第15部 第10話 眼光
「今回会敵したヤツらは、もしかしたら最大の脅威かもしれません」
申し訳ないといった雰囲気も無くミィントと対面できるオスクはやはり有能だ。戦闘としては大敗だったが、そこで得た情報は今後の
「うむ、してオスクよ・・・その相手とは誰だと思う?」
「場所的にはIE・・・と言いたいところですが、いくつかの企業連合と考えた方が自然でしょう。もちろん、その最奥に居るのはあのオンナでしょうが」
ミィントに思案した様子もなく、おそらくは最初から1つ目の質問として決めていただろう問に、オスクもまたそれを想定していたかの様子でスラスラと答えた。互いに次の題目が何なのかも当然に分かっている。
「やはり〝敵〟か?」
「明確な敵ではないでしょうな。むしろそれより扱いは悪いでしょう」
ミィントの眉がピクリと動いた。その瞬間まで予定調和かのような内容だと思っていたものが、突如として大きく乱されたことに、自分で意識するでもなく表情筋が反射的に動いた。
「・・・なるほどな、我々も地球のヤツらも、あのオンナにとっては駒だということか」
ほんのわずかな間があれば、ミィントにとって正解を導き出すに十分だった。自らの考えていたことに容易にたどり着いたミィントを前にして、オスクはミィントの考えを否定もせず、ただ沈黙を守り、先を促した。
「やはりあのオンナは好かんな・・・利益をエサに企業を釣ったか。13DとGMも組んでいると見ていいな。MAの供給量コントロール・・・ソレによる戦争の永続、か。〝よもや〟とは思っておったが〝まさか〟事実とはな」
そう言うミィントの表情に言葉が示すような憤りのようなものは現れていないように見える。それどころか、その口元には薄っすらと笑みさえ浮かべているように見えた。
「よもや・・・ということは予見していた、と?」
「うん?・・・まぁ、そうだな。キサマには黙っておったが、MAの製造ラインはいくつかの基地内で稼働できる状況にまである。無論、巨大企業ほどの生産能力はないがな。
もともとデスクの上で組んでいた両手を持ち上げるようにして口元に寄せた。もしかしたら口元が緩んでいることに自ら気付いたことで、ソレを隠そうとしたのかもしれないと思いはしたが、ソレを指摘するのもヤボかと口にすることはしなかった。代わりにと言っては何だが、改めて胸を張る。それほど崩れた姿勢ではなかったのだから、姿勢を正すというほどのものではなかったが、もともと巨漢の部類に入る体躯が一回りほどさらに大きさを増したようにも見える。
「すでに帰路でFallen’sの再編計画は仕上がっています。つきましてはお力をお借りしたいところですが・・・ショウ・ビームスをFallen’sへ召致して頂きたい・・・隊長として」
「ほぅ?構わんが、ソレで勝てるのか?あのオンナに」
ミィントの目にギラリとした光が宿ったように見えた。これまでにその目を見たことはあったオスクだったが、ソレが自らに向けられた記憶は思い出そうとする限りには記憶に無い。オスクの記憶にあるその眼光を向けられた者は、安直にその場を逃れようとした者や、ただただ強さだけを求めた者たちだった。
「勘違いされているようですね。先ほどおっしゃったではないですか・・・〝敵〟ではなく〝駒〟だと。あのMA群は専守防衛軍といったところでしょうな」
ミィントの眼光は依然として鋭い。その威圧感たるや、正面から耐えきれる将官は同級であろうと数少ない。ウワサに聞くその眼光を正面から受けたことが事実上初めてだったオスクではあったが、今回に関しては臆す要素が無いと分かっていたのだから、耐えきることなど造作もない。オスク自身、自分がどんな目をしているのか不安がありつつ、サングラスをしていることが幾分か気休めにもなっていた。
ミィントの眉がやはりピクリと動いた。見上げて来るミィントの目が「小癪な」と言っているようだ。
「・・・ああ、確かに言うたわ。ハチの巣と一緒だと言うのだな?」
「ええ、こちらから突かなければ出て来んでしょうな」
無表情を装ってはみたものの、ミィントはオスクの口角がわずかに上がったのを見逃さなかったらしい。
「オスクよ・・・そうは言うてもヤツらの望みが戦争ならば、我々が
オスクからの視線から隠れるように、自然と手を口元にあてがっている。
「ム・・・そうなると三竦み・・・ですか。それは我々の望むものではありませんな・・・しかも実質的にはヤツらが支配していることになる・・・」
「そういうことだ。だがな、オスク・・・間違いではないぞ?内製できる高性能MAの所持とそのパイロットの確保は必須だ。その部隊・・・キサマに預ける」
任命されるまでの僅かな間が気にはなった。だが、その間の意味を推し量れるほどミィントの表情は豊かでない。その空白の意味どころか、そこに意味が含まれているのかさえも分からない。相手がミィントである以上、それ以上の労力をここで割くのは得策でないだろう。ならば与えられた材料をどう調理するかを考えた方がよほど建設的というものだ。
「招致しました。Fallen’s以上のMA部隊に仕上げましょうぞ」
StarGazer内のエリートMAパイロットを、実力主義で選りすぐったFallen’sが太刀打ちできなかった相手。その相手に優勢を得るためには、Fallen’s以上のパイロットとMAが欲しいと考えるのは自然な成り行きだ。だが現実問題として、MAはともかくFallen’s以上のパイロットなど部隊編成に足るだけの人数を揃えられるとは思わない。現状でもStarGazer内で屈指のパイロットたちが揃っていると考えられるFallen’sに欠けているモノは、優秀な指揮官だ。前任の部隊長がそうではなかったかと言えば、最後となったあの戦闘においても、そこで矢継ぎ早に行われた数々の判断や指示は実に優秀なモノだった。ただ、あの時の相手にとってその〝優秀さ〟では足りなかったということだ。彼の指揮能力を上回る者などそれほど多くはない。その役目を負える者が居るとすれば、自身が種類を選ばないMAのスペシャリストであり、配置される各地で高い指揮能力を発揮し続けているショウ・ビームスは筆頭だろう。彼を中心とした部隊編成はすでにオスクの頭の中にあった。
ショウ・ビームスはその能力の高さがあるものの、
オスクは数度彼と対面している。その都度感じる印象はしかし、他の将校たちとは異なっていた。彼の目に潜んでいる鋭い眼光をオスクが見逃すことはなかった。
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