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 ホスピスの、彼女の隣。

 部屋の映像。

 部屋から、彼女が、消えた。

 通信を入れる。


「終わったよ」


『そうか』


「ひとりしてくれ」


『わかった。しばらくは連絡を入れないでおく』


 通信が、切れる。

 涙も、出なかった。

 彼女は、いなくなってしまった。もういない。

 あとは、この、ホスピスの彼女の身体だけ。

 少しずつ、何かの数値が減っていっている。ほんの、少しずつ。

 彼女の身体も、消えようとしている。


「ねえ」


 こえ。

 声がした。

 彼女。


「おはよ」


 ちいさく、か細い、声。

 目が、覚めたらしい。


「おはよう」


 なるべく、せいいっぱいの笑顔で。

 無理だった。

 笑顔に、ならない。


「夢を見てたの」


「どんな夢?」


 もうすぐ消える、彼女。こころが、ほんの少しだけ、帰ってきたのだろうか。


「あなたが、しぬ夢」


「あはは」


 彼女の手を握る。


「ここにいるぞ」


「そだね。ここにいる」


 彼女の手。握り返してこない。


「初めて会ったとき。覚えてる?」


「ゲーム売場だろ」


「ふたりで、違う列並んでてさ」


「覚えてる」


「あの、喫茶店は?」


「覚えてるよ」


「たのしかったね」


「ああ」


「また」


 行きたいね。

 たぶん、そう言ったんだと、思う。口だけが動いて、声は、出てこなかった。

 それっきりだった。

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