第45話 魔物との再戦
近くに魔物がいる。でも位置までは確認できていない。
「どの辺にいるの?」
小声でプレシャスに聞いた。
「右前方です。少し奥にいます」
「街に近いから放置は危険ね。下位魔物なら私でも対応できると思う。星剣ルビー。矢車サファイア。プレシャス、案内をお願い」
何時襲われても平気なように準備は怠らなかった。
慎重に足を進めた。討伐依頼を経験したからか、前ほどの緊張感はなかった。前方に何かが動く気配を感じた。目を凝らした。
「魔物はトリプルボアーね」
嫌な思い出が蘇った。
「気配は一匹だけです。如何しますか」
プレシャスに魔物退治はお願いできる。でも私が進歩しなくなる。トリプルボアー程度は一人で倒せないとイロハ様の世界を楽しめない。決意を固めた。
「一人で倒したい。それも剣で倒す。前回よりも上達した姿を見せるね」
「待機しますが、無理しないでください。危険と判断した場合は手助けします」
プレシャスに向かって頷いた。視線をトリプルボアーへ向けた。魔法の威力を弱く想像して狙いを定めた。
「紅球ルビー」
真っ赤な塊がトリプルボアーへ命中した。ここまでは問題ない。トリプルボアーが来たら盾で止める。次に剣で倒す。
トリプルボアーが突進してきた。緊張はあるけれど体は動く。盾から体がはみ出さないように構えた。足も踏ん張った。
危険な角を向けて近寄ってきた。
「私は平気よ。プレシャスはそのまま見ていて」
ライマインさんとの訓練を思い出した。もう一度足を踏ん張った。
トリプルボアーが盾にぶつかった。衝撃を盾が吸収した。横に移動してトリプルボアーの胴体を切りつけた。トリプルボアーがよろめいた。もう一度切りつけた。
その場でトリプルボアーが倒れた。目の前で発散するように消滅した。地面には黄色の自素石と角が残っていた。
大きく深呼吸した。
「見事な討伐です。もう少し経験を積めば、この周辺の魔物は平気でしょう」
「緊張したけれど倒せた。戦闘の腕が上達したと思う。プレシャスも見守ってくれてありがとう。旅ができるくらいは魔物退治に慣れたい。今はプレシャスの助けが必要よね。どの程度まで魔物を倒してくれるの?」
プレシャスなら中級魔物も一撃で倒せる。でも積極的には退治していない。きっと理由があるはず。
「アイ様が危険な場合以外は滅多に倒しません。本来わたしは地上に姿を見せません。わたしの関与が大きくなれば、世界の調和が崩れます」
プレシャスの力は想定以上に凄かった。好んで魔物退治をしない理由も分かった。
「危険なときは頼りにしている。自素石と角が出たから、街に戻ってハンターギルドで売りたい。昼食が遅れるかも知れないけれど、プレシャスは平気?」
「わたしは大丈夫です」
自素石と角を拾って街に戻った。
ハンターギルドの扉を開けた。いつもよりも人が多かった。食事の人もいるけれどハンターの数が増えていた。
ピミテテさんの姿を見つけた。近くに向かった。
「トリプルボアーを倒したから、自素石と角を売りたい」
「買い取りできます。素材ができたのですか。アイさんは運がよいです。鑑定します」
ピミテテさんが奥に行って鑑定装置を取ってきた。
鑑定を始めた。素材もこの装置で鑑定していた。素材は金貨二枚で売れた。思った以上に高価だった。
「トリプルボアーは一人で倒したのですか」
「初めて一人で倒せた。ライマインさんとの訓練が役に立った」
「実力がついて、わたしも嬉しいです。最近は街周辺に強い魔物が出現しているので、アイさんも気をつけてください」
「この前はスパイクベアーが現れたよね。同じような感じなの?」
「普段見かけない魔物もいます。スパイクベアーも同様だと思います。上位魔物の影響との噂よ。魔物退治に慣れたときが怪我しやすいから、アイさんも注意してください」
「初心を忘れないように頑張る。今日の用事は済んだから帰るね」
プレシャスと一緒にハンターギルドをあとにした。
トリプルボアーを倒した付近まで移動して転送魔法を使った。転送時の揺らぎが消えると部屋の中にいた。
「収集部屋ね。中央の魔方陣に出現できている。無事に家へ戻って来られた」
プレシャスは別の魔方陣へ歩いて行った。
「この魔方陣に置いてある箱に卵があります。アイ様が指定した魔方陣でしょうか」
「運搬時に使用する魔方陣だから想定した位置よ。革袋を利用した方法は便利ね。旅で使う魔方陣には日用品を揃えるつもり。快適な旅になりそう」
「どのような旅になるか、わたしも楽しみです。ただ旅先にも危険があります。無理しないようにしてください」
「期限はないから準備を整えてから行きたい。自分の身は自分で守れないとね。魔物にも気をつけたい。さきほどピミテテさんから上位魔物の話があった。この街も危険?」
「まだ分かりません。ただ上位魔物は、この街へ近づいていると思います。普段見かけない魔物が現れた原因もそうでしょう」
「何だか怖い。危なくなったら助けてね」
「危険がないようにアイ様を守ります」
「プレシャスの言葉を聞けて安心できた。魔物を倒したから、お腹が空いてきた。急いで昼食を作るね」
卵を手にとって収集部屋をでた。
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