第十五部 第6話 少女の歌声
「それが出来るヤツがそんなゴロゴロ居てたまるかっ!」
ロンの叫びはGMの代表であるが故のものだろう。当然、13Dの代表であるボルドールもその感覚を共有できている。もしもコレが
「ロン!落ち着くんだ。アレはウチとGMで共同開発した機体ですよ。スペック上の最大出力以上ではない」
「まともにコントロールできずに自爆ですよ。コチラは距離を取っておけばいい」
ボルドールのその言葉に少し落ち着きを取り戻したロンではあったが、胸中ではまだ納得には程遠い。彼らFallen’sはRAWooに関して熟知しているはずだ。だからこそリミッターのことを理解しているし、それを解除する方法も知っている。RAWooの最大出力をすでに経験もしているのだろう。そんな彼らがこの場面でなぜリミッターを解除した?
「いいやチガウね。少なくともあの2機のパイロットは制御できる。じゃなけりゃ、制御する手段を持っている」
そうでなければリミッターを解除したイミは無い。ロンは
「これで何かわかるだろうさ」
Urielの装備するライフルは長尺の物だ。切り替えによって一発の破壊力や貫通力を上げることも、マシンガンのように乱射させることもできる。トリガーを引かれて射出されたビームの弾丸はマシンガンのごとく、それでいて隊列をバラつかせるように2機のRAWooを目指した。Urielの周囲に展開している
「くそっ!やっぱりかよっ!」
ソレは直撃の直前ではなく、UrielとRAWooの間で言えば、まだUriel寄りに弾丸が位置していたタイミングで、2機が大きく弧を描くように左右に展開した。体への負担が大きい鋭角的な動きは避けていることがうかがえると同時に、弾丸が射出されたタイミングからそれほど経過していないタイミングでの展開だったことで、2人のパイロットがバケモノじみた反射神経をしていることが分かる。
「冗談でしょう!?ちゃんとコントロールしている?」
まるで大奥への扉が左右に開いたかのように見えた。その向こうから大奥へ侵入してくるのは、5機のFallen’sだ。一瞬残りは7機だったはずだと焦り、辺りへ視線を走らせたボルドールだったが、その目が捉えたものは、突進してきた2機と同じように左右でNLBMをそれぞれにサーベルで押さえつけているMAの姿だった。速度の分だけ威力が上乗せされているのだろう。NLBMたちも簡単には押し返せていない。
「その首、もらい受けるっ!」
Hanielに向けて最終加速をしかけようとした瞬間、その前に5機のNLBMが滑り込んできた。味方とは言え、まだそれだけの余裕を残していたのかと驚きつつも、相手もすでに言い放った言葉を覆すつもりはないようだ。Fallen’sの残された5機は、間に割り込んで来た5機のNLBMを目にしても突撃を止めるつもりは微塵もないどころか、全機がビームサーベルを引き抜いた。
「舐めてくれるなっ!」
ボルドールもそんな5機のFallen’sを見て、委縮することも恐怖することもなく、Hanielの両手にビームサーベルを握らせた。それまで手にしていたビームライフルは、音もなく宙を漂っている。
おそらく、Fallen’sの攻勢を見て数機を戦場に残したのだろう。そして撤退を開始したFallen’sの残りの誰かが、艦隊に座標を指示していたのだろう。ボルドールのミリアークを信頼しているからこそ発せられた叫びに反応したロンではあったが、艦隊からの艦砲射撃と戦場に残った数機のFallen’sから撃ち込まれる弾幕に、ボルドールから少し離れた位置から動くことができずにいた。
Fallen’sの機体がそれぞれ、NLBM1機を請け負うように組み付いていく。もはや力業以外の何物でもない。〝一人一殺〟とでも表現すればいいのだろうか?実際に撃破するに至ってこそないが、ターゲットまでの壁となっていたNLBMは1機を残して全て、Fallen’s隊長機の正面から排除に成功した。残りは1機のNLBMと、その奥でサーベルを構えるボルドールのHanielだけだ。
「驚きはしたがっ!キサマらは無人機だろっ!!」
過去の戦争という歴史の中で無人兵器は常に研究され、開発されてきた。戦争の主役がMAに変遷して以降、MAの無人化も常に研究されてきたことではあったが、やはりその複雑な操作を筆頭に、ソレを実現するためのハードルはあまりにも高くそびえていたのが現状だ。あのADaMaSでさえも(やろうとしたかどうかは定かでないが)MAの無人化は果たせないままに終わったことは、MAの無人化が不可能であることを暗に示している。
目の前に存在するMA群。その中に2機、隊長機だと思える機体が居る。その2機は間違いなく有人機だと感じるが、それ以外の機体からは戦場で時折感じるプレッシャーのような感覚を全く受けない。最初、それが何故なのかは分からなかった。だが時間の経過とともに、それらのMAがわずかな乱れもなく統率が取れた動きをしていることに嫌でも気付かされた。
最初、それだけの統率的な部隊の連動を可能にしているパイロットが存在していることに驚愕した。自分たちFallen’sはもちろん、これまで戦場で出会ったどんな部隊でも、ここまでの連携を見たことは無い・・・当たり前だ。それは不可能なコトなのだ。
不可能でも現実に起こっているコトに対して、自分は何をすればいい?だがもし、不可能たらしめる前提の不可能が可能に変わっていたとしたら?目の前に居る部隊がMAの無人化を成した部隊だと仮定したとき、この異常な連携力が異常なモノでなくなった。その瞬間、Fallen’sの隊長には、敵の部隊を攻略する道筋が見えた気がした。
「人間の・・・俺たちが賭けている命をバカにするなよっ!!」
たった一度の急激な負荷にさえ耐えることができればそれでいい。NLBMの眼前で鋭角的に進行方向を変化させた瞬間体にかかった負荷は、体というよりはその内側を脚の方へ押しつぶしていくかのような感覚だった。体内を流れる血流が全て止まり、いつもの流れに逆らう方へ一気に押し寄せる。一瞬、視界の全てが白く覆われたように見えた。
体内の空っぽになった箇所を埋めるかのような「クスクス」という少女の声が聞こえたのは、その瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます