兄弟杯AHの感想文+第三回アキテン(偽)予告編

https://kakuyomu.jp/user_events/16817330667725972696

企画URLはこちら。


『scute』/フカさん


抽選の結果、一番打者はフカさんになりました。

フカさんはpatriotでの『俺』を今作でも視点人物に据えて、マダラとワニの兄貴(!?)の短編を書いてくださいました。patriotは『俺』の父親が亡くなり、その『俺』とマダラと周辺人物の人生が大きく変わっていく物語となっておりますが、scuteはその物語が始まるだいぶ前の『俺』が九歳だった頃、マダラと出会った時のエピソード。長編の過去編、好き。

マダラは本当にいいやつなんだけども、仕事が出来すぎてしまってちょっぴり劣等感を抱いている『俺』がいいキャラをしている。ワニの兄貴が一体どういう意味合いなのかは本作を読んでいただくことにして、自分は


> ヒトの記憶や魂は


のくだりが好きですね。諸行無常。結局みんないなくなってしまうのは、patriotの本編とも通じてくる一節。終盤に、


> 兄弟じゃなくて、別のものがやりたい、と思った。


と『俺』がひとりごちているのも味わい深い。兄弟として連れて来られたマダラと『俺』との関係性が『俺』の中で変化しつつある過程で、一頭の鰐が素知らぬ顔をしている。


『最後の夏に見えた夢』/こむらさきさん


こむらさきさんからは不死身でイケメンな魔法使いのカティーアさんとめちゃくちゃかわいい不遇少女のジュジちゃんが旅をしていくザ・現地主人公モノ異世界ファンタジーな『不死の呪いと魔法使い』のChapter3に登場するジェミトさんの過去編が提出されました。不死魔はいいぞ。


途中からでも読めます、とアナウンスなされていますが個人的にはカティーアさんとジュジちゃんの二人の仲が単なる師弟関係から恋愛関係に発展していくこのプロセスが好きなので、できればChapter1から物語を追ってほしいなー! もっと読まれてくれー! と思っています。


村の跡取りとして選ばれているけども……弟のほうが俺より優れているし……チラッチラッな兄のディレットさんが主人公。ヤバい女さんのカンターレに溺れていく様子がえっち。物語の結末部分には触れないようにしたいので直接は触れないのですが、自業自得とするには悲しすぎるオチでしたね。これもこれでまた新たな味わいとして本編に遅効性の毒のように効いてくるわけですねわかります。本編への引きが上手い。


ヤフタレクからしてみたら助けてくれって言われても「いや、知らん」という感じではありそうなんですが、ヤフタレク的にはどう? ヤフタレクもおもしれー女さんにズブズブ沈んでったタイプな気がするけど、どう? とツイートしていたらこむらさきさんがしんどみの増す魔の三角関係のイラストを投下していました。ヤフタレクおまえ……。罪なやつだなあ!


『汀に遺せしもの』/ごもじもじさん


ごもじもじさんからは『汀に遺せしもの』という昔々の物語を書いていただけました。ごもじもじさんは生物学に明るい方なので、その知識を作品に活かしていくと唯一無二な素晴らしい作品が出来上がるのではないかと期待しています。本作品の関連作品ではないのですが『黄昏の子ら』が個人的には好きです。ポストアポカリプス的な雰囲気もあってよい作品になっているので、そちらもご一読ください。


『水底に棲まうもの』は兄弟の仲を引き裂く美しい人魚の物語でしたが、今回の『汀に遺せしもの』は過去編。兄のことが大好きな弟と幼い弟のことを気にかけている兄。弟のことは兄が迎えに来てくれたけど、兄は……。この二作品、どちらかだけでも大変よく出来ているのですが、両方読むとより深みが増すので、できれば両方読んでいただきたいところですね。時系列としては『汀に遺せしもの』から『水底に棲まうもの』になるわけですが〝汀=波打ち際〟から〝水底〟に、生きている人間の居場所から人間でないものの居場所へと移動しているこのタイトル。ワザマエですね。


兄弟愛とは関係のない部分ですが、龍の描写がめちゃくちゃよかったです。実在しない生き物をあたかも実在しているかのように描写するためには、やはり現実に存在するものの質感や前提となってくる汎用的な知識が試される箇所だと思うので。これからも不定期でいいので小説を書いてほしいです!


