Episode 11 別れられない

 宇都宮で元夫を捨ててきたはずでした。


 翌年の2月頃、叔母と従弟に手伝って貰い、自分の荷物だけ運び出してるところへ元夫が帰ってきます。

 叔母が、しれっと

「お邪魔してます〜」

 と言う挨拶に答えもせずに、奥の部屋に。


 私には聞いておかねばいけないことがありました。

「これからどうする気?」

 まだ会社にも私にもすがりついている気なのか、この男は?そう思って。

「お前とは離婚する。この3月で仕事もやめる」

「そう」

 有難いお言葉。さっさと私を自由にしてくださいよ。


 あなたは堕ちるだけ堕ちればいい。社会的地位も家族も失いなさい。県で一番の高校に入ったのに、二浪もして大したことない大学に入り、行くトコなくて、じいさんと義父さんのコネで入った会社で仕事もロクにせず、給料もらって、妻子には金を使わず博打に給料の殆どを使って。

 

 義父が亡くなったと同時にリストラされて、仕事を失って、妻子にも逃げられて……。え?糖尿病? 贅沢病の方の糖尿病ですよね? うちの家計でそんなものになると思ってるんですか? 一人だけいい物食べてる証拠でしょ? あなたがそれで、どんなに苦しんだとて、私の知ったことではない。



 本人を前にして言ってやろうかと思いましたが、物理的なDVを加えられたらかなわんので、やめました。ただでさえ、経済的DV、精神的DVに遭っているのに。



 こうして、無事に「離婚」できました……と思うじゃないですか?

 ここから。ここから、なんですよ。また地獄。


 元夫は、離婚届に判を押してはくれませんでした。別れる気がないのか。


 

 そこから、私は、また、鬱が悪化しました。入退院を繰り返します。

 数年かけて、ある程度のところまでは回復しました。なのに、そこから先に進む元気がない。気力がない。離婚を置き去りにしたまま、宙ぶらりん。もう、一生これでもいいか……別れてくれる気がないのなら……。


 そんな諦めの気持ちにすらなっていました。

 


 その頃の私はといえば、すっかり前に進む元気を失ったまま、ネットの世界に入り込んでいました。

 ネットで知り合った、地元の仲間と遊んだりしてました。

 親に子供を預けて。

 ……最低。

 時々、思い出したように母親に戻るんですが。

 ゆっちゃんも、まゆも、私のことを嫌いになっていたかもしれなかった時期でした。


 ゆっちゃんは、ヘッドセットを7回も壊しました。何回買っても、線をちぎったり、マイクを折ったり。

 

 まゆは、外に遊びに行ったまま、なかなか戻ってこなくなりました。


 母親は、そんな私のことを叱ります。

「子供のこと放ったらかしにせんの。子供があんたのこと信じんようになるよ? まゆなんかグレるかもしれんよ?」


 でも、どうしようもなかった。



 心が壊れているんです。どうしようもなく。

 どうしようもなく。

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