第10章 家族になろうね

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 ひさびさにマリのお父さんに呼び出された。マリに聴いてたような、医者らしい堅物かと思えば意外とそうでもなく、話の分かるいい先生だ。俺とも趣味が合って、篠崎愛の写真集を使い古しだけど俺にくれた(が、その写真集はヒトミが発見するやいなやビリビリに破いた。なにしやがる)。足はほぼ治ってるんだが、何かいい話でもあんのかなと思い、ヒトミに黙ってこっそり病院を訪れたら、受付のお姉さんがどうも要領を得ない。俺も事情が事情なんでうまく言い出せず、しばらくまごついてたら、階段から降りてきたマリが俺を見つけるなり朗々とした声で言った。

「ミキオさん、お待ちしておりました!」

 え、用事があったのはマリなの? 確かにお父さんは「娘をよろしく」みたいなこと言ってたけど、電話取ったの会社だったんで長話もできんし、意味分からんからスルーしちまってた。マリとふたりで話すような用事、なんかあったっけ? 戸惑ったままぼけーっと佇んでたら、マリはお姫様みたいなしろいフレアスカートを翻し、跳ねるような足取りで階段を上がっていった。ヒールの高い黒のパンプスが木の板をリズミカルに叩き、昼下がりのおだやかな陽光が満ちる吹抜に、クラシックのピアノを聴いてるみたいな耳障りのいい音がとんとん響く。なんだよこの展開。ヒトミのことで相談か? その割にはやけに楽しそうだし。困惑したが、他にすることもねえし、とりあえずマリに着いてくことにした。花の女子高生とサシで話すんなら、よく分からん卓上電話の描いてあるTシャツとクソだせえニッカポッカじゃなくて、もうちょいお洒落してくりゃよかったな。あ、やべえ、昨日風呂に入ってねえや。

 二階に上がったことはねえが、カウンセリングルームがあるんだっつうことは知ってた。マリのお父さんの病院は内科だが、割と幅広くいろんな病気を診てくれるみたいで、なかには精神を病んだ患者さんもいるらしい。待合室でいかにも具合わるそうにしてた薄幸の美少女がふらふら二階に吸い込まれるのを見守ってたこともある。病院はお父さんのセンスが出てるっつうのか、すげえ綺麗で、二階も白木でできた廊下にシミひとつないベージュ色の絨毯が引かれ、ちょっとした教会か美術館みてえだった。廊下の右側と左側にそれぞれ不思議の国のアリスに出てきそうな意匠の扉がふたつずつあり、マリは右手奥の部屋に吸い込まれた。なぜか、怒られそうな予感がした。俺、なんかしたっけ。いや、いろいろしてるとは思うけど。あれか、イズミの件か。そのことでヒトミがマリに相談してて、そんで俺は友だち思いのマリにどやされるっつう、あれか。いろいろ考えてみたけど、マリが俺に用事があるといえば、そんぐらいしか思いつかなかった。やだなあ、怒られるのは会社でも慣れっこだけど。とりあえずいつも部長に呼び出されたときみたいに、シュンとした顔を作って部屋のなかに入っていった。

 カウンセリングルームとして使われてるらしいその部屋は、おおきな南向きの窓からレースカーテンごしのやわらかい光が溢れてて、けどそれ以外はちいさな机と椅子ふたつしかない静謐な場所だった。俺は無宗教だが、キリスト教の告解室ってこんな場所じゃねえのか。これまでの全てを泣いて謝りたくなった。

「どうぞ、お掛けください」

 いきなり土下座しようとしたら、いつの間にか椅子に座ってたマリが正面の椅子をおしとやかな所作で示し、俺にも座るよう促した。

 机のうえにはホチキスでA4の紙が左綴じされた冊子と、しっかり削られた鉛筆がふたつ並んでた。なんだこれ、テスト問題か? 係長昇進試験の緊張を思い出し、吐き気をもよおした。部長には「二回落とすのは前例がないからさすがに下駄を履かせてやった」って嫌味言われたっけ。

