Episode 07 リストラと鬱発症

 時代はバブルがはじけて、経済情勢がどんどんどんどん悪化傾向にありました。


 いろんな会社が合併し、元の会社自体を縮小化することで、乗り越えようと必死でした。そのために、リストラは必須だったのです。


 そんな中、当たり前のように、元夫は肩を叩かれました。仕事もできない奴を飼っておくほど、会社も余裕はありませんよね。

 5千万円ほどだったと記憶しているのですが。その時に退職していれば貰えた退職金が。私は、当然、退職して、郷里に帰って持っている土地に家を建て、そこで暮らすのだと思っていました。私の実家の近くでもあったので、私の家族も子供たちも喜ぶと思っていたのです。


 

 ところが、ここで取った元夫の決断は信じられないものでした。

 「俺が5千万ごときで退職すると思ってるのか? 舐めてるんじゃないか、俺のことを!」

 そう言って、会社に残る決断をしたのです。

 


 会社は、嫌がらせのように、一年で東京に戻します。私達は、今度は千葉で生活。


 また、ゆっちゃんを受け入れてくれる保育園を探すところから始まります。100箱の荷物を詰め、手続きをして、荷ほどきをし……娘の保育園を決め……


 そうしている間に、私の体に異変が現れました。


 眠れないのです。全く眠れない。まだこれから子供たちと一緒に1ヶ月は家にいないといけないのに……


 頭と身体がおかしくなりそうでした。近所の薬局に行って、睡眠薬を下さい、とお願いしますが、当然のように断られます。病院の処方箋なしには、睡眠薬は売ってもらえないのです。それは、勿論、承知の上でした。でも、もう、本当に限界なのです。

 何かあってもそちらにご迷惑はおかけしませんから……自殺しようとかそんな理由じゃありませんから……子供たちが保育園に行けるようになったら、ちゃんと病院に行きますから! お願いですから……眠らせてください……お願いします!


 店長さんが出てきて、

「絶対に処方を守ってください。それと、行けるようになったら、絶対に病院へ行って下さい」

 そう言って、2週間分の薬を出してくれました。


 何日ぶりかに、ぐっすり眠ることができました。


 けれど、もうその頃は手遅れだったのでしょうね。私は睡眠薬を飲まずには眠れなくなっていたし、ご飯もたべられなくなっていた。娘たちが保育園に行き始めて、やっと病院に行った時には、

「重症の鬱病です」

 と言われてしまいました。


 それでも私は動かなければならない。娘たちを、ゆっちゃんとまゆを守らないといけないから。ただただそれだけのために動きました。

 どんどんどんどん薬は増えて。恐ろしい副作用の薬も使って。

 

 毎日、家事を済ませると、死体のように動かない物体になっていました。


 怠け者呼ばわりする男がいます。もう、こいつ、殺してもいいですよね? 罪にならないですよね?


 でも、そんな気力も体力もない。自分が死体なので。



 本当に死にたいと思いました。でも子供たちはどうする? 二人を置いて?この男に育てられたらロクな大人にならないだろう。じゃあ連れて行く? そんな自分の都合で子供たちの未来を失わせるわけにはいかない。

「置いてもいけず、連れてもいけず」っていうらしいですね、こういう状態のこと。



 そんな時に、母が仕事で東京に来るという話を聞きました。お母さんも忙しそうだなあ……、と思いながら、なんとか食べられそうなサンドイッチを買ってきて、一口かじったら、全く味がしない。粘土をかじっているようです。

 

 もう無理でした。 


 仕事中と知りながら、母の店から連絡を取ってもらい、母から電話がきました。

 母の声を聞くなり、私は泣き崩れ、

「助けて……お母さん……助けて……」

 そう言って意識を失ってしまいました。



 母が大慌てで飛んできて、何回も何回もチャイムを鳴らす音で気がついて、玄関を開けたら、母が、私の顔を見るなり、

「なに? なに? どうして? なにがあったの? こんなに痩せて! もう、ダメ、ダメダメダメ!! 帰るよ!! もう帰ろうね!」

 その時の私はどんな顔をしていたのでしょう?



「ここから逃げる」

 なんでそんな簡単なことに気づかなかったんだろう?

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