第20話 どうすれば

 学園祭から五か月。季節は秋から春になり、新たな学年になり、ますます精進していこう、と心が弾んでいた。


 が、どうしてこうなったのだろう。



「最近、ずっと考えてたんだけど」


「オレは、おまえのことが好きなのかもしれない」



 言われた言葉が、ワタルの頭の中でぐるぐるしている。


 いつもとは違う空気を纏っていた和寿かずとし。合わせでは、今までミスしたことがないような箇所で、何度もミスをした。それが、あれのせいなのか?



「オレは、おまえのことが好きなのかもしれない」



 彼の心の迷いが、あの音だったのか。


 彼を救うには、ワタルが彼を好きだと言えばいい。が、それは言ってはいけない。彼には彼女がいる。彼が好きになるのは、女性だ。


 何度も自分に言い聞かせる。が、気持ちは全く言うことを聞いてくれない。自分の本当の想いが、いつか溢れ出してしまう、と思う。が、それは、絶対だめだ。


 和寿は、いつか気が付く。勘違いだったと気が付く。その時、きっとこの告白を後悔するだろう。


 そう考えると、胸がズキリとした。勝手に考えて、勝手に傷ついている。


(どうすれば僕たちは救われるんだろう……)


 泣く気力さえなく、俯きながら校門を出た。


 これからファルファッラで仕事だというのに、やる気はどうやって起こせばいいのだろう。いっそ、仮病を使って休んでしまおうか。


 そんなことを思っても、すぐにもう一人の自分が、いな、と言う。ここで逃げたら、もう、ピアノを弾けなくなるかもしれない。


(だめだ。行こう)


 決心してファルファッラへ向かった。


 ドアを開けるといつものように店長が笑顔で迎えてくれた。ワタルは無理矢理に微笑むと挨拶をして、いつもの通り更衣室に向かった。


 着替えを済ませて鏡を見る。そこには、悲愴な顔をしたワタルが映っていた。大きな溜息を吐かずにはいられなかった。



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