第5話 出発
5,750円――お金が手に入ると何か買いたくなる。フフ、まるで子供みたいだな。
一輝に何が買えるのか聞いてみると、自動販売機で売っているジュースが1本200円。
スーパーで売っている栄養サプリメント(錠剤)が1袋300円、ウサギ肉の
――ん? 一輝にウサギ肉の竜田揚げがどんなのか聞いたら、粉を付けて油で揚げているって言う。唐揚げに似ているかも……それは食べてみたいな。
支払いは現金かカード払い。成人したら発行される身分証のカードにお金を入金して買い物が出来るらしい。
ハンターギルドが発行するハンターカードにも同じ機能が付いているそうで、ハンターギルドに登録したら2枚のカードを持つことになるそうだ。
「一輝、スーパーでパンは売っている?」
「パンは売っていない。高級レストランに行ったらメニューにあるって聞いたぞ」
材料の小麦機が、海外からの輸入でしか手に入らない高級品だと言う。
「へえ~。プリンは?」
一輝にどうしてパンやプリンを知っているのかと聞かれたから、前世の記憶にあるんだと答えた。
「マジか! 学校で、昔はみんな食べていたって聞いたけど、悠斗はアレを食べたことがあるのか!?」
「ある」と答えたら、一輝が羨ましそうな顔をする。フフ、あれは凄く美味しいんだよ。
時々、一輝は学校の帰りにスーパーに寄って、食料品コーナーをチェックしているそうで、肉はいつも売っているけど野菜は少ないらしい。
パンは売り場すらなく、プリンは1,100円位の値札があるけど、売っているのを見たことがないらしい。
――そうか、プリンの売り場はあるのか。
プリンを見つけたら絶対に買ってしまうだろう。今は手持ちが5,750円しかないから、スーパーに行くのは止めておこう。今はね。
今日、出発しようと思っていたけど、スタンピードの影響で門は閉められているだろう。
街の中に魔物が残っていないかチェックした後、街の周りに残っている魔物を狩るだろうから、門が開放されるのに数日掛かりそうだな……一輝の学校が始まったら門も開放されているだろう。
◇
帰る頃には昼を過ぎていて、一輝と初めての狩りの感想を話しながら孤児院に戻ると、孤児院の玄関で園長が鬼の形相で立っているのが見えた。
それを見た一輝が固まって、野球のバットとゴブリンの剣を落とした。
ガシャ。ボトッ、コロコロ……
「一輝! 悠斗! お前ら……園長室へ来い!」
「うわっ! 園長、ごめんなさい……」
「うん……」
今まで一度も入ったことのない園長室に連れて行かれ、大目玉を喰らった。
何で外に出たんだとか、今まで何をやっていたんだと聞かれ、一輝が正直に答える。
「一輝まで魔法が使えるとか、寝ぼけたことを言っているのかー!」
「俺じゃなくて! 悠斗が使えるんだ……」
一輝は本当のことを言ったんだけど……更に説教の時間が伸びた。
「園長には怒られたけど、魔物を倒したのはいい経験だったよな……悠斗、決めた! やっぱり、俺はハンターになる」
「フフ、一輝はゴブリンを狩ったから、もうハンターだよ」
「え、そうか……うん、そうだな! ハハ、悠斗、腹が減ったな~」
「うん、昼抜きだしね」
2人で遊戯室に向かったら、扉の前で凛が腕を組んで立っていた。
「ちょっと、一輝と悠斗! 何で外に出たのよ!」
「うわぁ……凛もいた」
一輝が小さな声で、「悠斗、凛に何も言い返すな。言い返したら、園長より話が長くなるからな……」と言う。
「一輝……分かった」
それから凛の説教が始まり、一輝と黙って凛の話を聞いた……長い。
夕食が始まる頃には解放してもらったけど、あ~、お腹が空いたな。昔は1食ぐらい食べなくても何ともなかったのに、子供の身体だとそうはいかないみたいだ。
◇◇◇
