第7話 ハンターギルド

「大阪に来る途中で魔物を狩ったんだ」


「ん? 大阪に来る途中って……どこから来たんだ?」


「神戸」


「……どういうことだ? まさか、神戸から1人出来たのか?」


――面倒だな。


「そう」


 リュックから魔石と狼とウサギの毛皮を出して、自分は孤児で神戸から来たと言った。換金してもらったら逃げようか。


「えっ!? これは……君が魔物を倒したのか?」


「うん」


「これは……君が、ウサギと狼の毛皮を解体したのか!?」


 あっ、毛皮は出さない方がよかったか……5歳児が魔物を解体。無理があるけど、もう出してしまった。


「えっと、本を見ながら……先生に教えてもらった?」


 男性は「嘘だろう? こんなに小さな子供が……」って、ブツブツ言いながら換金してくれた。良かった。


 ゴブリンの魔石が9個、ウサギの魔石が6個と毛皮が6枚、狼の魔石6個と毛皮が6枚で43,500円。内訳は、

 ――――――――――――――――

 ・ゴブリンの魔石(E)9個×300円=2,700円

 ・ウサギの魔石(E)6個×300円=1,800円

 ・ウサギの毛皮6枚×500円=3,000円

 ・狼の魔石(D)6個×5,000円=30,000円

 ・狼の毛皮6枚×1,000円=6,000円

 ――――――――――――――――

 手持ちのお金5,750円と合わせると49,250円になった。これだけあれば、宿に泊まれるだろう。


「僕が泊まれそうな安い宿を教えて欲しい」


「宿ってホテルか? 君は、大阪に知り合いはいないのか? ちょっと待て、小さな子供をこのまま帰すわけには行かない……」


「……」


 黙って立ち去ろうとしたら、買取りカウンターの男性に手首を摑まれ、何やら独り言を言い始めた。


 あぁ、耳掛けのイヤホンをしているから、誰かに電話をしているのか。孤児院で園長や先生が使っていたやつだ。凛が一輝に、腕時計と携帯電話が連動していて便利だと話していたな。


 ――不味いな。


 ベテランの職員は、電話が終わっても僕の手首を話さない。


「2階の応接室まで来てくれ」


「うん……」


 ◇

 買取りカウンターの男性に手を引かれ受付カウンター横の奥に行く。


 階段だと思って1歩足を乗せると動き出した!? これは……階段に似せて作られたエスカレーターだったかな。


『身体強化』を掛けているから転ぶことはないけど、慣れていないから最初の1歩目が少しふらつく……これも魔石と太陽光で動いているのか。


 2階で通された部屋には、長方形の低いテーブルと、背もたれがあるクッションのきいた長椅子が向かい合うように2つある。


 長椅子の間には1人掛けの椅子があって、部屋の角に小さめの四角いテーブル。


 あっ、こんな感じの部屋は知っている。飾り気のない質素な部屋なのに、客をもてなす部屋だと聞いたな。


「ここに座ってくれ。そう言えば名前を聞いてなかったな。俺は中村、君は?」


「僕は悠斗、5歳」


 前世は長生きしたけど……いくつで死んだのか覚えてない。


「ご、5歳か……ゆうと君、苗字は?」


「知らない」


 こっちの世界では、庶民でも苗字があるのは知っているけど、神戸の孤児院では悠斗としか呼ばれなかったからね。ステータスにも『悠斗』としか書かれていない。


 ゆうとはこんな字を書くんだと、横のテーブルにあったメモに書いた。ステータスを見ながら『悠斗』と書いたけどかなり下手で、自分で書いていて笑える。フフ。


「それは……漢字か?」


 中村が驚いた顔で僕を見ているけど、これ読める?


 その後、簡単に先生から聞いた生い立ちを話して、大阪に来たかったから孤児院から抜け出して来たと正直に言った。前世の記憶のことは話さなかったけどね。


「そうか、大阪に来たかったのか……」


「うん、そうだよ」


 あぁ~、何だか話し方が年齢に引きずられているのか、子供っぽくなるな。


 ドアをノックする音と共に、体格の良い男性が入って来た。白髪交じりの黒髪に黒目、50代かな? 中村と同年代に見える。


「中村、この子が神戸から1人で来たのか? 魔石を持っていたんだって?」


「ああ、ギルド長、この子の名前は悠斗君で5歳らしい。彼が魔物を狩って、魔石を取ったそうだ。ウサギとゴブリン、狼もな」


 この人がギルド長なのか。


「はあ~? 5歳の子供がゴブリンと狼もか! 有り得んな……で、悠斗、何で孤児院を飛び出したんだ? 誰かにいじめられたのか?」


「違う。園長に大阪に行きたいと言ったら、成人まで待てと言われたから」


「悠斗……それは、当たり前だぞ」

「悠斗君……」


 普通の子どもならね。2人とも、残念そうに見ないで欲しい。


「神戸から来たのなら北門からか……悠斗君、どうやって町の中に入ったんだ?」


 中村の質問にギルド長がじっと僕を見る。


「……こっそりと」


「なっ、入れるのか!? 門の管理はどうなっているんだ!」

「……確かに問題だな。悠斗君が入って来られるなら魔物だって入れる」


 それはどうだろう。透明になれる魔物なんて聞いたことがないからね。あ~、空からは入れるか。


「それで悠斗、何でそこまでして大阪に来たかったんだ?」


「……」


 会いたい人がいると言いたかったけど、根掘り葉掘り聞かれそうだからうつむいて答えなかった。


「悠斗、話せないのか? しかし、良く無事に大阪まで来られたな……仕方ねぇな。悠斗、今夜は俺の家に来い。明日、孤児院に連れて行ってやる」


 孤児院……又、孤児院に入れと言うのか? ワイバーンを倒せたから普通に魔物を狩って稼げるし、買い物をしたら大阪を出るつもりだけど。


「ギルド長、お金は持っているから安い宿を教えて」


「バカを言うな! 5歳の子どもが1人でホテルになんて泊まれないぞ。身分証すら持っていないのに……警察沙汰になる」


 えっ、子供は1人で宿……ホテルに泊まれないのか? それなら野営道具も揃えないと……持っているお金で足りるかな?


 ギルド長から、大阪には2つの孤児院があるから明日にでも連れて行くと言われた。


「中村、神戸の孤児院に問い合わせしてくれ。きっと、悠斗を探しているぞ」


「そうだな……」


 今、慌てて逃げなくても、今夜どこかで泊まらせてもらって、明日の朝逃げれば良いか。

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