第16話 本音
「何だよ、ワタル。下向いちゃって。オレがかっこいいからって、照れちゃってるのか? ワタルくん、可愛いね」
からかわれて、つい顔を上げた。そして、
「違う……よ?」
何故か、疑問形になってしまった。
「何だ、それ。面白いな、おまえ」
「えっと……じゃあ、言い直す。違います」
「違いませんね。オレはそう思ってる」
「自信過剰だね。そんな風だと、その内に
南さん、と言う時、声が揺れてしまった。が、和寿はそこは気にした様子もなく、
「
真顔で返され、ワタルは、
「そんな。冗談で言ったんだよ。冗談。ごめん。僕がいけなかったです」
あわてて取り繕おうとしたが、和寿の表情は変わらない。
「前にさ、
「違う。僕が彼女の名前を出したから、こうなったんだよ? 悪いのは僕です。反省してます」
和寿は天井を仰ぎながら、「あーあ」と言った。
「和寿?」
「だけどさ、オレは後悔してるわけじゃないんだ。おまえと組んだからこそ、今日、今までで一番いい演奏が出来たんだから。オレは正しかった」
ワタルに言うというよりは、自分に言い聞かせているみたいだった。
和寿は姿勢を正すと立ち上がり、バイオリンケースを肩に掛けた。ワタルが見上げると、和寿は微笑んで、
「今日はここで解散しよう」
「うん。お疲れ様。今日の和寿、すごくかっこよかったよ」
つい、本当の気持ちを告げてしまった。
「あ、えっと、バイオリン弾いてる時、だよ?」
「はい、わかりました。オレはやっぱり、かっこいいんだよな」
「……」
「ワタル。本当に可愛いな。じゃあ、また」
手を振って去って行った。
うっかり口にしてしまった言葉を思い出しては、頭の中で、「どうしよう」を繰り返していた。
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