「あれ? トミーには何も聴いてないんですか?」

 俺が所在なく立ち尽くしてたら、マリがようやくおかしいなってことに気づいたみたいで、そう尋ねてくれた。いや、早く気づいてくれよ。ずっと生まれたてのアシカみたいな可哀相な顔してんじゃん。

「うん、何も聴いてない」

 そう答えて、出かける前、ヒトミの様子が不審だったことを思い出した。あいつ、このこと知ってたんだな。で、わざと何も教えず、のこのこ出かけてく俺を見て嗤ってたわけだ。くそったれ、嵌められたぜ。

 俺を椅子に座らせた後、マリが今日の用件を説明してくれた。なんでもマリは高校の課題で心理実験をしているらしい。専門じゃない女子校の、進学コースに行ってたと思うんだが、いまの高校はいろんなことをするんだな。そう感想を述べたら、ゆくゆくは医者になって、精神医学を学び、この病院を継ぎたいんだそうだ。立派なこころざしじゃねえか。俺は心理実験なんて占いみたいなもんだと思うし、別に信じちゃいねえんだが、ヒトミの友人の頼みなら一肌脱ぐぜ。つうわけで、俺はマリの言うとおり、その心理実験を受けてやることにした。

 冊子を開くと、問題が百問並んでた。「男女の友情はあり得ると思うか?」みたいなクソどうでもいい質問に「そう思う」「そう思わない」「よく分からない」の3パターンでひたすら答えていくタイプの心理実験で、まんま占いじゃねえかって思った。直感で答えろっていうから、とりあえず思うままにマークシートを埋めてった。三分ぐらいしかかからなかったんじゃねえかな。論述式の設問もある係長昇進試験よりよっぽど楽だった。

「はい、できた」

 ぜんぶ埋めたマークシートをぞんざいな仕草でマリに手渡した。なかなか手応えがあった。心理実験っつうもんがどう採点してくれんのか知らんけど。

 マリはそのマークシートを受け取った後、もう一枚の新しいマークシートを机に置いた。

「じゃああたしは判定してきますので、その間にこっちのマークシートも埋めといてもらっていいですか? ちょっと塗り方が汚いので、もうすこし丁寧にお願いしますね」

 ん? もっかい同じテストやんの? 同じ結果になんだけじゃねえの? 鉛筆を握ったまま、しばらく固まってたら、マリは、

「ただし、今度は、『トミーならどう答えるか』という視点で、記入してみてください」

 と言い残し、部屋から去っていった。

 問題用紙を再び開く前、鉛筆を鼻と上唇に挟んだまま、背もたれに身体を預けてしばらく考えた。椅子の軋む音がしずかな部屋にぎいぎい響く。ヒトミならどう答えるか? そんなもん、おまえ……。

 心を落ち着けて、ページを捲った。最初の設問は、「友だちと恋人なら友だちのほうが大事だ」。これは簡単だな、ヒトミは友だちを取る奴だ。「そう思う」。次の設問は、「キスは浮気に入らない」。あのやかましいヒトミがそんなん言うわけねえだろ。「そう思わない」。三問目、「友情は永遠だ」。これは「そう思う」……。

 気がついたら、全部のマークが埋まってた。自分の答案を作ったときより早かったんじゃねえか。ほぼなんも考えてない。考えなくても、分かるんだ。超能力でも特別なことでもなんでもねえ。だって俺とヒトミはずっと一緒にいたんだもん。それだけだ。

