Episode 17 移住と転校と…

 こうして、2008年3月の終わりに、私たち親子は北海道に移住しました。ゆっちゃんが中学2年生に、まゆが小学校6年生になる年でした。


 移住ついでのように翌日入籍し、娘たちを夫の養女にする手続きも済ませたら、役場での書類が半端ないことになりました。係の人が汗かきながら、この書類に住所と……とか言ってる間にさっさと次々書類を仕上げていく私。書類だけで営業取引するようなお仕事をしていたので、書類作成は早いです。それでも小一時間かかりました。


 まあ、相手の署名も捺印もない離婚届と、裁判の判決書類を持ってこられた、元夫の地元役場の人のことを考えれば大したことはないと思います。あれは、3時間位かかりましたから。頑張れ、お役所の人。



 それをクリアすると、ゆっちゃんの方の学校の転入届けでした。これも物凄い量の書類でした。何しろ養護学校で、しかも家から通うには遠すぎて、いきなり寄宿舎生活になるとなると、もう、それは大変大変。いろんな先生を紹介されます。記憶力が著しく悪い私に自己紹介。安心してください。誰一人として覚えられていません。担任の先生がギリギリです。


 そして、その書類作成の間、面倒見てますね〜、と先生が預かると、ゆっちゃん大暴れ。物凄い声で泣き喚く。まあ、これだけ先生が見ててくれれば怪我することもあるまい、と、淡々と書類をやっつけていく私。

「すげえな、この母親。ていうか大丈夫なのか、この娘……大変そう(泣)」って最初正直そう思った、と、担任の先生が仰ってました。



 いきなり3人増えると、買わないといけない物も増えて大変でした。特にゆっちゃんの物は、寄宿舎に持っていかないといけないもの一式揃えないといけません。もう、とにかくとにかく新しい生活の準備に追われて、子供のことも放置気味。



 ゆっちゃんは、その間、ずっと泣いて暴れました。毎日毎日。

「お母さんや嫌いや!! 出ていけ!!」

おー。凄いこと言うようになったねえ、君は。何がそんなに気に入らなかったんでしょう。本人に聞いてみても泣いて暴れるだけ。


 新しい環境に馴染むのは苦手です。特に、私やゆっちゃんのように、精神障害や知的障害のある人や子供は。

 私は、その頃、どんどんどんどん気持ちが強く大きくなっていて、止められずにいたようです。自分が酷い躁状態になりつつあったのですが、全く気付いていませんでした……。



 ゆっちゃんは、あれだけ暴れていたのに、新学期には、ちゃんと制服を着て、ニコニコと学校に向かいました。初めての寄宿舎生活も全く問題なく。

 先生がたが物凄く驚いて、そして胸をなでおろしたのがわかるようでした。


 一方で、まゆも新しい学校に転入します。まゆは人懐っこい子なので、すぐに友達も沢山できました。



 最初のうち、ゆっちゃんのことも、まゆの方にも何でも参加できていたのに、なんだか私は自分が自分でよくわからなくなります。変な感覚がします。わからない。わからない。変な感じ……。

 ……。

 今思えば、本当に酷い躁状態だったようです。私はそこからの記憶が殆どありません。気を失って、病院に救急搬送されて……。うん。でも大丈夫。大丈夫だから。

 そうしているうちに、妊娠しました。そして、まゆの卒業式の日、流産しました。そこから一気に鬱です。急降下。どうしよう……どうしよう……辛いよう。辛いよう。

 ついに入院。そして私は自分が双極性障害そうきょくせいしょうがい(躁鬱病)になっていることを知らされます。その後、線維筋痛症せんいきんつうしょうも発症しました。


 まさか、ここへ来て、これまで体験してきたストレスの塊が、こんな形で体に現れてくるなんて……。圭さんにも、義両親にも、ゆっちゃんにも、まゆにも、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。私のせいで……。



 私が入院している間、ずっと家族が子供の面倒を見てくれました。こっちに来てすぐに手続きした事業所も協力してくださって、ゆっちゃんの世話をしてもらいました。私一人でやらないといけないと思っていたことをみんなが助けてしてくれました。



 ゆっちゃんは、まゆに世話をしてもらってご機嫌だったようですが、一方で、まゆは、どんどんゆっちゃんが嫌いになっていきます。何で自分の方が妹なのに、姉が障害児だからって面倒を見ないといけないのか。なんで喧嘩をしたときに自分だけ叱られないといけないのか。何でお母さんはゆっちゃんばかりで、自分のことを見てくれないのか。悔しくて泣いてしまうほどだったらしいです。


 そのこじれは、隨分あとまで続きます。それは親にも家族にも、どうしようもないことでした。

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