Episode 10 ゆっちゃんとまゆ

 ゆっちゃんの小学校の入学式と、まゆの幼稚園の入園式が重なってしまいました。どうしよう? と母に相談すると、ゆっちゃんの方は母が行くので、あんたはまゆの方に行ってやりなさいと言われます。


 この頃から、まゆは、段々、ゆっちゃんにヤキモチを焼くようになりました。

 私が、ずっとゆっちゃんの世話ばかりするのが面白くないようでした。私自身、ゆっちゃんとまゆの間で何があっても、まゆの方にに我慢させる癖がついていたようです。


 だからなのかもしれません。まゆは、幼稚園で時々トラブルを起こしたり、体操服を泥で真っ茶色にして帰ってきたり……。私の時間を割くことばかりしてくれて、体がもたない。でも、そこまでして、お母さんを独り占めしたかったのかもしれません。


 そんな彼女の気持ちも深く考えずに、何かと叱ってばかりいる自分がいて。考える暇と精神的な余裕がなかったのは否めませんが、もうちょっと、立ち止まって、まゆの気持ちを聞いてやればよかったな、と今更ながらに思います。



 一方、ゆっちゃんの生活も変わりました。時々は授業で数の数え方や、文字の書き方なんかは習うけれど、もっともっと丁寧に習うのは、生活の仕方でした。

 小学校に入って、まずオムツが外れたのは何より嬉しい進歩でした。トイレに行きたいかどうかは、しょっちゅう尋ねないといけませんが、本人が「いく」「だいじょうぶ」と言うようになってくれたので、凄く助かりました。トイレに入ったらどうするかとか、服を順番にどうやって着るか、お箸をどういうふうにもつか……などなど、本当に沢山の普段の生活についてのことを、学校で学びました。勿論、家でも。


 ゆっちゃんは、少し自閉症の気もあったようで、使ったものは、その通りに元に戻さないと気が済まない子でした。だから、お片付けなども教えるのはラクでした。ただ、できないことは、当然のように、どんなに頑張ってもできない。線の上をなぞって文字を書きましょう、は、いつまでたってもできませんでした。



 生活の中で、一所に買い物に行ったときにも学習を取り入れます。

「ゆっちゃん、これは何?」

「きゅうり」

「じゃあ、こっちは?」

「ピーマン」

「よくできました。じゃあね、にんじんを2本とってきてください」

「はい」

 そして、持ってきたのは人参1本。ありゃりゃ。でも、

「もう一本とってきて」

「はい」

 は、できるのです。


 こういう時、まゆは、一人でお菓子を見に行くといって、別行動をとります。

「1つだけだからね!」

 私の声は、いつもまゆを追いかける。

 子供って、普通は、こうなんだろうなあ。親の買い物なんか退屈で、お菓子のコーナーに行っちゃうんだろうなあ……。そして、お菓子がちょーっとだけ入った、「ほぼオマケだけのお菓子」をねだるんだろうなあ……。ほーら、ホントに持ってきた(笑)。

「おもちゃじゃん」

「お菓子だよ、ほら」

 ちょ~っと入っているお菓子。ま、いっか。



 この頃の私は、ゆっちゃんの成長のことばかり考えていて、普通に成長している、まゆの本当の気持ちに気付いてあげることができていなかったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る