第6話 自己嫌悪

和寿かずとし


 ワタルが呼び掛けると和寿は、布団に横たわったまま咳き込んだ後、ワタルを見た。


 驚いた表情になりながらも、ワタルの方へ手を伸ばしてきた。ワタルは彼の手を握ったが、握り返してきた彼の力は弱かった。本当に病人なんだ、と思った。


「和寿。あの……ごめん。ここまで押しかけてきちゃって。もう、むこうで待ってるのが無理になっちゃって。先生にも、行ってきなさいって言われるくらい動揺してて。だって、また連絡するって言ったのにしてこないなんて、何かあったとしか思えない。悪い方に、悪い方に考えて、止まらなくなっちゃって。来ないではいられなかった。馬鹿みたいだろ」

「そんなことない。嬉しいよ。こんな遠くまで来てくれて」


 言って、また咳をした。電話口で聞いたヒューヒューが、今も聞かれた。本当に苦しそうだと思い、全くどこも悪くないワタルも苦しいような気がしてきた。


 冷えた和寿の手をさすりながら、


「ねえ、和寿。僕は君にあやまらないといけないと思うんだ。この時期、ここは寒いって教えなかった。知ってたのに言っておかなかった。僕が悪くて、和寿はひどい風邪を引いたんだろう。ごめん。僕が悪かったね」


 泣きたい気分だった。和寿はワタルと視線を合わせると、


「お前は悪くない。そんなに自分を責めないでくれよ。悪いのはオレだよ? オレの認識が完全に甘かった。だからこの有様なんだ。お前が責任を感じる必要はないんだ。オレの方こそごめん」


 ワタルは、布団に横たわる和寿に、少し体を近付けた。乱れた髪を手ですいてやる。


「僕はもう、自分の感情をごまかせない。出来ると思ってたんだけど、ダメだった。僕の本当の気持ちを言うから、ちゃんと聞いてて」


 聞いて、と言いながら、言葉がなかなか出て来ない。ここまで来て、自分は何をしているんだろう、と嫌になった。和寿は、そんなワタルの言葉を、いつまでも待っていてくれた。何も言わず、ただワタルの瞳を見つめていた。


 どれくらいの時が過ぎたのだろうか。随分長い時間だったようにも、ほんの一瞬のようにも思えた。ワタルは、ようやく口を開く決心が出来た。


 和寿に触れている手が、震えていた。

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