第五部 Valhalla(戦死者の館)第1話 世界評議会

 「なんともふざけたことをしてくれる・・・どうだ?止められそうか?」

人類は遥か昔から、敵対勢力の存在と同時に諜報活動を行ってきた。時代の進化と共に扱う情報は電子化されていったとしても、そこにスパイという存在は必ずあった。その情報がStarGateスターゲイトにもたらされたのは、そうしたスパイが命と引き換えにして手に入れたものであり、その内容は宇宙に住む人々に受け入れられるものではなかった。

 〝世界評議会〟それは表向き、全人類の意思決定をする場であり、世界の行く末を決定する。もともと年に少なくとも2度の開催が予定されているものではあったが、戦争勃発以降、その回数は激減し、ここ数年では開催そのものが成されていなかった。StarGateの入手した情報とは、その世界評議会開催もあったが、それ以上にそこで討論される内容にあった。

 〝各Space-Arkスペースアークはそれぞれ別に定める国家に属することとする〟今回の世界評議会で協議される内容だ。そしてこれが協議とは名ばかりの決定事項であることは、評議会において当たり前のことでもある。

 この内容決定に至る会議の場に宇宙移民に分類される者は確かに居た。しかしその実態は、今回の決定に含まれていない月面都市に住まう者や、もともとNohaに与するSpace-Arkの者によって事前決議されたものだ。これを評議会で可決することで、現状敵対しているStarGateスターゲイトの反発が必至であることを承知の上でのことだ。

 この決議によってNohaは何を得るのだろうか。その答えは、ミリアークがBABELバベルで説いていた〝世論〟だ。Space-Arkの内部では、増減はあるだろうが、おおよそ1000万人が1つのArkで暮らしている。そしてその全てが宇宙移民に分類されるにも関わらず、StarGateの一員であると認識する者はそう多くは無い。

 この戦争は人類を二分した大戦であることは間違いない。しかし、総人口からすれば大多数が〝無関係〟と自己を定義しているのが現実だ。そして自らを戦争と無関係と考える者たちが〝大衆〟となり〝世論〟を形成する。BABELは彼らを〝厄介者〟と表現した。それは戦争に対して〝責任〟を負っているか否かであり、どれほど影響が小さかろうと、自身が戦争に介入していることを認識しているかということだ。

 責任は負わず、戦争には無関心。しかし戦争による被害や損害には声を上げる。それが世論の正体だ。それでも彼らの声を聞かなければならない理由がある。世論を形成する人々の数は、どんな軍部より、どの勢力より圧倒的な大多数であるからだ。世論に背を向けられてしまえば、例え反発を武力で抑止したとしても、いずれ破滅を免れることはできない。結局世界は、民主主義と言う名の〝多数決〟を無視することができないのだ。

 Nohaノアはその〝大多数〟という力を無理やりにでも手に入れようとしている。これはSpace-Arkをそれぞれ1つの国家と紐づけることで、自動的にそのArkに住む住人は、その国の市民となる。大多数はそれによって各国が導入している様々な恩恵を受けることができる。そしてその国は、税金と言う形で莫大な源泉を得る。

 ここで肝心なのは、その国の政治は結局のところ、地球で執り行われているということだ。事実上、Arkに住む人々に参政権は無いに等しいのだが、そもそもどれほどの人間が自国の政治への関与(これは個人の欲の話では無い)を希望しているだろうか?ここでもやはり、参政権を得たいと思う少数派は、政治に無関心な多数派に飲み込まれてしまうのだろう。

 どうやって民意を取り込むかを考えていたStarGateにとってみれば、Nohaが何を企んだのか、瞬時に理解した。

 軍隊に限った話ではないだろうが、人が多く集まれば、その中には風変わりな者が現れることがしばしばある。将官の中には、非人道的とさえ言える作戦を立案することで、結果的にその地位に上がってきた者も居る。准将の地位にあるオスク・バムはその1人だ。常にサングラスを着用したスキンヘッドの大柄な男は、その容姿だけでも威圧感がある。

 「手段については任せていただけるということですかな?」

後ろ手に腕を組んだまま、微動だにしない。

「オスクよ・・・キサマのことだ、またワシを驚かせてくれるのだろう?」

喉元まで白いひげを伸ばした初老の男は、オスクの上官ミィント・ジャハマフといった。ミィントは5人しか存在しない大将のうちの1人だ。ミィントとオスクの2人は、StarGazerスターゲイザーの中でも特に過激な行動を好む傾向にある。特にオスクの直轄部隊〝Fallen‘sフォールンズ〟はStarGazer内でも有名な部隊だ。オスク自らが選りすぐったパイロットたちで構成されたFallen’sは、卓越した技量を持つパイロットしか所属していない。そして1人として漏れず、全員がその性格に強いクセを持っていることでも有名だ。全員がパーソナルカラーで彩られたRAWooラウを乗機としている。ラウはアグソル同様、13DとGMによる共同開発の最新鋭機であり、非常に高い機動性能を有している。

 「評議会も自分たちの命は惜しいでしょう。廃棄予定の資源衛星を落そうかと」

「ほぅ・・・恐怖で屈服させるというのか。民意の方は大丈夫なのか?」

ミィントは顎から下がる髭を撫でるようにして、オスクの方をチラリと見る。小惑星とは言え、それが地表に落下した場合の破壊力は、評議会が行われる都市はおろか、周辺にも大きな被害を及ぼす。当然、そこには何万人という一般市民が生活している。

 「地球人は激怒するでしょうな。しかし、ヤツらが怒ったところで、今更でしょう。我々の方では、無関心と歓喜、そしてその狭間といったところでしょうな」

一見すれば変化のないサングラスを、位置でも気になったのだろうか、中央部を押し上げその位置を整える。本来同じ人類なのだが、地球に住む人々を〝地球人〟と表現する辺りに、それに対する容赦など持ち合わせていないことがうかがえる。

 「確かにな・・・うむ、落しても構わんが、StarGazer地球方面軍には通達しておけよ?それとな、オスク。一方的な虐殺と捉えられないように、評議会への事前通達も忘れるなよ」

「事前通告はしますが、タイムリミットまでそれほど長くありませんからな。重力に引っ張られてしまえば、どちらにしても・・・」

小惑星ほどの質量が一度地球の重力に捕まった場合、再びそれから逃れるのは、よほどの大出力ブースターでも備えていない限り不可能だ。だが、そのリミットを超えてから地表への落着までには時間がある。リミット通過後に退避行動を開始したとしても、移動手段次第では落着による影響範囲外にまで到達することもできる。

「逃げ出すと思うか?」

「「どうでしょうな。プライド次第かと・・・まぁ、ソレを持っているとは思えませんが。我々としても、陽動を兼ねてMAによる評議会襲撃はさせておきます。後は資源衛星落下を事前通告したヤツらの上層部が、現場にまでその話を回すかどうかでしょうな」

オスクの計画では、小惑星に直轄指揮下にあるFallen‘sを配置し、評議会が行われる都市への陽動は地球方面軍へ要請するようだ。

「承認しよう。上手くやれよ?」

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