Episode 16 「自立させる」ということ
ゆっちゃんの発作がそこから全く起こらず、先生からも、安定しているので、薬をちゃんと飲んでいれば、とりあえず大丈夫でしょうと言われました。
ホッとしました。
その頃、障害者自立支援法という、障害者の自立を助けるための法律ができました。
2006年10月から始まった、その制度は、ホームヘルプサービス、ショートステイなどの利用や、就労移行支援等の訓練等給付費などの支援をするというものです。
私は養護学校のママ友にすすめられて、その支援制度を使ってみることにしました。
まずは、デイサービスや行動支援などをしている事業所を、市役所で紹介してもらい、見学させてもらいました。学校のお友達とは違うお友達もできそうです。家や学校以外で、親や先生方と離れて過ごしてみさせるというのは、勇気のいることでした。でも、これは、ゆっちゃんだけでなく、私自身のためでもありました。それで、利用することに決めたのです。
ゆっちゃんは、そこの事業所で新しいお友達と過ごすだけでなく、ヘルパーさんと一緒に買い物をしたり、一緒にプールに連れて行って貰ったりもしました。
ゆっちゃんを預かってもらっている間、私は、私のために過ごす時間ができました。離婚のことで精神的に疲れ切っていた私には、その時間が有り難かったです。
ゆっちゃんをヘルパーさんに預けるにあたって、いつも同じ人に当たるとは限らないので、私は、ゆっちゃんのためのサポートブックを作りました。
ゆっちゃんのプロフィールから始まり、緊急連絡先、かかっている病院などの情報、好きな食べ物、好きな遊び、最近好きな歌。質問をするときには、「どうしたい?」「何にする?」ではなく少なめの選択肢で聞いてもらえれば判るということ、等々。
それをヘルパーさんに渡しました。それは大変役に立ったようです。
一方で、私は、いつも、ゆっちゃんに、「こういうときはどうするの?」「なんて言うの?」という問いかけをするようにしました。ゆっちゃんは少し考えて、「ごちそうさまでした」とか、「手伝ってください」と、段々言えるようになってきました。
こうして、ゆっちゃんの「自立」に向けての第一歩を踏み出したのです。
以前、入学試験のとき、校長先生から、「自立」の意味を問われた時、私は「誰にも頼らず一人で考えて生きていけるようになることだと思います」と答えました。ですが、ゆっちゃんの場合は違うのだと、今ならわかります。人に頼ってもいいのです。わからないことやできないことを人に頼りながら、助けてもらいながら、自分の力で生きていくこと。それが、ゆっちゃんにとっての本当の「自立」の形だと思ったのです。
だから、ゆっちゃんに必要なのは、「できない」ということを伝えること。「手伝って下さい」と言えるようになること、でした。状況に応じて、彼女の言葉を待ちます。できることは自分でやらせるようにする。できないときは、「何て言うのかな?」と考えさせるようにしていきました。
自立支援の制度を使い始めるようになってから、私は、ゆっちゃんの「自立」に向けて、一生懸命だったと思います。
それが、まゆには気に入らなかったようでした。お母さんが、ゆっちゃんだけのことを考えているように見えていたらしいのです。
実は、ゆっちゃんを自立させたかったのは、ゆっちゃんのためだけではありませんでした。まゆのことも考えてのことです。
まゆが大人になって、私がいなくなってしまったとき、まゆにゆっちゃんのことを全部背負わせてしまわないようにとの気持ちからでした。
だけど、まゆは、そんなところまでわかってはくれません。当たり前なんですけど。親に贔屓されて育っている姉のことを本当に嫌いだと思っていたらしいです。
そういうところは、本当に難しいですよね。
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