第2話 あっちの方向
『日本』……『彼女』の魂は元の世界に戻ったのか。
どうりで周りは黒髪黒目ばかりで、靴も履いていないのか――確か『日本』では、宿は別だけど家に入る時は玄関で靴を脱ぐんだったよね。
窓から見える風景で、ここは知らない国だと思っていたけど、僕が住んでいた世界じゃなく『日本』だったのか。
でも……昔、1度だけ『日本』に来た事があるけど、記憶にある『日本』と全く違う。『日本』には高層の建物が沢山あったのに、ここは4階建ての四角い建物ばかりだ。
だけど孤児院の庭にある木――この前まで咲いていたピンク色の花が咲く木は知っている。春に咲くんだと聞いた記憶がある。名前は覚えていなかったけど、先生がサクラだと言っていたな。
これは……こちらの世界のことを知らないと動けないな。
そう思った直後に『鑑定』スキルが発動して、文字の上に僕の世界の言葉が浮かんで来た――あぁ、前の時もそうだったな。
先ずは、この街と辺りの地図が書いてある本を探そう。
「悠斗、本はまだ読めないでしょう? 私が絵本を読んであげるね~」
僕が保育室のベッドにいる時に、赤ちゃんを見に来ていた世話好きの女の子。今でも保育室に行って先生の手伝いをしている。名前は
「悠斗は絵本より乗り物図鑑の方が好きだぞ」
「それは、
もう1人の、世話好きの一輝が乗り物図鑑を見せてくれた。彼も
ああ、日本の乗り物は好きだよ。あの時――初めて飛行機に乗った時は興奮したな。飛行機は、鳥みたいに雲の上を飛んで多くの人を一度に運んだ。魔石や魔法を使わないで……フフ、凄かったよ。
「悠斗、飛行機はな、魔石と太陽光で飛ぶんだぞ! 列車や車もだ!」
「そうなんだ」
あの時、飛行機は何かの燃料で飛んでいると教えてもらったな。
一輝が、昔、電気やガス・石油と呼ばれていたエネルギーの代わりに、今は魔石と太陽光を使うんだと教えてくれた。
だから、
「一輝は、難しいことを知っているんだな」
「ハハ、悠斗、先生に教えてもらったんだ」
窓から見える建物が4階建てなのは、全ての建物に太陽光が行き渡るように高さ制限があるそうだ。なるほどね、高い建物があると影になる場所が出来てしまうからか。
「悠斗、魔石は魔物を倒して手に入れるんだけど、ランクの高い魔石ほど高く売れるんだ。だから、俺はハンターになるんだ!」
「ん、ハンターって何?」
一輝に聞くと、街の外やダンジョンで魔物を狩って、その魔物から取れた素材や魔石を売る仕事だと言う――冒険者だな。
あれ? 前に来た時は、冒険者のことを『ダイバー』って呼んでいたけど、この時代は『ハンター』なんだ――あぁ、魔物がダンジョンの外に溢れたからか。
「一輝、何も分からない悠斗にハンターをすすめたらダメじゃない! 悠斗、ハンターは危ないのよ。ケガもするし死んじゃうこともあるんだよ……」
凛が心配そうに言うけど、ハンターほど僕に向いた仕事はないだろう。前世は冒険者だったからね。
「凛、確かに危ないけど、ハンターが1番稼げるんだぞ。俺が先にハンターになるから、悠斗が大きくなってハンターになりたかったら俺が教えてやるからな!」
一輝に、ハンターになるにはどうすれば良いのか聞くと、ハンターギルドでハンターの登録が出来るのは15歳からだと言う。
驚いたのは、凛がこの国の成人は18歳だと言うんだ。前世での成人は15歳だったけど、12歳でギルド登録が出来たのにね。
向こうの世界だったら直ぐにでも孤児院を出て『彼女』を探しに行くんだけど、こっちの世界・日本のルールが分からない。
旅に出るにしても武器や食料が必要になるし、こっちの貨幣を稼いでおかないとね。
「ねえ、子供がお金を稼ぐにはどうすれば良い?」
