第10話 その頃、別の電車内(未空視点)

 ※今回の話は、だいぶショッキングな内容となっておりますので、この話を飛ばしていただいても構いません。

 この場面を読まなくても、本編は問題なくお楽しみいただけるようになっております。

 もしかしたら、不快な思いや経験がある方には、過去の嫌な思いを思い出させてしまうかもしれないということを、先に明記しておきます。

 それでは、本編の方をお楽しみください

 さばりん


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 発車メロディーが鳴り終え、『ドアが閉まります。ご注意ください』というアナウンスが流れる中、私、春海未空は、階段を一気に駆け下りて、目の前の電車に飛び乗った。


「駆け込み乗車は危険です! お止めください!」


 恐らく、私に対して注意喚起をしているのだろうが、遅刻ギリギリになってしまったので、今日ぐらいは勘弁してほしいところだ。

 口で息をしながら、周りからの冷たい視線を向けられ、私はぺこりと一礼してドアの外へと視線を向ける。

 刹那、ドアが閉まり、安全確認を終えてから電車が出発していく。

 私は、額に搔いた汗を手で拭う。


「ふぅ……」


 すぐさま、バッグの中から手鏡を取り出して、乱れた髪の毛を整え直す。

 電車内は混雑していて、隣の人とぶつかってしまいそうな距離感だけど、身だしなみは女子高生にとって重大事項なのだ。


『えーお客様にお願いします。駆け込み乗車は大変危険ですので、お止めください』


 電車内でも、車掌さんが私に向けて注意してくる。

 ちょっとだけ、申し訳ない気持ちになってきた。

 手櫛で前髪を整えてから、私はバッグ中へ手鏡をしまい込んだ時、とあることに気づいてしまう。


「あー……」


 体育の授業があるのに、体操服を家に置いてきてしまったのだ。

 まあ、今日の体育は卓球なので、それほど汗をかくこともないだろうから、部活着で何とかやり過ごそう。

 ちょっと汗臭くなっちゃうのは仕方ないけど。

 そんなことを考えている時だった。


「……⁉」


 不意に、何か手のようなものが私のお尻辺りに触れてきた気がしたのだ。

 私は瞬時に首を後ろに向ける。

 しかし、私の方を気にしている乗客は誰一人おらず、それぞれスマホをいじっていて画面に夢中だ。

 気のせいかと思い、私が視線を窓越しの外へと戻す。

 電車が少し小高いところを走っているため、車窓からは都会の住宅街が遠くまでひっきりなしに連なっている。

 そんな風景をボーっと眺めていると、再びスカートの辺りに違和感を覚えた。

 少々の不快感を覚えながら無視してると……


 ガシッ!


 っと、今度は完全に私のお尻をスカート越しから鷲掴みにしてきたのだ。


「⁉」


 私が後ろを振り向こうとしたら、そのままもう片方の手で口元を抑えられてしまう。


「んっ⁉」

「おっと、静かにしてな」


 いつの間にか、私の背後に、金髪のガタイの良い男が立っており、いやらしい笑みを浮かべていた。

 金髪男は、力で勝てることをいいことに、私のお尻をいやらしい手つきでさわさわと撫で、叫ばれぬよう口を抑え込んでいる。

 いやっ……痴漢……!

 私は恐怖に苛まれてしまい、身体を強張らせてしまう。

 すると、男が私の耳元へと口を近づけてきて、小さな声で話しかけてくる。


「駆け込み乗車するような悪い子には、お仕置きが必要だよな?」

「んっ⁉」


 確かに、私は駆け込み乗車をした。

 けれど、だからと言って痴漢をしていい口実にはならない。

 だが金髪男は、なりふり構わず、私のスカートの中へ手を入れ、大胆にショーツ越しに秘部へと手を当ててきた。

 私は恐怖で声も出すことが出来ず、ただただ男のされるがままに身悶えることしかできない。


 誰か……誰か助けて……っ!


 そんな私の願いは無情にも届くことはなく……。






 私は、人生で初めて、被害にあった。

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