『柳生十兵衛を待ちながら』/筆開紙閉さん


筆開紙閉さんは人外の一族と成り果ててしまった柳生一族の物語の一端であるところの『柳生十兵衛を待ちながら』で参加していただけました。敬愛する兄上の影として生きる弟。しかし兄弟には末の妹さんもいらっしゃったのです。なんということでしょう。柳生一族の物語の中でも今作品はビギニングといいますか、物語の発端の部分が描かれているのが興味深いですね。ちなみに自分は日本史に明るくないので実在の柳生一族がどのような偉業を成し遂げたのかは存じ上げません。とはいえ歴史とは勝者が作るものであり、歴史書に載っていない事件や小競り合いは数多あったでしょうし、ひょっとしたら柳生一族がこの日本列島を統一していた時期があったやもしれない。柳生朝大日本帝国、めっちゃかっこいい。


終始シリアスな中にも「こうはならんやろ」のニュアンスとカッコイイバトルを混ぜ込みながら独自の世界観で進んでいった『柳生十兵衛を待ちながら』ですが、関連作品な『柳生十兵衛は二度死ぬ』では初っ端から超々巨大複合商業施設『日本』という胡乱なものが登場します。そういえばこちらはショッピングモール伝奇企画の作品でもありましたね。こっちになると柳生一族の野望はさらなる加速を見せていて、柳生電光騎士やらホームズやらが出てきます。まるで某ソシャゲのようなお祭りっぷりです。ブリテン柳生やソビエト柳生といった独自のワードも詰め込まれています。そんな中でも十兵衛さんはハワイで浮かれて買ったアロハシャツがお召し物なのが素敵。


楽に死なせてやるのも愛の形であり、十兵衛さんのために最期まで、死んでからも力となるのがこれもまた愛。影として生きる男の武士道を見せていただきました。


『兄の発熱』/惣山沙樹さん


一番槍として出走登録していただき誠にありがとうございました。嬉しい嬉しい。惣山紗樹さんからは共依存な兄弟愛『兄の発熱』を応募していただいております。ブロマンスではなく、はっきりとBLとあるのでボーイズなラブですね。兄弟愛の企画を立てておきながらブロマンスとBLの違いがよくわかっていないのですが、肉体関係があるのがBLという解釈でいかせていただきます(間違っていたらすいません)。こちらの兄の伊織と弟の瞬は紹介文に書かれている苗字が違うので、本編を読む前から「おや?」とは思っていたのですが、一行目からこの兄弟が異母兄弟であると明記されています。親切仕様で助かります。


とはいえ、この短編だけだとどうしても兄が悪いやつに見えてしまって、どうして弟がこの兄の世話を焼いているのかの共感ができなかったのですが、きっと二人にはこういう関係性が構築されるまでの一言ではまとめられない深い物語があるはずです。弟には兄を突き放せない事情があるはずなんや……。


というわけで、自分は『血の鏡』の新版→旧版(他サイトに掲載)の順で拝読させていただきました。なるほどこういう事情ならば、弟としては兄を邪険に扱えないし、兄も(ただでさえも発熱で弱っているのもあって)弟を頼るしかない。新版と旧版でだいぶ物語の展開が異なっている(行き着く先は近い場所ではありますが)ので、読み比べると面白いと思います。兄は可哀想な人なんです。


『ニコイチツインソウル!』/雨坂のいづさん


クリザリド魔法学校ではお世話になっております。雨坂のいづさんからは『ニコイチツインソウル!』が出走登録です。こちらの『ニコイチツインソウル!』の『組織に所属する能力者のお仕事モノ』という点では自作品(※秋乃晃名義の作品)のパーフェクトシリーズと近しい雰囲気を感じていて、関連作品の『全世界記憶喪失』のほうはゆっくり読ませていただきたいと思っております。一人の人間に一つの固有の能力、いいですよね。


こちらの能力者は素質のある人間がアセンションすることによって覚醒することで生まれます。レストレーショナーという固有名詞がついております。能力者を能力者と言わずに作品特有の名称がついているの、めっちゃかっこいい。固有名詞があるとそれだけで世界観にグッと引き込まれる。多すぎると読者が置いてけぼりになってしまうので、その辺の匙加減が難しいんですが……。


魂の双子、いい言葉ですね。出会ったその日に意気投合して、それから世界のために戦っていく二人。大変良き。最強になっていきましょう。


『献杯』/黒井咲夜さん


黒井咲夜さんからは『かみよも』の作者公認の過去編の『かみもよもきかず外伝 いまはむかし』こと『いまむか』の主人公の父世代にあったバトロワの話。木戸家は『かみよも』だと書道家としても活動している大学生の木戸清森さんから見ると祖父にあたる人たちの物語ですね。家督相続バトロワ。デスゲームなんてやらないほうがいいよ……殺し合いからは何も生まれないから……なんで戦わなくちゃいけないんですか!!!!!!!!!


『いまむか』が『かみよも』と同じ世界観で過去軸の物語なので、こちらのほうが世界観としては現代寄り。現代寄りだからってバトロワが許されるわけではないのですが〝強い血を後世に残す〟という意味では「最後まで立っていた人間の勝利」というバトロワ形式の跡目争いは理にかなっているのかもしれない。……本当にそう思いますか?


