第十五部 第5話 限界の向こう側

 「よぉしっ!それじゃあ行くぞぉっ!オマエらぁっ!!気合いれろよぉ」

Fallen’sフォールンズを中心とした大部隊からの攻撃は、少なくない数のMAを失っていても衰える様子はない。そんな大部隊から10機のFallen’s機体が離れていくと、すぐに5機ずつの2部隊に分かれた。それぞれの小隊がUrielウルリエルHanielハニエルに向かっていく。

 「ロン!突貫してくる機体が居ますよ!狙いはロンと私でしょう!」

「ああ!何か勘付いたのか、それとも単純に頭をツブしに来たのかねぇ?」

UrielとHanielは揃って行動しているわけでは無かったが、それでもほぼ同時に戦線から離脱するわけでなく後退した。合わせてNLBMネルビムもついて動くかと思ったが、まるで2機に対する防衛ラインを敷くかのような動きを始めている。

 「ロン、相手の出方が変わりました。こちらも対処したいので、このまま合流しますよ?」

「ああ、そうしよう」

それまでUrielの部隊とHanielの部隊が別行動をとっていた動きが、UrielとHanielの2機を2トップとした中隊規模へと配置を変えている。2つの小隊が隊長機の合流に合わせて近付いていたが、その合流があまりにも自然すぎて、「いつの間にか」といった表現がぴったりだ。

 「隊長!射撃戦じゃあ戦況のコントロールができねぇっ!斬り込んでいいか?」

中隊規模となったことで、Fallen’sからすれば防御が固くなったように感じるのだろう。攻撃を一か所に集中できる反面、そこに集中しているMA数が増えたことで、隙間が無くなったような感じだ。いくら射撃を増やしたところで、それを受け止める盾役も増えているといったところだろう。

 驚いたことに、見える限りでNLBMが所持するシールドに損傷がほとんど見られない。シールドは確かに攻撃を受けるために存在するが、なにも無限に受け止め続けることができるわけではなく、損耗によっていずれシールドがその役目を終えるものだ。攻撃を受け止めるということは、シールドとして被弾が続くことで、少なくとも表面に傷ぐらいはつく。

「ヤツらのシールド・・・受けているというよりも弾いてやがるのか・・・冗談じゃねぇ!あのサイズで長時間稼働のRPG(Reflectionリフレクション-Particleパーティカル-Generatorジェネレーター)を積んでるってのかよ」

 RPGはその名のとおり、粒子を反射させる装置だ。実弾には有効性がなくとも、実弾よりも弾速、貫通力、破壊力に勝るビーム兵器を飛散、反射させることができる。ただし、これまでにMAに実装された例はない。装置そのものが巨大であり、戦艦クラスでなければコレを搭載することができないからだ。もしもNLBMが手にしているシールドにRPGが組み込まれているのだとしたら、もしそれを成すだけの技術力があったとして、可能性があるのはADaMaSアダマスぐらいしか思い浮かばない。

 「いや、よく見ろ!あれはRPGじゃない!RPGならビーム直撃時に粒子になって飛散するだろうが!何度も目にしてきたろ・・・アレはビームを曲げている」

部隊員の動揺にそう返したFallen’sの隊長は、なるほど隊長だけあって冷静であるようだ。よく見ている。RPGを搭載した戦艦にビームの直撃があったとき、まるで戦艦の表面で水がはじけ飛ぶかのように粒子が四方に飛散する。それだけ見れば美しいとさえ感じる光景ではあるが、NLBMのシールドにその様子は無い。シールドの表面で方向を逸らされたビームは明後日の方角に飛び去ってしまっている。

 「まぁ、ソレが分かったところで、異常なコトには違いないがな・・・」

あえて通信には乗せなかったその言葉は、隊長のヘルメットの中でだけ響いた。技術にそれほど精通しているわけではないが、まだ現象と理由を理解しているRPGであった方が、ある意味ではありがたかったかもしれない。

 「・・・全機、後退準備だ。Fallen’s!俺が一度だけ突っかける。12番機までで生き残ってるヤツはついて来い。リミッターは解除だ・・・他はこの戦域からの離脱を援護・・・かかれっ!」

Fallen’sを含む一団の中で9機の関節部分に発光現象が見られる。どうやら〝リミッター解除〟の影響らしい。一斉に噴出したスラスターノズルから出る光は、それまでよりも一回りほど大きく、そしてやはり、正に炎だと言わんばかりの色味を帯びている。

 もともとFallen’sの機体は統一されたものではないが、いずれの機体も既存の機体を大きく上回る出力を誇っている。言ってみれば、部隊に対してのカスタム機で、常時機体にかかる負荷が高く、ソレを操るパイロットには強い精神力と身体が不可欠だ。今出力を上げた9機は、ソレすらも凌駕する速度だと見てわかる。見て分かるほどの速度差が想像を絶する負荷を伴いパイロットを襲うのだが、Fallen’sの中でもこれに耐えることができる者は半数ほどしかいない。

 「早いっ!」

9機が隊列を組み、中段辺りにいる3機の持つビームライフルが続けざまに光を放っている。もちろん当てるつもりなのだろうが、直撃は「あわよくば」であって、目的はルートコントロールの方だ。障害となるMAに対して集中砲火を浴びせることで、その場に縫い止めているかと思えば、射撃で壁を作り、動きを制限している。これを通常では考えられない速度で動くMAで行っているのだから、なるほどFallen’sのパイロットは一流だ。

 「正面の2機が動かねぇ!エイタ!アーサ!先行して斬り払えっ!」

それまでが最高速でなかったことにも驚くが、さらに突出して来る2機がある。さすがにこの速度で移動する標的を正確に打ち抜くことは容易でない。それはこの戦場に現れた彼ら2人に付き従う得体の知れない強者たちでも同様らしい。もしもそのパイロットたちがNEXTネクストだったとしても、理論上、機体性能がこの突出してくる2機に追いつかない。進行方向に対して真正面からでもなければ、エイタとアーサと呼ばれた2人を狙って当てることは至難の業だろう。

 「あの速度で体がもつってのかよっ!」

「いや、違う・・・それよりもあの速度じゃパイロットの反射神経が追いつかないはずですよ・・・」

ボルドールの指摘は正しい。あまりに速い機体はパイロットへの身体的負荷は当然として、それ以上に問題となるのが機体コントロールの難易度が飛躍的に跳ね上がることだった。

 例えば敵機に斬りかかるとして、速度が速すぎることで仕損じることは無い。正面でなく敵機の脇をすり抜ける進路を取りさえすれば、何ならサーベルを振りぬく作業はコンピュータがオートで機体を操作する。ただそれはあくまでプログラムであってAIではない。不測の事態が発生したとき機体を臨機に応じさせることができず、例えば流れ弾などで自分が斬りかかるよりも先に敵機が爆散したとすれば、自分は焚火の中に身を投じる羽虫のごとく、その炎によってダメージを負うことに成る。機体速度が速すぎるせいで、敵機の爆散を認識してからの進路変更が間に合わないのだ。彼らFallen’sの解除した〝リミッター〟とは、各機に設けられた上限速度である。それは個人毎に設定されている。そのラインはつまり、パイロットの制御下に置ける限界速度であり、それを解除するということはすなわち、自分では制御しきれない領域へと足を踏み入れたことを意味していた。

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