第44話 街へお買い物

 街へやってきた。二刻の鐘は過ぎていた。でも昼食にはまだ早い時刻だった。

「お金の出し入れで転送魔法を試してみる。革袋を用意したから見た目は誤魔化せる」

 手持ちの革袋を見せた。手首まで入る大きさだった。口元は紐で閉じるから中身は見えない。何処にでもありそうな革袋にした。


「その革袋なら違和感はありません。何を買うのでしょうか」

「食材と日用雑貨ね。プレシャスは何が食べたい?」

「アイ様の手料理なら何でも嬉しいです」


「お米は充分にあるから、ご飯物にしたい。たまには卵料理がよさそう。お肉や野菜の残りが少しはあったはず。今日はオムライスにする」

「どのような食べ物ですか」


「お肉や野菜をご飯と混ぜて、最後に卵でくるむ料理よ。楽しみにしてね」

 オムライスに足りない食材を探した。

 何度も料理を作って分かってきた。全て同じ食材では作れない。特に調味料や香辛料は買って試すしかなかった。でも作るうちに思った味付けができるようになった。


 いつも卵を買っているお店に着いた。

「おじさん、今日は卵を四つほしい」

「豪華な料理にするのかい。小銀貨が四枚だ」

 イロハ様の世界では卵が高かった。でも買えないほどではない。


 革袋に右手を入れた。『瞬スギライト』と心の中で唱えた。収集部屋の小銀貨を取り寄せた。手の中に硬貨の感触があった。

「ちょうど四枚よ。卵が割れないように包んでね」

 無事に買い物ができた。店主の態度は普段と一緒だった。


 卵を受け取ると路地に移動した。

「魔法を使ったのですか」

「小銀貨は収集部屋から取り寄せた。今度は卵を収集部屋に送るね」

 卵を丁寧に革袋へ入れた。同時に転送魔法を唱えた。


「卵も送ったのですね。見ていましたが、誰も魔法を使ったとは気づかないでしょう」

「安全に旅ができて貴重品をなくす心配も減った。イロハ様の世界を楽しめる」

 街の外へ向かって通りを歩き出した。人目がないところで転送魔法を試したい。私とプレシャスが収集部屋に移動できれば、魔法の確認が終わる。


「旅で行きたい場所はあるのでしょうか」

「王都ザイリュムには行ってみたい。鉱石や宝石の原石を産出するケミダッタ王国にも興味ある。イロハ様の世界にある宝石を集めてみたい」

「収集部屋を宝石で埋めれば、イロハ様も喜ぶでしょう」


 集めた宝石を眺めて触って楽しむ。祝福の一時になりそう。せっかくなら他の人にも宝石のよさを知ってもらいたい。でも収集部屋では無理よね。別の手段が頭に浮かんだ。

「家の横に宝石博物館を造りたい。イロハお姉様にお願いできれば嬉しい」

「どのような建物でしょうか」


「宝石を展示する家よ。集めた宝石を私だけが眺めるのはもったいない。他の人にも見てもらいたいと思った。イロハお姉様の世界にある宝石は誰でも見たいと思うはず。もちろん商売で儲けようとは思わない。子供でも来られるように無料展示としたい」

「素敵な発想だと思います」


 いつの間にか門の近くに来ていた。門番にハンターギルドの証を見せた。この街の証明書なら無料で街に出入りできて便利だった。

 門の近くは人の往来が多かった。道なりに進んだ。前方の奥に木々が生い茂っている場所があった。


「向こうの茂みに隠れたら転送魔法を試すね」

 道を外れて進んだ。人も遠くに見える程度になった。木々の間に入れば魔法を使うには問題なさそう。


「アイ様、魔物の気配です。下位魔物と思われます」

 足を止めて辺りを見渡した。私には魔物の姿を確認できなかった。

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