 扉が開いて、マリが帰ってきた。俺が退屈そうに鼻ほじってるのを見つけると、目を丸くして、

「すごく早いですね。ふつうは他人の答案を作るのはもっと時間かかるんですけど」

 と言った。うん、まあ、他人じゃねえからな。

 二枚目のマークシートの判定っつうのをマリがしてくれる間、あんまりに暇なんで腹筋して待った。ずいぶん腹が出ちまったな。もうシゲチーのことは言えねえな。まあ、ヒトミが作るメシは量が多いからな。胃腸の弱い俺だが、ヒトミの作るメシだけはちゃんと全部食う。あんときのサイゼリヤみたいに、たくさん残して笑ってるのも楽しいけど、たいらげたときのがヒトミがいい顔見せるって知ってるからな。腹筋を三十回し、腕立てもしようと思ったけどしんどくて、手触りが気持ちいい白木の床に寝転がってぜえぜえ息を吐いてたら、マリが戻ってきた。なんだか持って回ったような表情で、マークシートを机に置き椅子に座るなり、両肘をついて手のひらに形のいい顎を載せ、目線をましろい壁に投げた。口元がちょっと緩んでた。なんかこの表情、前に見たことがあるな。そうだ、俺がマリと初めて会った頃だ。マリがその表情を見せんのは、嫉妬してるときだって自分で言ってたっけ。

 腹の痛みを堪えながら上半身を起こし、背もたれを震える手で掴んでようやく椅子に座ると、マークシートの片方にはB、もう片方にはEと大きな赤色の文字で書いてあった。Eのほうが俺目線で答えたやつだな。Bがヒトミ目線だ。そっちのがちゃっちゃと答えたから、マークが乱れててよく分かる。

「このBってなに?」

 まだ息を切らしたまま尋ねると、マリはこう教えてくれた。

「この心理テストはよくある性格診断で、答え方によってA・B・C・D・Eいずれかの性格に分類してくれるんです。BはBrutalの略。『野蛮な性格』ってことを示しています」

 それを聴いて俺は吹き出しちまった。思いっきりヒトミのことじゃねえか。いかにもな心理テストだが、けっこう正確じゃん。こりゃ帰ったら気の済むまでヒトミを弄るしかねえな。最近ヒトミがますます賢くなって、口喧嘩しても一方的にやられてばっかだから、いい材料を貰ったぜ。

「……ちなみにEは、Eccentricの略です。まあ『変態』ですね」

 マリがつんと澄ました横顔でそう続け、俺の半笑いの表情は固まった。あ、この話題、ヒトミに振っても絶対俺が負けるやつだ。この件は伏せとこう、と心に誓った。

 マリはなにかを思い悩むかのごとく壁に目線を預けたままで、それ以上何も言わんかった。ああ、そういやこれ、心理実験なんだっけ。俺の性格がEで、ヒトミの性格がBってことは分かったけど、そっから何が言えるんだろう。あ、つうか、ヒトミの答案は俺が作ったやつだから、Bは「俺から見たヒトミの性格」ってことになんのか。じゃあやっぱこの件でヒトミを弄っても仕方ねえな。「ミキオ、わたしのことそんな風に見てたんだ!」ってキレられて終わりだ。ちえっ。ぬか喜びして損した。

 とりあえずこの心理実験の結論みたいなもんをマリが言い出すまで、俺は黙って待つことにした。性格だのなんだのは正直あんまり興味ないが、一応俺もマリの進路を応援してるつもりなんで、ちゃんと知っとくのが大人の責任ってやつだ。

 どんぐらい待っただろう。マリはいかにも着物が似合いそうな撫で肩をいっそう落とし、ふう、と勢いのいい息を吐くと、脇に置かれたファイルケースから思わせぶりな手つきで紙を取りだした。俺が答えたのと同じマークシートが二枚あった。あれ? このマークシート、ヒトミが答えたやつじゃね? 文字は書いてないが、薄くて丁寧な塗り方に見覚えがある。あいつもけっこう健気っつうか、店のアンケートとかよく答えてるからな。

 そっちのマークシートも、片方にはB、もう片方にはEと書いてあった。

「この心理実験は、他人の理解が自分のなかでどのぐらい歪むかを調べるものなんです。まず自分の性格を答えさせて、その次に他人の性格を答えさせる。そうすると、他人の性格は必ず自分寄りになるんです。Aの性格のひとは、他人の性格を答えてもAに寄りやすい。Bのひとも同じ。CもDもEもそうです。ひとは他人を分かってるようで、実は全然分かってない。結局自分と同じ考え方をしているようにしか捉えられない。そういう実験なんです」

