第3話

 この部屋を、出てしまおうか。

 ちょっとだけ、思って。すぐやめた。

 この部屋を出たら。

 彼のことを、忘れてしまう気がして。

 彼のことを、考えていたい。

 彼の隣にいたい。

 彼はいない。

 この部屋だけが、唯一の。

 彼との、思い出。

 そんなことはないけど。一緒に行った喫茶店とか、初めてふたりが出会ったゲーム売場とか。いろんな思い出が。この街にある。

 この部屋を出たら。

 違う。

 この部屋を出て、彼の思い出がある街並みに。彼との記憶に。そこに、彼がいないと分かってしまうのが、理解してしまうのが。こわい。

 彼がいない。その事実を。受け入れるのが、こわい。

 でも、今。

 ここにいても。

 彼は。

 いない。

 部屋に彼は、いない。

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