第7話 例のブツと帰り道のニョイ棒
二時限目の現代文の授業が終わったところで、聡太がコンコンと俺の机を叩いてきた。
「ん、どうした聡太?」
俺が尋ねると、聡太は辺りをキョロキョロと気にしながら、カバンの中からトトールの紙袋を取り出し、俺に手渡してくる。
「これ、お前に頼まれてた例のブツ」
「おっ、サンキュ」
俺も聡太のソレを察して、トトールの紙袋を受け取り、すぐさまカバンの中へとしまい込む。
一応確認のため、バッグのチャックを開いた状態で机の上に乗せ、トトールの紙袋の中身を確認する。
中には、さらに黒のビニール袋が入っており、俺はビニール袋の口を手でそっと開く。
すると、見えたのは、可愛らしいデザインの女の子達が描かれたラメ入りのボックスパッケージだった。
そう、これは俺が聡太に頼んでおいた、ゲームの初回特典限定版である。
しかも、普通のゲームではない。
世間一般でいう、エロゲーというヤツだ。
俺はようやく手にした初回特典版のパッケージを覗き込みながら、つい頬を緩めてしまう。
端から見れば、バッグの中を覗き込みながニタニタしているただの気持ち悪い変質者である。
「ったくよ。始発で買いに行くのマジで大変だったんだからな?」
「本当にありがと。どうしても欲しかったんだけど、練習試合が入ってて買いに行けなかったから助かったよ」
「ちな、これレシート」
俺は聡太からレシートを受け取り、金額を確認して、財布を取り出した。
「はい、お釣りいらないから」
そう言って俺は、万札を取り出して手渡した。
「いや、別に定価でいいって。俺もゲーム自体はプレイするんだから」
「聡太には、わざわざ店頭に買いに行かせちゃったわけだし、これは俺からの感謝の気持ちと交通費分だと思って受け取ってくれ」
俺は強引に、聡太の手のひらへお札を握らせた。
「それに、聡太はもうPCにゲームダウンロードしたんだろ? 俺は休日にしか時間取れないし、聡太の方が先にプレイすると思うから、ネタバレしない程度に感想教えてくれると助かる」
俺がグッドサインをすると、聡太も応えるようにしてサムズアップした。
「任せとけ。今日徹夜してやり込む予定だからな!」
そんな、男同士の秘密の約束を交わしている時だった。
「なーに二人で仲良く笑い合ってんの?」
不意に後ろから、春海の快活な声が聞こえてくる。
俺はびくっと身体を震わせて、咄嗟にバッグの口を閉めた。
「おう春海。どうしたんだ?」
「それはこっちのセリフ。二人して何焦ったような顔してんの?」
「そ、そんなことねぇよ。なっ、聡太⁉」
「お、おうよ!」
「……怪しい」
ジトリとした目で春海は訝しむ様子で見つめてきたものの、追及しても無駄だと思ったのか、ふぅっとため息を吐いた。
「まっ、いっか。ってか聞いてよ裕介! 朝折角裕介の和訳写させてもらったのにさ、全然違う箇所当ててきて――」
春海がすぐさま話題を英語の時の話に移してくれたおかげで、エロゲの件を深堀りされずに済み、ほっと安堵の息を吐くのであった。
◇◇◇
部活終わり、駅に辿り着いた俺は、帰りの電車をホーム上で待っていた。
俺が使用している駅は、さほど乗降客が多い駅ではないため、ホームで電車を待っている人はそれほど多くはない。
と言っても、ここは都内近郊の都市部。
各乗車口に五、六人程度のお客さんは待っている状態だ。
しばらくして、電車がホームに入線してくる。
電車内を見ると、帰宅するサラリーマンや他校の学生達でごった返しており、朝と同様多くの乗客で混雑していた。
電車が完全に停止して、ホームドアと電車の扉が開くと同時に、降車するお客さんがぞろぞろと降りてくる。
降車する人を待ってから、俺は車内へと乗り込んだ。
発車メロディーが流れる中、俺は乗車したドアとは反対側の扉まで移動する。
朝に比べ、比較的スペースはあるため、俺は地べたに荷物を置き、プライベートスペースを確保した。
『ドアが閉まります。ご注意ください』というアナウンスと共に扉が閉まり、しばらくして電車がゆっくりと動き出す。
俺は、バッグの中からトトールの紙袋の中から、ブックカバーのされた文庫本を取り出した。
これは、例のゲームの初回特典版についてくる短編小説である。
シナリオライターの人が書き下ろしで書いたというこの傑作を手に入れたいがために、聡太に休日の朝から並んでもらったのだ。
早速俺は、短編小説を読み始めていく。
~~~~~
愛しの義妹である裕子がコンコンと扉をノックして入ってくる。
「お兄ちゃん……」
「ん? どうした裕子?」
俺が尋ねると、裕子は頬を紅潮させ、モジモジと身体をよじっていた。