街が元に戻るまで3日程掛かった。
列車は昨日から運転を再開し、学校は今日から始まるそうだ。街の東西南北にある4つの門も今日から開放される。
この間にリュックがアイテムバッグ(中)に拡張した。いいタイミングだよね。だけど、まだ容量を増やしたいから、毎晩リュックに『時空間魔法』を掛けているんだ。
一輝には、門が開放されたら大阪に行くと伝えている。
僕が姿を消したら先生達や凛が騒ぐだろうから、一輝には、僕は大阪に行ったと伝えて欲しいとお願いしている。
「一輝、今日行くから」
「分かった。悠斗、気を付けて行けよ……いつでも帰って来いよ」
「うん、ありがと」
学校に行く一輝を見送る
孤児院の門で一輝に手を振り、『身体強化』掛けて一気に東門に向かって走り出すと、一輝の声が聞こえた。
「悠斗、気をつけてな!」
ああ、一輝、ありがとう。
◇
大通りに出て、東門に向かって走る。
大通りは広くて、車が2台ずつ走れるように4車線になっているけど、走る車は少ない。
東門に近付くと駅が見えて来た。
神戸から大阪までの間に他の駅はなく、列車はソーラーパネルのついた高架の線路を走るそうだ。
高架の上に停まっている列車を見ると、前の3両が乗客用の車両で、後ろには窓のない貨物車両を連結していた。
前に一輝と孤児院の先生達から聞いたけど、列車のスピードが速いから、神戸―大阪間で魔物が襲ってくることはないらしい。
駅の近くまで来て、ここから乗客車両を見上げると、車体の両側と天井に付いているソーラーパネルが黒くて、それ以外の部分はガラスのように透けている。
列車の中が丸見えで、向こうの空まで見える。あぁ、魔物が来たら直ぐに分かるようにしているのか。
あっ、列車が動き出した。滑るように動き出す姿はカッコイイ――そのうちに乗ってみたいな。
門には警備員がいると聞いたから、路地に入って魔法を使って姿を消した。僕が普通に門から出ようとしたら、絶対に捕まると思うからね。
人目に触れないように隠す
誰にも気付かれずに東門へ向かい、門をくぐり抜けてステータスを確認する。
――――――――――――――――
名前 悠斗(+身体強化B)
年齢 5歳
HP 203/203
MP 482/507
攻撃力 65
防御力 66
速度 71
知力 210
幸運 99
スキル・鑑定S ・身体強化B(S) ・生活魔法 ・片手剣D(S) ・盾D(S)
・両手剣D(S) ・短剣D(S) ・火魔法B(S) ・風魔法B(S) ・土魔法C(S)
・水魔法B(S) ・光魔法B(S) ・闇魔法C(S) ・雷魔法C(S) ・氷魔法B(S)
・無属性魔法B(S) ・時空間魔法B(S) @浄化魔法D
――――――――――――――――
ステータス値が、ランクDの冒険者並みに上がったから、スキルも自動的にDに上がった。ランク上げを頑張ったスキルはそれ以上だけどね。
「う~ん、HPもMPもまだまだ少ないな」
武器スキルのランク上げが出来ないのは仕方ないけど、魔法のランクは上げないとね。
神戸の街から出た目の前の風景は――見晴らしの良い草原に、列車が走る高架と、その下に車が走る広い道が東へと伸びている。
道路は広いけど車が走ってない。魔物がいるから車で移動しないのか?
遠くには森や小高い丘が見える。所々に廃墟が見え隠れしていて、僕が知る『日本』の面影は全くない。
あぁ~、今日はいい天気だな。空が高い……もう春も終わりかな。
高架下の道路じゃなくて、草原を東に――高架に沿って歩こうか。
あの列車の速さで、大阪まで1時間も掛からないなら、『身体強化』で走れば半日で着くだろう。
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