第3話 信仰アデクション

 悲鳴を頼りに西に進むと前方に群狼ウルフの群れが見える。


「やめてください。どうかお慈悲を…」


 目を凝らすとそこには碧い修道着の女性が群狼ウルフに囲まれて蹲っていた。


「おい、ミリー!助けるぞ」


「言われなくても」


 ミリーも状況を察して俺に続いて駆け出す。


「ミリーよ、お前が散々馬鹿にしてきた俺様の実力を見せて…いや魅せてやるよ!」


 俺は右手のブレスレットを掲げウルフの群に向けて突きだす。


 神器を賜りし者のみが使える無尽蔵の力、神業かみわざ。使用できるスキルは自然と理解できている。


「くらいやがれ!」


邪牙じゃが


 俺が念じて手を掲げると、数発の茶焦げた何かが

 放たれる!


 その数発が修道着の女性を囲むウルフの内の一匹に命中する。


 しかし、命中したウルフは軽くかぶりを振るだけで大したダメージは入ってないようだ。ウルフはこちらを一瞥して遠吠えを上げた。


 すると、修道着の女性を囲んでいたウルフたちが一斉にこちらへと駆け寄ってきた。


「やべっ!」


「何がくらいやがれよ!芋を数個飛ばしただけじゃない。文字通り食らいやがれってこと?バカじゃないの」


「うるせえ、奴らの注意を引けたからいいじゃねぇか」


「まったく、勇者なんて名ばかりね」


 ミリーはそう悪態をつくと腰のポーチから

 1冊の本を取り出した。


「我に宿る原初の炎よ!我が呼び声に応え、万物を灰燼と化せ!」


“インフェルノ・ノヴァ”


 ミリーがそう唱えるとウルフの一匹に松明たいまつ程度の火が着く。


「グギャア」

 ウルフの一匹は悲鳴に近い声を上げたが、突進の勢いは衰えること無く、発火もすぐに鎮火した。


「お前こそ何だよその炎魔法は。派手な詠唱と発動した魔法にギャップがありすぎるだろ!」


「うっさいわね!アンタの芋のつぶてよりマシよ」


 不毛な口喧嘩をしている間にウルフたちは俺の眼前まで迫っている。


「ぐあぁっ!」

 ウルフたちは一斉に俺に飛び掛かってきて、

 向きだしの牙で俺の四肢に食らいつく。


「芋男!」

 ミリーの叫び声が聴こえる。

 …俺の呼び名が気になっだが、今はそれどころではない。


 消え入る意識の中でどこからか詠唱が聴こえる。


「天に召します神々よ!我が信仰を持って迷える仔羊を導け!」


“レイズ・アライブ”


 その詠唱と共に俺の体を聖なる光が包み込む。


「これは、治業ちぎょう

 四肢の出血は止まり、傷が癒え俺は蘇る。


「スゴい!あのひと回復士ヒーラーなのね」


 しかし、回復されたのも束の間、俺はある事実に気付く。


「いだだだだ!おいっ!回復してくれるのはいいがウルフが噛み付いたままだぞ」


 そこへ修道着の女性がこちらへ駆け寄ってくる。

「私の溢れる信仰心で回復は任せて下さい!」


「いや…待て!回復は助かるけど、このウルフをどうにか…」


 噛みつかれては回復され、噛みつかれては回復。ここから俺は、生死の境を彷徨っては呼び戻されるという、地獄を何度も繰り返す事となる。


「そうだ!」

 ミリーがポンッと両手を打つ。


「ここからアルカ村まで戻って骨折り爺を連れてくるわ!まだ半日の地点だから往復で1日もあれば戻って来れるはず」


「おいっ!ふざせんな!俺は1日もこの地獄を我慢しなきゃならいのか…いでででで」


 修道着の女性が会話に割って入る。

「私なら大丈夫です。三日三晩は祈りを捧げ続けることができますわ。我が崇高なるメーデ神の為、やり遂げてみせます」


「いやいや、俺が大丈夫じゃないから!1日中この苦痛を続けられたら精神ココロが壊れる」


「なによ!そもそもアンタが骨折り爺をパーティーに加えてたらこんなことにはなってなかったのよ。反省しろ!」


「俺が悪かった…これ以上はムリだ!助けてくれ」


「まったくうるさいわね!やるだけやってみるわよ」


 ミリーはそう言うと何故か手にしていた本をカバンに戻した。


そして彼女はおおよそ詠唱とはかけ離れた文言を語気を荒らげて唱える。

「ぶっ殺せ!」


 ミリーが手をかざして暴言を吐くと、

 驚いたことに突如俺の足元から巨大な火柱が

 天へと立ち昇る。そして、俺諸共、ウルフたちを灰燼かいじんと化した。


 …俺の生涯はそこでついえた。



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