第2石 ルビー

第6話 力強いルビー魔法

 宝石魔図鑑があればイロハ様の世界を楽しめる。魔法以外に宝石も堪能できるのが嬉しい。午後にハンターギルドへ行きたい。今は使い魔のプレシャスと家にいた。

「魔物退治には攻撃魔法が欠かせないよね」

「防御魔法はどうしますか。アイ様よりも大きい魔物がいます」


 プレシャスが心配してくれた。元の私は成人女性だけれど、今は少女の姿だった。元の世界で考えると中学生くらい。

「一度には大変かも。遠隔用と接近用の攻撃魔法を憶える。接近用なら防御にもなる」


「街周辺の魔物なら平気だと思います。でも無理はしないでください」

「徐々に行動範囲を広げるつもり。まずは宝石選びね。魔法にも興味があるけれど、宝石を眺められて嬉しい」


 宝石魔図鑑を開いて宝石を眺めた。有名な宝石から聞き慣れない宝石まであった。図鑑として眺めていられる。でも今は魔法を作るのが優先ね。

「攻撃魔法には威力が必要と思うのよ。宝石はルビーがぴったりね」


 頁を開くとプレシャスが覗き込んできた。

「赤色の宝石ですか。この世界にも同じ宝石があります。たぶん名称は異なりますが、アイ様は気にしなくて平気です。ルビーを選んだ理由を知りたいです」

 名称は自動変換される。イロハ様の世界で呼ばれている名前を知りたい。でも読んでも聞いてもルビーとしか分からない。


「ルビーはダイヤモンドの次に硬度が高いのよ。ダイヤモンドは衝撃に弱いから、ルビーのほうが扱いやすいと思った」

「頑丈な宝石を選んだわけですね。ルビーは神秘的な赤色できれいです」

「産地によって色合いが異なる。希少価値が高い色はピジョンブラッドといわれるルビーよ。大粒の無処理なら庶民には手が届かない」


「無処理があるのなら、その逆もあるのですか」

 宝石を語り合える。プレシャスが宝石に興味を示して嬉しかった。

「採掘された状態の色合いが無処理で、人工的に熱を加えたルースが加熱処理よ。熱を加えると色合いがよくなるのよ」


「人間は宝石で着飾りますが、処理を施すかは知りません。興味本位で魔法を付加する人間もいますが、威力は小さいです」

「私が使う魔法は宝石が重要と思うのよ。イロハお姉様の世界とは異なるようね」


 イロハ様の世界にある宝石は、元の世界と同じ感覚で使われているみたい。目を癒やしてくれる宝石があれば嬉しい。色々な宝石を楽しみたい。

「性質が異なるかも知れません。わたしの知らないルビーの話が聞きたいです」

「ルビーは人間が最初に作り出した合成石よ。天然石と合成石では価値が桁違いね。皮肉にも宝石の鑑別技術が発達した」


「興味が尽きません。この世界にも鑑定する魔法があります。能力が高いほど詳細な鑑定ができます。高度な偽物も見破れます」

 鑑定ね。鑑別と違う言葉よね。イロハ様の世界では鑑別も鑑定と聞こえるみたい。

「私の世界では鑑定と鑑別は別の意味よ。鑑定は宝石の価値を評価して、鑑別は宝石の種類を分析する。プレシャスには同じ言葉に聞こえている?」


「意味が異なりますが、どちらも鑑定と聞こえます。わたしには違いが不明です」

 自動変換も万能ではなかった。鑑定する魔法は鑑別と思えば済む。通常生活を送る上では問題なさそう。

「細かい違いまでは上手く表現できないみたい。でも鑑定する魔法の意味は分かった。そろそろ魔法を考えるね」


「どのような魔法を作るのでしょうか」

「接近戦を避けたいから遠隔用の攻撃魔法が重要ね。ルビーに似せて、炎の熱を持った塊が飛ぶと雰囲気が出そう。接近用の攻撃魔法は、剣に不思議な力が込まれている姿よ。腕力ではなくて魔法で相手を倒したい。見た目も凝りたい」


 遠隔用の宝石はピジョンブラッド以外考えられない。接近用はスタールビーを使えば立体的に作れる。威力や特性などの魔法効果を考えた。呪文も完成した。顔を上げるとプレシャスが待ち構えていた。

「魔法が作り終わったのですね」

「威力が重要だけれど見た目もこだわった。庭で試してみる」


 庭に出た。魔法の練習に適している広さだった。

「遠隔用の攻撃魔法は熱い塊が飛ぶ。危ないから空に放つね。紅球こうきゅうルビー」

 宝石魔図鑑が開いてルビーが出現した。真っ赤な塊が空に飛んでいった。

「まるでルビーが飛び出したようです。ルビーらしい魔法です」


 落ちた塊に手をかざした。熱を帯びていた。想定したとおりだった。

「次は数や大きさを変えてみる」

 事前に想像してから呪文を唱えた。想像した内容に威力が変わった。威力や範囲を調整できる嬉しい機能だった。


「次は接近用の攻撃魔法よ。見た目にこだわってみた。唱えるね。星剣せいけんルビー」

 ルビーの上空に剣が現れた。手に取った。細身な赤色の剣で六条の光がらせん状にまとっている。重さはほとんど感じない。私の力でも問題なく剣が振れた。


「武器と言うよりも装飾品です。アイ様の魔法には驚かされます」

「私も想定以上に綺麗でびっくりした。切れ味は実践で試してみる。デリート」

 ルースを消した。同時に剣も消えた。剣を作り出したルースが消えれば剣も消える。矛盾はないけれど違和感を憶えた。昨日の魔法を思い出した。


「水の魔法を憶えている? ルースを消しても床は水浸しだったよね」

「床に残った水を憶えています」

「今使った剣の魔法はルースを消すと剣も消えた。ルースを消しても、消えるものと消えないものがある」


「アイ様の魔法は特殊です。出現したものに違いがあるかも知れません」

「自然界に存在するものは残る。創造物は消える。そう考えれば理屈にあうかも」

 まだ魔法を使ったばかりで本当の理由はわからない。徐々に魔法を増やして試していく必要がありそう。目的だった魔法の確認が終わった。

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