第7石 スフェーン
第31話 錯覚するスフェーン魔法
明日は魔物退治に行く。ビッグポイズンフロッグを五匹倒す。魔物が出現する場所も事前に確認した。準備が終わって寝室にいた。横にはプレシャスがいる。
「初めての依頼よね。せっかくだから新たな魔法を作りたいと思う」
「どのような魔法でしょうか。魔物を倒すための攻撃魔法ですか」
「まだ戦いに慣れていないから、逃げるか隠れるかで使いたい」
「身を隠せると行動範囲が広がります」
たしかに姿が隠せれば戦闘自体を回避できる。
「姿と音を消す魔法の二つを作りたい。目の錯覚を利用して相手から見えなくなる。光の反射を変えるのなら、宝石はスフェーンに決まりね」
「どのような宝石でしょうか」
宝石魔図鑑を出現させた。スフェーンの頁を開いた。浮かび上がった映像は、黄色や緑色の色鮮やかなルースだった。
「輝きが強いルースよ。光の分散が強いから、身を隠すための錯覚を連想できた。スフェーンの難点は硬度が低いことね。研磨が難しいから、綺麗なルースが少ないのよ」
「眩しいくらいの輝きです。アイ様は色々な宝石を知っていて凄いです」
「宝石が好きだからね。語りきれないくらいの宝石を知っている。でもそれ以上に知らない宝石も多い。だから新たな宝石に出会うのが楽しみよ」
「スフェーンの輝きは独特に見えます」
「複屈折の影響ね。光がルースに入射したあとで二つに分かれる現象よ。ただ数カラット以上のルースでは、内包物が存在しやすいのが難点ね」
「他の宝石も詳しく知りたいです。でも魔法の内容にも興味があります」
最低限は姿を隠したい。でも音にも敏感な魔物はいるはず。魔法を作れる数は十枠残っている。姿と音を消す魔法は別々でも問題なさそう。
「魔法の効果が決まった。一つは姿を消す魔法ね。対象を中心に周囲から見えない膜が作られる。外から見ると、膜の中には何もない状態よ。もう一つは音を消す魔法ね。同様な状態を作るけれど、膜の中で発生する音は外に聞こえない」
「両方を同時に使えば、姿と音がなくなります。隠れて移動するには有効です」
プレシャスが私の顔を覗き込んだ。たぶん実際の魔法を見たいのね。言葉を話さなくても雰囲気で、プレシャスの考えが分かるようになってきた。
「今から効果と呪文を書くね。外は暗いから、この場所で魔法を試してみる」
宝石魔図鑑に効果を書き込んだ。呪文も考えた。立ち上がってプレシャスから離れた位置へ移動した。
「わたしが魔法の効果を確認すればよろしいですか」
「お願いね。最初は姿を消す魔法よ。
緑色のルースが出現して、緑色の淡い光が飛び出した。私の体全体を覆うように光が広がった。緑色の薄い膜ができた。
「アイ様の姿が消えました。後ろ側の壁は普通に見えています。気配は感じます」
プレシャスの顔は私のほうを向いていた。でも視線は合っていない。気配まではなくならないけれど実用性は充分だった。
「わたしには緑色の膜が見える。その先にプレシャスがいる。魔法は成功ね。クリア」
「アイ様が見えました」
「次は音を消す魔法よ。右手を挙げたら話すから聞こえるか教えて。
今度は黄色のルースで、淡い光も黄色だった。さきほどと同じように、私の体全体を黄色の薄い膜が包んでくれた。魔法が完成した。右手を挙げた。
「プレシャス聞こえる?」
大声で語りかけた。プレシャスの反応はなかった。何度か話しかけた。
「何も聞こえません。アイ様は声を出していますか」
成功のようね。せっかくだから姿も消して、同時にできるか確かめたい。『緑光スフェーン』と心の中で唱えた。
「両方の魔法を唱えたよ」
「姿まで見えなくなりました。声も聞こえません」
魔法は成功みたい。移動すると薄い膜も一緒についてきた。動きながらも使えて便利だった。両方の魔法をデリートで消した。薄い膜が消えた。
「これで見えるようになった?」
「声が聞こえて姿も見えます。アイ様の魔法は自由度が高いです。驚いています」
「何でも作れそうで私も驚いている。最強の魔法ではなくて楽しめる魔法を作りたい」
「世界を楽しんでもらえれば、イロハ様も喜ばれると思います」
「今度は遊び心のある魔法で楽しみたい。その前に明日の魔物退治ね。寝不足だとライマインさんに怒られそう。今日は早めに寝る」
ベッドに入って明日に備えた。
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