最終章 父娘の青春

1

 夏休み前にN―ONEは納車された。シゲチーの結婚式は秋だったんで、初運転では東京に行くことにした。GLAYのライブを一緒に観たかったし、それに、思い出の町をヒトミに見せたかったから。誕生日に買ってやったピンク色のアイフォンで、ヒトミはGLAYの曲をたくさん掛けてくれた。クラウドってのに接続すると古い曲も最新の曲もたくさん聴けるらしいが、やっぱ俺たちが一番好きなのは「REVIEW」。静かに巡行してくれるN―ONEの車内で、俺たちは「REVIEW」の九曲目を熱唱した。

 GLAYのライブはすげえよかった。アンコールであの曲が流れ、ヒトミが鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした。手を繋いだまま電車を乗り継いでホテルに帰り、ツインの部屋なのに、狭いベッドに並んで寝た。

 ヒトミは相変わらず俺のことを「お父さん」とは呼んでくれねえ。手紙にはあんな風に書いてあったけど、俺がヒトミにとって何なのか、ヒトミは俺にとって何なのか、未だに分かんねえ。

 次の日は車で思い出の地を巡った。イズミと住んでたアパートに行って、イズミとよく通ったドトールに行って、俺たちのことをたくさん教えた。ヒトミは気取った顔でそれを聴き、何も言わんかったけど、ひとことだけ「わたしが産まれた病院を見たい」と言った。病院には入れんかったが、手前にある公園で赤ん坊を抱えた若いお母さんに会えた。ヒトミは赤ん坊を抱っこさせてもらい、幸せそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る