「悠斗は、まだ働けないわよ」
「悠斗、12歳になったら孤児のアルバイトが出来るぞ」
アルバイトは何かと聞いたら、未成年の学生などが短い時間で働く仕事らしい。
孤児は成人したら施設から出ないといけないらしく、12歳になったらアルバイトをしてお金を貯めるそうだ。
「孤児は12歳になったら、ハンターギルドで仮ハンター登録ができるんだ」
「うん。孤児用のアルバイトの依頼を受けられるのよ、悠斗」
「12歳……あと7年も待てないよ」
5年も我慢したんだよ――早く逢いに行きたい。
「ハハ、待てないって、悠斗は面白いことを言うな。7歳になったら悠斗も学校に行くんだぞ」
「そうよ、悠斗も学校に行って勉強しないとね」
「えっ、学校? 孤児の僕でも行けるの?」
この国には義務教育というのがあって、7歳から小学校とやらに6年間、その後、中学校に3年間行くらしい。
今日は土曜日で学校が休みらしいけど、一輝と凛も平日の昼間は小学校に行っているそうだ。
無料でこの世界のことを学べるのは有難いな。
有料の高等学校もあって、専門の仕事をしたい子供が行くらしい。ハンター専門の学校もあると言うけど何を教えるんだろう?
「ねえ、あっちの方角に街はあるかな?」
『彼女』を感じる方を指差す……向こうに行きたい。
「う~ん、悠斗が指を差している方向は……東門がある方ね。一輝、あっちは大阪とか京都だよね?」
凛がその方向を見ながら一輝に確認している。
「そうだな……」
一輝は本棚にある日本の地図の本を持って来て「ここが神戸だぞ」と教えてくれた。ここから東にある1番近い街は大阪か……先ずは大阪を目指そうか。
「一輝、大阪に行くにはどうすればいい?」
「悠斗、何で大阪に行きたいんだ?」
「それは言えない」
大切な人がいるから探しに行きたいって言っても信じないだろう? 大阪にいるとは確信が持てないけど、方角はあっちなんだ。
「そうか……悠斗は、大阪に行く為にお金を稼ぎたいのか?」
一輝に「そうだよ」と頷く。
「悠斗って、5歳に思えないわよね~」
一輝と凛が少し呆れたように僕を見て、ここから大阪に行くには車か列車で移動できると教えてくれた。
凛が、車の免許は18歳から取れるよと言うけど――18歳なんて却下だ。
そうなると列車だけど、一輝が言うには乗車チケットが高いらしい――お金がないから無理だね。
「……歩いて行くよ」
「悠斗、歩いては無理だからな!」
「そうよ! 魔物が出るんだからね!」
強い魔物でなければ倒せると思うけど、話がややこしくなりそうだから「そうなんだ。わかった」と返した。
一輝が「列車で神戸――大阪なら、1時間も掛からない」と教えてくれた。列車で1時間程度なら、『身体強化』を掛けたら歩いても半日くらいだろう。
地図を見ると、列車が走る高架の横に道が書いてある。一本道みたいだから迷うことはなさそうだ。
大阪に行くために出来ること……先ずは、孤児院の園長に相談してみようか。
◇
昼食が終わって直ぐ、食堂にいる園長を捕まえて相談があると言ったら、その場で聞いてくれた。
「ん、どうした悠斗、何か困ったことがあるのか? 聞いてやるぞ」
「園長、なるべく早く大阪に行きたいんだ。だから……」
旅費を稼ぎたいと言おうしたら、園長が驚いた顔をして僕の話を
「うん!? 悠斗、なぜ大阪に行きたいんだ? 早くって、成人してからでいいだろう?」
……正直に話してみよう。
「僕には前世の記憶があって、逢いたい人がいるんです」
「何……ブハッ、悠斗、夢でも見たのか?」
大笑いされて本気にされなかった。まあ、普通そうだろうな。
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