血生臭い戦いの中でしか生まれない兄弟愛がある。生き残ったからこそ、背負っていかないといけないものもある。そこまで気負わずに生きていける人もいるのかもしれないけど、やっぱり気になっちゃうよね。もし戦いがなければ他の人たちも生きていたかもしれないと思うとどうしても滅入ってしまう。でも言霊師のことだから生き残っていたとしても結局争いがあったかもしれない。複雑な気持ち。


『恋の季節』/千桐加蓮さん


千桐加蓮さんからは『恋の季節』というストレートなタイトルの作品をいただきました。複雑な感情と三角関係が助走をつけてパワフルに殴り込んでくる作品です。関連作品の『恋して、愛しています』のその後の物語となるようで、登場人物の関係性を整理しながら読み解いていきました。恋愛感情、難しいぜ。


> 「好きに理由なんてありますか?」


あるんですかね……あったとしてもそれが正解なのか一生悩みそうではある。その場で用意した答えが必ずしも正解であるとは限らないし、恋は盲目とも言いますしね。人間が人間として生活していく中で、男女であろうと男男であろうと女女であろうと、恋愛感情が芽生える時が遅かれ早かれ来たり来なかったりするわけで、そこに理由を求めてしまいがちなのが人間だけども、正確な答えは本人の中にもないんじゃないかなと思ったり思わなかったりします。自分もそのうち恥じらいを捨てて恋愛小説と向き合ってみたいですね。


『トロワゼトワル』/秋乃晃さん


秋乃晃さんからは『トロワゼトワル』という短編が出走登録されました。

関連作品の『パーフェクト・アブダクション』の一部分である『A (in)PERFECT HERO』に登場する兄の篠原那由他を視点人物として、弟の篠原幸雄との関係性を描いた作品となっていますが、何も考えずに読むと「1話目で死んでるじゃんか」になってしまうんですが、1話目が現在の話になっており、2話目で小学生時代にまで戻っている。何一つとして正しくはない『君の知らない物語』がいいですね。弟はおそらく兄に一生懸命に話しかけているんですけど、兄はテトリスに夢中なのがこの二人の将来的な関係性を示唆していて嫌な感じがします。


月が怖い。とある仮面ライダーに「世界は俺が中心に回っていると考えたほうが楽しい」みたいなセリフがありますが、無意識にソレを展開していくバケモノは怖いんですよ。こいつの印象が強くて「兄弟愛どこ……?」になりかねないところがちょっぴりネック。


月に関しては、月の古来からのイメージであるところの『狂気(=lunatic』の意匠があって、夜空に瞬く星の中でも「もっとも輝けるもの」という意味合いも含めています。作中でもクラス全体がおかしな雰囲気になっているのですが、特に弟が影響を受けてしまって、このあと完全にバグり散らかします。その事件の部分まで描くかどうかは自分の悩んだ箇所であり、結果としてオミットしてしまった。そのせいで、この短編の単体としては謎が残る仕様となってしまい、まああれですよ、本編を読んでね!


『いつかかならずころしてやるからな。』/鳳繰納さん


大トリの鳳繰納さんは『いつかかならずころしてやるからな。』で鳳大仁さんの過去編を書いてくださっています。なお、この掲載順はルーレットにより決定したものなのでわざと大トリにしたわけではないです。タイトルだけ見ると「殺伐とした兄弟愛の物語なのかな」と身構えてしまうのですが、中身を紐解いていくとモノノケのいる世界=かみよもワールドの不条理が展開されていて、なんともやりきれない気持ちになりました。弟の奏助を死に追いやることが本当に彼にとっての幸せになるのかどうかも含めて、考えさせられますね。時を戻すことはできないんですか。タイムベントは!?


和風伝奇ファンタジー『かみよもきかず〜言霊師の怪異調伏活動及びそれに関する事柄の記録〜』が関連作品。大仁さんは、五行家に協力する政府寄りの組織のイケおじです。初登場時に寿司を奢ってくれるので、自分は「寿司を奢ってくれるイケおじ」の印象が強かったのですが、今作品を読んで本当にすまんかったと思っています。力ある一族の、力の使い方ですよ。モノノケを口説き落とすイケおじ。


『かみよも』はモノノケを調伏する一族たちの物語と、モノノケと出会ってしまったことにより人生が変わっていく男子高校生の物語の両方が楽しめる傑作です。完結済みになっているのでとっつきやすい。個人的には次回作というか、続編というか、他の一族の物語も読んでみたいな……なんて思っていますが、どうでしょう鳳さん。



次回、第三回アキノテンノウショウ(偽)はテーマを『旅へ出よう。ブエナビスタを見に行こう』として、ブエナビスタ=絶景を楽しむカクヨムに掲載されている作品(※原則)のキャラクターたちの小旅行を描いてください。

旅先は実在のスポットでも、非実在のエリアでもかまいません。

ただし、他の作者の方の作品世界にお邪魔する場合は第三回アキテン(偽)の近況ノートのほうにご一報ください(無許可の場合、あとで問題が発生するとお互い困ってしまうので)!

4月ぐらいを予定してます。

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