 それを聴いて、俺ははっとした。とっさに机のうえに置かれた四枚の紙を見やる。俺が答えたBとEの紙。そんで、たぶんヒトミが答えたBとEの紙。そういうことか。

「けど、ミキオさんは違いました。ちゃんとトミーの性格を捉えてた。この心理実験、事前にトミーにもやってもらってたんです。そしたら、トミーの結果はBになりました。ミキオさんが当てたのと同じように。そのうえ、トミーに『ミキオさんならどう答えるか考えてやってみて』って言ったら、ちゃんとEになったんです」

 マリの表情を窺うと、やっぱりちょっと笑ってた。そういや「マリは実はミキオのことが好き」ってヒトミが手紙のなかに書いてたっけ。気恥ずかしくて、気まずくて、俺も笑った。

「それどころか、回答を見比べたら、トミーの回答と、ミキオさん目線のトミーの回答は、ほとんど同じだったんです。ミキオさんの回答も同じ。ほんともう、やになっちゃう。トミーの言ったとおりだった。こんなノロケられるんなら、心理実験頼まなきゃよかった」

 マリは口調をくだけさせてそう言い、俺を子どもっぽく睨んできた。やべえ、顔がクソ熱い。茹で蛸みたいに真っ赤になってんじゃねえの。

「家族って、なんなのかなあ」

 誤魔化したかったわけじゃねえけど、そう言ってみた。言ってみて、あ、これ、イズミの口癖だったって思い出した。

「それ、心理実験のあとに、トミーも言ってましたよ。ミキオさんにはちゃんと血のつながった妹がいたんだって」

 マリが冷たい口調のまま、そう教えてくれた。そうか、ヒトミ、やっぱイズミのこと、気にしてたんだな。今でも気にしてるんだな。

「ヒトミ、なんか言ってた? 妹の、その、イズミのこと」

 俺は上半身を机に預け、自分でも呆れるぐらいの勢いでマリに尋ねた。やっぱそのことはずっと気にしてて、でも誰にも訊けねえから、教えてほしかった。

 机がぐごご、といびきみたいな音を立てて床を滑った。俺の迫力がやばかったんだろう、マリは気圧されたように距離を取って頬をひきつらせたが、すぐに落ち着きを取り戻し、

「あたしは医者になるつもりだし、守秘義務があるから、言えないですよ」

 と言った。

 俺はがっくりと肩を落とし、額を机のへりにくっつけて、ぽつりと呟いた。

「やっぱイズミの悪口をむちゃくちゃ言ってたんだな」

 まんま独り言のつもりだった。

「言ってないですよ。むしろ、すごく褒めてました。自分よりもきれいで、自分よりも賢くて、自分よりも大人だって。初めて自分よりも強いひとを見つけて、それが一番負けられないひとなんて、すごく理不尽だって悩んでました」

 俺が慌てて顔を上げると、マリはまた俺から目を逸らしてた。

「これ独り言ですからね。聞こえなかったふりをしてくださいね。それにしても、トミーのことはあんなに分かってるくせ、かんじんの女心はぜんぜん分かってないんですね。トミーがかわいそう」

 その口調は、俺を叱ってるみたいだった。やっぱ今日は叱られるために来たんじゃないか。そんな気がした。

「家族って、なんなんですかね」

 マリのその言葉も、また独り言なんだろうか。それとも、俺を叱ってるんだろうか。あの頃、イズミがよく口にした言葉。マリの声は、イズミに似てると最初思ってたけど、よく聴くと違う。けど、もしイズミがそう尋ねてくれたんなら、俺は。

「家族ってのは、血縁があるから家族じゃねえんだ。結婚するから家族になるんでもねえ。養子を取って籍入れるから家族になるんでもねえ。つうか、そんなもんはねえんだ。けど、ちょっとずつ、ちょっとずつだけど家族に近づこうとする。そのけなげな努力を『家族』と呼ぶんじゃねえかって」

