第18話 神殿と大聖女

 神殿の前に到着した。二階建ての石造りでひときわ目立っていた。私服姿の人や白色と青色で統一された制服姿の人もいた。

「私服が街の人みたい。制服姿の人は神殿関係者のようね」

「そうだと思います。今回もわたしは念のために口を閉ざします。おかしな発言はくれぐれも控えてください」

「なるべく気をつける」


 神殿の中に入った。外の光が注ぎ込んでいた。色が踊っている雰囲気だった。私服の人は同じ扉に向かっていた。お祈り場所かもしれない。数人は反対方向へ歩いている。

「初めて神殿へ来たと思いますが、お祈りですか。それとも怪我の治療ですか」


 振り向くと制服姿の男性が立っていた。制服の模様になっている金色の二本線が目を惹いた。年齢は四十歳前後に見えた。笑顔を見せて優しい雰囲気だった。

「神聖魔法を詳しく知りたい。神殿に来れば分かると思った」

「神官になりたいのですか。使い魔と別れる必要がありますよ」

 少女の私相手でも丁寧に話してくれた。


「純粋に知りたいだけよ。ハンターギルドのリリスールさんに教えてもらった」

「リリスール様の知り合いですか」

「私もハンターになったのよ。リリスールさんから招待状も書いてもらった」

 懐から招待状を取り出した。


「私はアイよ。使い魔はプレシャスね。神聖魔法がどのような魔法か知りたい」

「ワタシはターランキンです。神殿を案内しながら説明します。こちらにどうぞ」

 ターランキンさんの後を続いた。最初に案内された部屋は大きかった。


「イロハ様に日頃の感謝を述べる部屋です。神聖魔法は人々の心と体を癒やします。光と影属性から成り立つ魔法です」

 前方にイロハ様が祭られていた。色つきの窓から幻想的な光が差し込んでいる。私服の人が多かった。


 神殿の歴史を聞きながら移動した。

「こちらが祝福部屋です。見習い神官の適正判断や、イロハ様の啓示を感じ取れます」

 こぢんまりした部屋だった。淡い明かりの中にイロハ様の像が置いてあった。


「何か不思議な感じがする部屋ね。心が温かくなってきた」

「驚きました。アイさんには祝福を受ける資格があります。大神官でも祈る前に感じ取るのは困難です。聖女様になれるほど、イロハ様に愛されているかも知れません」


 ターランキンさんが私の顔をじっと見ていた。それほど常識から外れていたのね。でもイロハ様に愛されているのは確かだった。誤魔化す方法も覚えてきた。

「私は異国出身なのよ。そのせいかもしれない。一般魔法も使えなくて、神聖魔法を覚えられないと思う。宝石魔法という異なる魔法を使っている」


「異なる信仰ですか。惜しい人材です」

「それよりも神聖魔法を教えてほしい。まだヒールしか見ていないのよ」

「部屋を変えましょう。今の時間なら見習い神官が、魔法の訓練をしています」


 移動して重たそうな大きい扉の前に来た。制服姿の男性が二人いた。ターランキンさんは信頼されているみたい。私は止められることなく扉の奥へと入った。制服姿の人しかしない。本来は部外者禁止なのね。

「神聖魔法は怪我や病気を治すヒールと、状態異常を治すヒールラが基本です。大神官になると大怪我や大病が治せるヒールガが使えます。聖女様は特殊な魔法が使えます」


 案内された部屋には、少年少女が数名と大人が一人いた。部屋の後ろに移動した。

 少年少女の服装は、ターランキンさんと比べて簡素に思えた。金色の線も一本だけだった。みんな真剣な表情で魔法を唱えていた。リリスールさんに比べて、白色の淡い明かりが弱かった。明かりが点いている時間も長かった。


「魔法を練習しているの?」

「神聖魔法が使えて間もない見習い神官です。神官から訓練を受けています」

「杖などの道具は不要なの?」

 魔法使いといえば杖という認識があった。慣れれば不要かも知れないけれど、見習い神官なら使っていると思った。


「神聖魔法はイロハ様の加護で成立します。信仰心が重要です」

「感謝の気持ちが重要なのね。誰でも神聖魔法は使えるの?」

「一般魔法が使える人の中で、イロハ様の祝福を受けられるのは十人に一人です」

「貴重な人材なのね。私も訓練を頑張りたい。この前実践で足がすくんだのよ」


「慣れは重要です。慣れれば魔力の消費も減ります。誰でも怪我や病気は早く治したいです。神聖魔法は冷静さも欠かせません。他に知りたい内容はありますか」

「とても勉強になった。ターランキンさん、有り難う」


 別の少女が部屋に入ってきた。明らかに今までいた少年少女と異なっている。きらびやかな服装で凝った模様だった。桃色で線も五本ある。見覚えのある顔だった。後ろから服装が異なる、男女が二人続いて入ってきた。私よりも少し年上に見えた。


 少女は神官に話しかけた。見習い神官は訓練を止めてお辞儀した。ターランキンさんもお辞儀したあとに、小声で私に教えてくれた。

「大聖女様です。普段は王都にいます。後ろの二人は護衛です」

 この前街中で見かけた少女で間違いなかった。


 神官と話し終わると、こちらに顔を向けた。大聖女様と視線が合った。明らかに私を見ている。初対面よね。視線を逸らそうとしない。護衛が大聖女様に声をかけた。大聖女様は頷くと部屋をあとにした。


「大聖女様がこちらを見ていました。アイさんは知り合いですか」

「面識はないよ。誰かと見間違えたと思う」

「そうかもしれません。他になければ入口まで案内します」

 ターランキンさんにお礼を言って、神殿をあとにした。

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