって持ち込んだんだ……あぁ、アイテムバッグを持っているのか」


「……」


 返事はしないけど、冒険者……ハンターならアイテムバッグを持っている奴は多いだろう。ダンジョンのボス戦で良く出るからね。


 中村も、他のギルドに出されるならうちで出して欲しいと言うから、ランクの高い魔物の素材を扱うと、ギルドの評価が良くなるのかな?


「大きいのがまだあるんだけど、そっちの部屋のすみに出していい?」


「悠斗君、ちょっと待ってくれ。先にテーブルのやつを入れてしまうから」


 あ、忘れずにワイバーンの頭を出しておこう。


 ワイバーンを換金してもらっている間に、ギルド長に資料室に連れて行ってもらった。


「悠斗、俺か中村が呼びに来るまでこの部屋から出るなよ。俺はちょっと仕事を片付けて来る」


「分かった」


 先ずはここから東にある町について調べよう……町の名前は枚方ひらかただったな。


 ついでに『ハンターギルドの案内』を読んでみると、初心者支援について説明が書かれている。


 へえ~、これはかなりいいね。


 ◇

 しばらくして、ギルド長が呼びに来た。


 応接室に行くと中村がいて、ソファーに座ると、中村が隣に座って書類を見せながら僕に説明をする。


 ランクAの魔石が200万円、ワイバーンの爪と皮で270万円、残りのワイバーンの肉を250万円で買い取ってくれるらしい。


「悠斗君、ワイバーンの買取り額は、解体代金を差し引いて、総額で720万だけど良いかな?」


 それが適正な買取り価格なのか分からないけど、それだけあれば、スーパーでプリンを見かけたら迷うことなく買えるな。


「うん、いいよ」

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