 あのサイゼリヤでの食卓はまさにそうだった。この答えのために、俺とイズミはだいぶ遠回りしたな。もともと俺たちは同じ家に暮らしてて、両親の仲もいいよくできた家族で、兄妹で、それで良かったのにな。親の反対を押し切ってふたりで東京に出てきて、ふたり暮らしして、イズミに子どもができて、産むっつったら両親にいよいよ勘当されて、気づいたらイズミもいなくなってて、なんだったんだろうな。でも俺はこれが「家族さがし」だったと、そう思うことがあるよ。イズミもそうだろ。だからあの頃、軽自動車の後部座席でキスしたあと「家族になろうね」って言ったんだろ。いま思えば、あの言葉が始まりだったな。イズミがいつも抱きかかえてた「ピーナッツ」。チャールズ・シュルツの描いたスヌーピーの絵柄。

 イズミと別れた後、懐かしくなり本屋であの本を探し開いてみたんだ。後部座席のことを語り合う回は、ペパーミント・パティが「安心」について尋ねた場面らしいな。なんでイズミはあの場面を「家族」に結びつけたんだ。「手を握って」ってのはペパーミント・パティの台詞だったんだろ。イズミ、お前にとっては、家族って何だったんだ。俺は兄じゃなけりゃ、いったい何だったんだ。

「それは、違うんじゃないでしょうか」

 マリの鋭利な言葉が俺の感傷を切り裂いた。しょうもねえノスタルジーに浸ってたことを気づかされ、恥ずかしくて今度は俺が目を逸らした。なんつうしろい壁だ。嘘でもついたら一瞬で分かっちまうような。いや、違うな。このしろい壁がヒトミなんだ。俺のしゃらくせえ嘘なんか、ぜんぶヒトミにはバレちまってたに違いねえのに、今さらよお。

「イズミさんはあなたのことを、男性として好きだった。ただそれだけです」

 そうか。その言葉、イズミの声で聴きたかったな。そしたら俺は、ちゃんと答えることができてたと思う。

「怒ってた? ヒトミ」

 きっと教えてくれないだろうと思ったが、訊いてみた。俺がシゲチーにいろいろ相談していたように、ヒトミもマリにはたくさん話を聴いてもらってたに違いなくて、だからマリは俺を呼び出したんだろう。

「あたしのほうが怒ってますかね。実をいえば、今日は、ミキオさんとトミーを別れさせようと思ってたんです。心理実験の結果次第ではそうするつもりだった。うん、あの結果を見て、別れさせたい気持ちは強くなったけど、それは無理だなってことも分かった。仲良すぎますよ、おふたり」

 マリのきつい口調ははっきりと怒ってて、自惚れながら嫉妬もあんのかもしれないけど、むしろヒトミの将来を心から思い遣ってくれてるんだな。ヒトミ、いい友だち持ってんじゃん。

「俺たちはどうしたらいいんだろうね」

 そう尋ねてみた。本当は「家族とはなにか」じゃなくて、このことをいちばんに知りたかったのかもしんない。

「それは、おふたりが一番分かってるし、おふたりしか分かってないんじゃないですか? そんなことより、トミーをぜったい幸せにしてあげてください。引換券なんでしょ?」

 マリは悔しそうな口調でそう言い立ち上がると、机のうえの紙を乱雑な手つきで集め、足早に去っていった。ましろい部屋には静寂だけが残された。俺は、許されたのかな。

 そうだ、俺たちがどうあるべきなのか、俺たちしか分かってねえ。俺は誰よりもヒトミのことを分かってるし、ヒトミは誰よりも俺のことを分かってる。分かってないのは、未来のことだけだ。俺たちは、その分からないことを分からなきゃいけない。そんなことをヒトミに教えたいと思った。教えられんのかな。無理かもしんないな。

 ヒトミがちょっと篠崎愛に似てると思ってることとか、教えたら、間違いなく殺されちまう。

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