第32話 初めての討伐依頼

 翌日になった。二刻の鐘がなる前にハンターギルドへ到着した。ライマインとの待ち合わせ場所だった。中を覗くとリリスールさんがいた。

「今日が初めての依頼と聞いたよ。緊張しているかい」

「大丈夫かといえば嘘になる。でも体は動くから平気よ」


「ほどよい緊張は必要さ。アイちゃんなりの進め方で依頼を受ければ平気だよ」

「他のハンターはもっと頑張っているの?」

「人それぞれさ。早くランクアップできれば報酬がよくなるよ。でも急いで依頼を受けて失敗や怪我をすれば意味がないさ」


 本来なら私は門前払いなのだろう。リリスールさんのおかげで試験を受けられた。ライマインさんが私を認めてくれた。コララレさんが魔法や使い魔に興味を示した。偶然が重なった結果だった。きっとイロハ様のおかげね。


「まずは一つ一つ依頼を達成したい」

「その心意気だよ。無理のない範囲で進めて一人前になっておくれよ」

「次の依頼ではリリスールさんに監視役をお願いしたい」

「嬉しい申し出だね。あたいと時間があえば歓迎さ。ライマインが来たよ」


 ライマインさんが中に入ってきた。こちらに歩いてきた。

「俺の準備はできた。アイの準備が整ったら依頼を始めるぞ」

「地図を持ったから大丈夫。ライマインさんは監視役だから、私一人で魔物を討伐するよね。プレシャスに手伝ってもらっても平気?」


「構わないが、最初はアイ自身で討伐を試みてほしい」

「できるだけ私が倒してみせる。プレシャスも見守ってね」

「アイ様の活躍を期待しています」

「アイちゃん、無理せずに頑張るのよ」

「ビッグポイズンフロッグは一匹ずつ倒していく。行ってくる」


 リリスールさんに見送られて、ハンターギルトをあとにした。

 地図を片手に街の門を通り過ぎた。ライマインさんは横にいた。話せば雑談にはのってくれる。ただ討伐依頼への口出しはしなかった。


 私の家がある位置と逆方向に歩き出した。道の両側には畑や田んぼが広がっている。遠くには森が見えた。森の中に川や沼が点在している。ビッグポイズンフロッグの生息場所だった。森からビッグポイズンフロッグが出てくると、人間や農作物に危害が及ぶ。


「プレシャス、私がビッグポイズンフロッグを見つける。魔物の気配を感じても黙っていてね。でも凶暴な魔物の気配なら遠慮なく教えて」

「今回は見守ります。アイ様の討伐姿を楽しみにしています」

「目指すは林の向こう側よ。私の活躍を見ていて」


 途中から脇道を進んで森の手前まで来た。私には魔物の気配を感じ取れるほどの力はない。でも物音や目視で確認できる。周囲を警戒しながら森の中に入った。

 少し開けた場所に出た。沼には水草が浮かんでいる。沼周辺には犬ほどもある大きな蛙が三匹いた。


「赤色と青色の斑点模様がある。この蛙がビッグポイズンフロッグね。確かに襲ってくる気配はなさそう」

「俺は口を出さない。アイの好きなように倒してくれ」

「私のやり方で倒してみる。星剣ルビー。矢車サファイア」


 六条の光をまとう剣と青色の丸盾を手に取った。魔物が近づく前に、魔法で片付ける予定。でも接近戦になるかもしれない。剣と盾があれば気持ちに余裕ができる。

 深呼吸して心を落ち着かせた。トリプルボアーの失敗は繰り返さない。丸盾の防御力は確認済みだった。慌てなければ平気。


 一匹のビッグポイズンフロッグに狙いを定めた。強さは宝石魔図鑑のままで試す。

「紅球ルビー」

 真っ赤な塊が飛んでいった。ビッグポイズンフロッグに命中した。一撃で消滅した。残りの二匹は襲ってくる気配はない。毒さえ注意すれば平気そう。


「紅球ルビー。紅球ルビー」

 二つの塊がビッグポイズンフロッグに向かった。先ほどと同様に一撃で倒せた。

「アイ様、見事な魔法です」

「魔法にも慣れてきた。魔物にも慣れれば、もっと楽になりそう」


「最初の討伐依頼としては冷静だ。アイには才能があるかもしれない」

「コララレさんとライマインさんとの訓練が役に立ったと思う。自素石を拾ったら、残り二匹を見つける」

「俺から指示はできないが、この調子で頑張れ」

「気を引き締めて魔物退治する」


 移動を開始した。途中でリーフウルフを三匹見かけたけれど、難なく倒せた。

 ビッグポイズンフロッグは森の中ほどで発見できた。四匹を倒して目標の五匹以上となった。自素石も拾った。


「ライマインさん、これで討伐完了よ。あとはハンターギルドへ戻れば平気?」

「簡単に倒せるのなら、もっと倒して報酬を増やせるぞ」

「最初だから無理はしない」

「自素石をピミテテに渡せば終わりだ。初回にしては上出来だ」

「無事に倒せてよかった。街へ戻るね」


 来た道を引き返した。最初にビッグポイズンフロッグを倒した場所まで来た。もう少しで街に戻れる。

「アイ様、魔物の気配です。中位魔物です」

 プレシャスの声に足を止めた。

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