「あのね、お兄ちゃん……私たち、付き合ってもう一週間経つでしょ?」
「えっ? あっ、そうだな」
「それでね……その……付き合って一週間も経ってて、一つ屋根の下に住んでるのに、何もアプローチがないのもどうかと思ったの」
「えっと……つまりそれって。俺がもっと裕子にガツガツ行っていいってことか?」
無言のままコクリと首を縦に振る裕子。
生まれて初めての彼女ということもあり、もっとじっくり育んでいけばいいと考えていた。
しかし、どうやら彼女と俺の間では、見解が違ったらしい。
「ご、ごめん裕子。俺、全然裕子の気持ちに気づいてやれなくて……」
「ううん……平気だよ」
「何かして欲しいことがあるなら何でも言ってくれ! 俺は……裕子の彼氏……なんだからさ」
「本当に? なんでもいいの?」
「あぁ……男に二言はない」
俺がそう言い切ると、裕子はタッタッタっとこちらへ駆け寄ってきたかと思えば、そのまま突進するように思い切り抱き着いてきた。
「おわっ⁉」
勢いが強すぎたため、俺はバランスを崩し、そのまま二人してベッドの上へと倒れ込んでしまう。
「いててて……裕子大丈夫か? 怪我は……」
「お兄ちゃん……」
俺は言葉を失ってしまう。
無理もない。
なぜなら、裕子が恍惚な表情を浮かべ、馬乗りの状態で俺を見下ろしてきていたのだから。
「お兄ちゃん。私、もう我慢できないの」
「ゆ、裕子……」
裕子が、おもむろに自身の手を俺の息子へと伸ばして、ぎゅっと握りしめて、こちらを見つめてくる。
「ねぇ……どうしてココ、おっきくしちゃってるの?」
「そ、それはその……」
狼狽える主人公、それをいいことに、ヒロインはにやりと笑みを浮かべて、耳元へと顔を近づけて……。
「ねぇ……今なら誰も家にいないし、私が気持ちいいこと、してあげよっか?」
そんな魅惑的な言葉を囁いてきた。
目を見開き、裕子を見つめると、彼女は妖艶な笑みを浮かべ、舌なめずりする余裕すら見せている。
~~~~~~~~
いきなり始まる義兄妹のR18展開に、俺は思わずごくりと生唾を飲み込んでしまう。
さらには、電車内でエロ本を読んでいるような背徳感に駆られてくる。
心なしか、自身の下半身まで熱を帯びてきているような気がした。
「ねぇ……ちょっと……」
俺は恐る恐るページをめくると、そこには、見開きページをどどーんと使って、胸元を強調しながら彼の足と足の間に挟まるヒロインの姿が――
「うっ……」
これ以上はまずいと思い、俺は咄嗟に小説をパシっと閉じた。
辺りをきょろきょろと見渡し、誰にも見られていないか確認する。
「ねぇってば!」
すると、窘るような声が俺に向けられたような気がして、声の方へ顔を向けてみた。
ドア越しにいたのは、白と水色のラインを基調にした制服を身に着けた、金髪の女子高生。
顔を真っ赤にして、こちらを睨みつけている。
そしてなぜか、俺の下半身が妙にこそばゆい感触に浸っている気がした。
視線を下に向けていくと……。
なんということでしょう。
無意識のうちに興奮してしまったらしいにょい棒が、膨張状態となり、金髪少女のお尻へツンツン、ツンツンと立ったままこんにちはしているではありませんか。
金髪の女の子は、見悶えるようにして、お尻をフリフリと振ってニョイ棒から逃げよう必死にもがいていた。
「うわっ……ごめん!」
俺はとっさに前屈みになって腰を引き、お腹の下あたりを手で覆い隠す。
金髪の女の子の方へ恐る恐る視線を向けると、今にも泣きだしそうな様子で、目元に涙を浮かべていた。
これやっていること、痴漢と何にも変わらないじゃねぇか!!
やばい……叫ばれる……!
俺の順風満帆な青春時代の終割を覚悟した時だった。
電車が徐々に減速していき、途中駅へと到着する。
女の子はギロリっとこちらを睨みつけながら……。
「なに電車内で欲情してんだし、この変態!」
と、俺の耳元で小さな声で罵倒すると、そのまま後方で開いているドアから、駅のホームへと降りて行った。
警察案件を回避して、命拾いをした俺は、ふぅっと安堵のため息を吐いた。
「あぶねぇ……人生詰むところだった……」
まさか無意識のうちに、オスが反応してしまい、車内で女子高生の臀部へ自身のニョッキを押し付けるとか、とんだ変質者だ。
「あぁ……やっちまったぁぁぁ……」
俺は思わず頭を抱えてしまう。
これからは、ちょっぴり刺激の強い小説は電車内で絶対に読まないようにしようと誓うのであった。
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