第4話 スタンピード
外に出て、フルーツナイフを片手に魔物を探す。
街に入ってきた狼を狩る冒険者……いや、ハンター達を見かける。
あっ、路地裏にゴブリンを1体見つけた――見た目は前と同じだ。
「僕があのゴブリンを倒す。一輝は離れて」
「悠斗、危ないから俺が行く! ゴブリン! 俺が相手だ……」
一輝がバットを手に僕の前に出たが、怖いんだろう……体がブルブルと震えている。
背の低いゴブリンでも、10歳の一輝よりは大きくて、顔が
遊戯室にある魔物の本に、本物を写し取った写真があったけど、実際に見たら怖いよね。
だけど、ゴブリンは弱い魔物で、1体だけなら冒険者の新人でも狩れる魔物だ。
「一輝、僕は5歳だけど割と強いんだよ。もっと強くなるけどね」
『身体強化』を掛け、一輝の横をすり抜けてゴブリンに突っ込んだ。
「悠斗!」
『ギャギャ――!』
僕に気付いたゴブリンが、ボロボロの片手剣を振り上げたと同時に『風魔法』で腕を斬り落とす。ゴブリンの胸元に突っ込んで、フルーツナイフでゴブリンの首を深く斬りあげ、後ろからゴブリンの心臓めがけてナイフを深く突き刺した。
『グゲッ! ギャァ……』
う~ん、ゴブリンは倒れたけど……このフルーツナイフだと一撃では倒せないな。片手剣が欲しいけど……あっ、片手剣だとブレイド(剣身)を引きずってしまうか。
それにしても……この身体は、昔に比べて弱過ぎる。
「えっ……魔法!? 悠斗、魔法を使えるのか!?」
「魔法を使えるって言ったじゃないか……そんなことより、一輝、ゴブリンの魔石がどこにあるか知っている? ここにあるんだ」
ゴブリンの心臓横をナイフで突き刺し、この辺りに魔石があると教えた。一輝が将来ハンターになるなら知っておいた方が良いからね。
「悠斗、ナイフの使い方も本物のハンターみたいだな……」
ナイフにカチッと何かが当たる。フフ、僕の幸運は健在だね。ナイフで大人の親指ほどの小さな魔石を取り出した。
「一輝、あったよ」
「おおおー、魔石だ! ゴブリンの魔石って灰色なんだ」
向こうの世界のダンジョンと日本のダンジョンは同じ仕組みで、ダンジョンによって出て来る魔物とドロップアイテムが違う。
ダンジョンの中だと、倒した魔物は消えて魔石やアイテムを落とすけど、100%の確率で出る訳じゃなく、攻撃をした人のステータス『幸運』値に左右される。
ダンジョンの外に出た魔物は、倒しても消えないんだ。魔石があるかどうかは、攻撃をした人のステータスの『幸運』値に左右される。外で倒した魔物の肉や爪の部位は100%取れるけどね。
向こうの世界では、自分で解体するか冒険者ギルドに持って行って解体してもらうんだけど、たぶん日本のハンターギルドも解体してくれるだろう。
「一輝、僕が最初に魔法を撃つから倒してみる?」
最初に僕が魔法を撃つ――魔石が欲しいからこれは譲れない。
「ああ、やってみる!」
ゴブリンが持っていたボロボロの片手剣を一輝に渡して、次の獲物を探す。
次に現れたのもゴブリンだったので、さっきと同じように武器を持っている手に『風魔法』を撃つと、一輝が「わああー!」と声を上げてゴブリンを斬り付けた。
子供だから力が足りないのと、命中率が悪くて、5撃目の攻撃でやっとゴブリンが倒れた。
「悠斗みたいに2回で倒せなかった……」
「そのうち慣れるよ。一輝、魔石を取り出して」
「ああ、任せろ」
出くわすハンターに、「子供が、何で外に出ているんだ! 家に帰れ!」と怒鳴られるのを無視して魔物を探す。
「悠斗、狼だ!」
一輝が目を向けた方を見ると、焦げ茶色の大きな狼が
一輝に、狼の毛皮は売れるか聞いてみたら、
「ああ、魔物の本に売れると書いてあったぞ」
「じゃあ、なるべく毛皮を傷つけないように僕が倒すよ」
一輝に狙うのは首か腹だと教えると、一輝がゴブリンの剣を使うかと差し出して来たけど遠慮する。
『身体強化』を掛けているから重いのは問題ないけど、長さがね……自分の身長より少し長いんだ。剣を引きずっているようにしか見えない。
「一輝、狼はこのナイフだと難しいから魔法で倒すよ」
「おおっ、魔法を使うのか!?」
狼の首を狙って、大きな剣のような強めの『風魔法』を撃つ。毛皮を傷めないようにしないとね。
『ギャワン! ゲボッ……』
この身体だと魔法の方が使いやすいな。
「魔法で1発!? 悠斗、凄いな……」
「記憶があるからね。でも、実際に僕がどれだけ動けるのか分からないんだ。魔法も、どれだけ威力があるか分からないから試したかったんだよ」
ゴブリンや狼の強さは、前と変わらない気がする。魔物のランクで言うとEとDかな。
「そうか……本当に前世の記憶があるんだな。でも、悠斗、それは他の人には言わない方が良いぞ」
「そうだね。一輝に言う前に園長にも言ったんだけど大笑いされたよ」
「ハハ、だろうな」
僕達が狩ったのは、ゴブリンが3体と狼が2匹。魔石を取って、ゴブリンは放置で狼は……アイテムバッグのリュックに入れようか悩んだけど、狼の出し入れを人に見られて絡まれるのも面倒だから、ギルドまで引きずって行くことにした。
「悠斗、狼は俺が持つ」
「うん。一輝、疲れたら交代するよ」
狼2体なんて重くもないんだけど、僕の見た目が5歳だからね。10歳の悠斗が引きずって僕が手伝う方がいいだろう。
街の南門近くにあるハンターギルドの買取りカウンターに行くと、魔石の買取価格が貼ってあった。
『魔石の買取り価格:ランクE=300円、ランクD=5,000円、ランクC=1万円、ランクC+=5万円、ランクB=50万円、B+=100万、ランクA=200万、A+=400万、ランクS=1,000万』
う~ん、お金の価値が分からないな。魔物のランクは前と同じかな?
「えっ、お前達2人で魔物を狩ったのか!?」
買取りコーナーにいるギルドの職員が驚いている。まあ、10歳と5歳だしね。
「こ、孤児院に入って来ようとしたんです……必死で……」
一輝、嘘が上手いね。
「そ、そうか。それにしても……狼の毛皮の状態がかなり良いな。本当にお前達が倒したのか? 信じられないが……で、ゴブリンの右耳は?」
「「えっ?」」
「ああ、知らないのか。ゴブリンは、
そう言われれば、向こうの世界にもあったな。外のゴブリンなんて久しく狩ってないから、すっかり忘れていた。次からは気を付けよう。
換金してもらうと、ランクEのゴブリンの魔石が3つで900円、ランクDの狼の魔石が2つで10,000円。狼の毛皮は解体代金が引かれて2つで600円。合計11,500円だった。
ハンター登録していないので現金――紙幣と硬貨でもらった。登録していたらハンターカードに入金されるそうだ。
一輝と半分にして5,750円。フフ、初めての収入だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます