第二部 第2話 アイ・タマズサ

「私って・・・何か悪い事したかしら・・・?」

正直、そう思わずに居られなかったわ。まだお互いに会話の1つすらしてないけれど、わずか数分の出来事でもう十分。ADaMaSアダマス製MAに乗れるってのはすっごく魅力的な話だけれど、今からでも辞退、間に合うかしら・・・?

この日、新設部隊の初顔合わせに設定された時刻の11分前に、その部隊の責任者となるフォレスタ・コールマン准将の部屋の前に私は立ったわ。社会人として当然よね。

コールマン准将のことは、パイロット仲間から信頼できる上官だと聞かされてたことが何度かあるし、准将を良く知る仲間からは、今回の部隊編入を羨ましがられたから、准将のことは最初から疑ってなかった。

部屋のドアを3回ノックする(トイレのドアは2回よ?)。中から「どうぞ」と返って来るのを待って入室。

「本日付けで新設部隊配属となりましたアイ・タマズサ中尉であります。よろしくお願いいたします」

どう?27歳成りたてとしては、ちゃんとマナーできてるかしら?

「アイ君、君が最初だ。まぁ、楽にしていなさい」

差し出された准将の右手が指し示す方を見ると、椅子が5つ、横一列に並べられていた。私は一番奥の席に腰かけたわ。そしたらすぐ、背後の扉の向こうで女性2人の話し声が聞こえてきた。扉に遮られているせいか、会話の内容までは聞こえなかった。

「准将、お連れしましたよ?」

「ああ、ありがとう。入ってくれ」

自然と入口の方を振り返ったけれど、驚いた。40代前半ぐらいかな?まるで教科書に出てきそうな女性の姿にも驚いたけれど、もっと驚いたのはその後ろ。まだ高校生ぐらいにしか見えない可愛らしい女の子が控えているじゃない。若いわね・・・。

 前に立つ女性が秘書官であろうことは想像できたわ。女の子の方は・・・軍服着てるってことは、士官学校出たばかりかしら?え?待って・・・ここに連れてきたって言わなかった?あの秘書官。ってことはナニ?あの可愛らしい子もADaMaSアダマス製MAに乗るってこと?え?え?それってつまり、私の同僚ってこと?どんだけ優秀な子なのよ・・・。

「う、ウル・ハガクレ伍長ですっ!」

「ハハハ・・・緊張は仕方ないね。まぁ、ウル君も楽にしなさい」

秘書官が示した末席に座ったけれど、まだガチガチね。

 それにしても可愛いわね。しかも初々しい・・・ん?いや、待って・・・どうやら私、上半身に騙されたみたいね。ナニ、あのスカート。軍の制服は膝丈よ?あれじゃあ、ちょっとしたはずみでヨユーで見えるじゃないの。いいわ。おねーさんが直々に教育してあげる。

 そうこうしてる間に、後1分で定刻なんだけど?確かこの新設部隊って5人だったわよね?准将も秘書官もまったく慌てる様子も、心配な様子もないけど、どうなってるの?って思ってたら、後ろから2人分の声が聞こえてきたわ。けど・・・何かケンカしてる?

「タクヒ・メイゲツイン少尉、入りまーす!19歳はどこでありますかっ!?」

「リッカ・イズミ少尉であります。早速ですがコイツと一緒はイヤでありますっ!」

オイオイ・・・2人ともゼンカイかよ・・・。それにこの2人の恰好・・・この部隊って軍服自由とか書いてあったっけ?

 リッカ・イズミ少尉、確か私より若い25歳。短髪、メガネでボーイッシュかと思いきや、着てる軍服?これって自作なのかしら。ゴスロリ・・・以外に表現方法を私は知らない。あんだけヒラヒラしてたら、MAのコックピットなんて乗込めるのか疑問だわ。ウルのミニスカがカワイく思えてきた。

 もっとヒドいのはタクヒ・メイゲツイン少尉の方ね。服装に品のカケラもありゃしない。前は全開、袖は肩までたくし上げ、インナーの胸元にはデカい髑髏ときた。あと、パンツの裾!何あの切っ放しな感じ・・・髪までおったてて、ワイルドでも意識してるのかしら?この男、頭の中身がワイルド過ぎて、理解の範疇外だわ。

 「ハイハイ、2人とも・・・。リッカ君、その軍服、可愛いね」

え、ウソ・・・。アレを軍服って言っちゃうの?いいのソレで?

「ありがとぅございますぅ。これからよろしくお願いしますぅ」

おおっ!?いきなりブリったわね・・・。しかも、語尾に小さな〝ぅ〟が見えたわよ。

 「タクヒ君、19歳はそこのウル君だ。キミのワイルドさは私としても羨ましい限りだが、19歳はまだ未成年だからね?」

「うぉっ!?可愛いじゃん!とりあえず今夜オレの部屋で飲まない?・・・ノンアルで!」

え?コイツ、バカなの?准将の方チラっと見て「ノンアル」って付け足したわね。そこは〝ノンアル〟じゃなくて〝ソフトドリンク〟でしょうよ・・・いやいや、そうでなくて!さっきの准将のフリは、〝そういうコトしちゃダメよ?〟って意味でしょ。

「いいですねぇ。私も混ぜてもらおうかな?」

・・・准将、それってこの男がダメなことしないようにの牽制ですよね?ちょっと確信が持てないんですけど・・・。

 後1人・・・完全に遅刻じゃないの。

「オーッス!コールマン准将!久しぶりだな!アンタの指揮なら安心だ!んで、オレのMAドコよ?ADaMaSアダマス製だろ?モチ、格闘全振りだよな!?」

「まだ納品前だよ。アキラ・リオカ中佐。キミの自由な戦い、期待しているよ」

アキラ・リオカ中佐!!この男は知っている・・・もちろん悪い意味で。確か作戦指示に応じない・・・いや、そうじゃないわね。作戦という概念がそもそも無い男だと聞いたことがあるわ。しかも、この5人で最も階級が高い・・・中佐。ってことはナニ?この部隊、指揮は准将だったとしても、部隊長がこの男なの?・・・サイアクだわ。これ、初陣で死ねるかもしれない・・・。

「思ったよりも早くみんな集まってくれたね。キミたち5人がStarGazerスターゲイザー独立遊撃部隊〝pentagramペンタグラム〟だ。私の直属指揮下だよ」

思ったよりも早かった?ナニ?集合時間に遅刻が折込済ってコトを言っているのかしら?・・・アレ?私の常識が間違ってるのかな・・・。

「知っての通り、pentagramペンタグラムに配備されるMAはADaMaSアダマス製だ。受領は3日後。一様、スッペク表とか渡しておくけど、見ないでしょ?そのヘンに捨てるのはダメだよ?」

見るわよ!!熟読するわよ!!!なんなら保管するわよ・・・。

「それとね、階級からするとこの部隊、隊長はアキラ君だけど、実際の指揮系統としてはアイ君が部隊指揮官だから、みんなアイ君の言うこと聞くようにね」

ムリよ・・・って言うか・・・イヤよ・・・。帰っていいかしら?

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