第33話 プレシャスの実力

「プレシャス、魔物は何処にいるかわかる?」

「沼の反対付近です。まだこちらに気づいていないと思います」

「ひとまず安心ね。ライマインさん、このあたりでも中位魔物はでるの?」


「まず聞かない。俺一人では難しい中位魔物もいる。何の魔物か確かめて応援を呼ぶ」

 ライマインさんでも、てこずる魔物だった。私にはまだ荷が重い。戦うよりも相手を知ることが優先ね。覚えたての魔法があった。

「気づかれて戦闘になったら危ないよね。姿と音を消せる魔法がある。それがあれば近づいて魔物の正体がわかる」


「姿と音か。匂いは消せないが、風下から行けば平気だろう。魔物の確認に行く。仮に見つかったら俺が迎え撃つ。アイは回復魔法に専念してくれ」

「回復は任せて。姿と音を消す魔法中は離れないでね。案内はプレシャスに任せる」

「少し遠回りになりますが、見える位置まで案内します」


「魔法を使うよ。緑光スフェーン。黄光スフェーン」

 ルースが出現して淡い光が飛び出した。私たちを囲むように、緑色と黄色の薄い膜が二重になった。

「この膜から出ないでね。外からは姿が見えずに音も聞こえないよ」


「中からは外が見える。外の音も聞こえる。本当に大丈夫か」

「事前に試したから平気よ」

「慣れないと戸惑いそうだ。大丈夫なら何の魔物か確認したい」


「プレシャス、お願い」

「案内します」

 プレシャスに続いて歩いた。風を感じながら進んだ。木々の間も移動した。プレシャスの足が止まった。

「前方に見える枯れ木の奥にいます」


「スパイクベアーか。俺一人では倒せない。放置は危険だ。街に戻って応援を呼ぶ」

 私にも魔物の姿が見えた。二本足で立っているからか、トリプルボアーよりも大きかった。見た目はクマだけれど、全身にハリネズミのような棘があった。

「アイ様、別の方角から人間の気配です。複数人います」


「ライマインさん、指示をお願い。私には経験がないから無理よ」

 最善策は一番慣れているライマインさんの判断だった。

「冒険者か街の住人かは分かるか。冒険者なら一緒に倒す選択もある。街の住人なら魔物に気づかれると危ない」

「プレシャス、どのような人間か見に行ってくれる?」

「すぐ確認してきます」


 素早い動作で移動した。プレシャスの姿が見えなくなった。私とライマインさんはスパイクベアーの動きに注目した。

「スパイクベアーが別の人間に突進したら、魔法を撃ってくれ。俺が盾になって動きを止める。アイは攻撃魔法や回復魔法で援護を頼む」


「何処までできるか不明だけれど頑張る」

「このまま何事もなければ、街に行って人数を集める」

「アイ様、戻りました。子供もいたのでおそらく街の住人です」

 いつの間にかプレシャスが戻ってきた。


「街の住人はスパイクベアーから遠ざかる方向か」

 ライマインさんが聞いた。視線はスパイクベアーから逸らしていない。

「近づいています。いずれスパイクベアーも気づくでしょう」


「俺たちだけで倒すしかない。アイの使い魔は魔物退治に使えそうか」

「私もまだ把握しきっていないのよ。プレシャス、実力はどの程度なの?」

「スパイクベアー相手なら一撃で倒せます」

 平然と答えていた。ライマインさんが驚いたのか、視線をこちらに向けた。


「本当か? 上級ハンターでないと一撃では無理だぞ」

「プレシャスは嘘をつかないよ。プレシャスに退治してもらっても平気?」

 早く決断しないと街の住人が危なくなる。

「被害を少なくするには一番の選択だ。俺が倒すのには拘っていない」

「プレシャス、スパイクベアーを倒してくれる?」


「アイ様が危険になる可能性があります。すぐに倒してきます。お待ちください」

 プレシャスの姿が膨らんだ。大型犬ほどの大きさになった。

 隠れる意思がないのか、直線でスパイクベアーへ向かった。スパイクベアーもプレシャスに気づいた。迎え撃つようにみえた。


 プレシャスとスパイクベアーが交差した。プレシャスが向きを変えるとスパイクベアーが倒れて消滅した。プレシャスが犬のお座り姿で、こちらを見ていた。

「終わったみたい。プレシャスは凄いの?」


「今の俺では一対一で勝てない強さだ。自素石はアイがもらってくれ。心強い相棒だが周囲には強さを黙っていたほうがよい。使い魔を目的にパーティーに勧誘されるぞ」

「注意する。プレシャスが待っているみたい」

 プレシャスの元へ向かった。自素石は赤色で苺くらいの大きさだった。この大きさが中粒みたい。街へ戻る途中で四刻の鐘が聞こえた。討伐依頼完了の合図にも感じた。

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