第一部 第7話 Brain-Device
「みんな少しいいか?」
〝運営本部〟には社長ローズ、統括ナナジンを2トップの下に営業部、運営部、総務部、情報部がある。営業部を任されているミハエル・ルーは、学生時代のナナジンと友人関係にあった人物だ。運営部にはマドカと親友でもあるマギー・シムスが居る。ちなみに、マギーもギャル気質だ。総務部のアリス・ロッゾはマドカ、マギーよりも3つ年齢が上だが、3人の中で最もギャルだ。マドカ、マギーが影響を受けた人物である。情報部に所属するポーネル・ウィルソンは
もう一方、開発局はウテナを局長に据え、開発、設計、製造、運用に分かれている。単独だが、テストパイロットのマドカも開発局に籍がある。開発部のセシル・ルーは営業部ミハエルのパートナーだ。2人の結婚は、
「このメンバーで食事は珍しくないが、貴方がこの場で神妙なのは珍しい」
「オレだってTPOは読むさ」
「ふむ・・・これは真面目に聞く必要がありそうですよ、皆さん」
もともとこれが重要な話だということを察知していたのだろう。皆の喧騒を鎮める役を、自らポーネルが引き受けたように見える。事実それは功を奏し、全員がナナジンの話を聞く大勢に入った。
「要点だけ言う。今日、
反物質と言う言葉に反応したのはクルーガン、ヒュート、ジェイクの3人のみだ。それでも、誰もナナジンの話を遮るようなことはなかった。
「まずはメリットから。これが完成すれば、俺たちの望む平和が訪れる可能性が高まる。次はデメリット。開発着手がバレれば、ここが戦場になる。最後に、現時点での未確認事項だ。コレには莫大な金がかかるが、スポンサーが誰だか分らん」
まだ誰も声を発しない。全員がナナジンに話の続きを促している。ところが、この後を引き継いだのはローズだった。
「1個ずつ処理するわよ?まずは完成の可能性について、技術組、解る人意見頂戴」
ローズは反物質という言葉に反応した3人を順に見た。3人のうち、最初に口を開いたのはクルーガンだ。
「純粋に技術屋としてはムリでしょ?理論だけで実在不可能ってのが通説だよな?」
クルーガンは残りの2人に同意を求めた。ヒュートもジェイクも腕組みしたまま頷いてみせる。
「可能性があるとすれば、ウチの局長ぐらいでしょうよ。どうなんスか局長?」
「現在の認識下にある反物質なら、精製は不可能だよ。それは間違いない」
「ホラね?局長ならやれるんじゃないかって思ってましたよ」
この会話が嚙み合っていないと感じるのは普通の反応だ。ところが、その場に居る誰も、そのことを指摘しないどころか、納得している表情を見せている。彼らはウテナのことを正しく理解していた。彼の生み出すMAは従来の概念や構造を覆すようなものが多いことを誰よりも知っている。だからこそ、現在の理論で反物質が精製不可能ならば、違う理論を基に反物質を生み出せばいいと考えるウテナの思考が理解できていた。
「〝反〟物質だろ?物質じゃない物質ってコトだけど、僕たちはすでにヒントを得てるよ。反物質が影響を及ぼす物質とはなんだ?」
「ブレインデバイスっすね」
すかさずクルーガンが答える。
「正解。
天歴において、
一方、BDは〝
「なるほど、そのNLがBDに影響を与えているモノを物質で定義し、それを現出させることができれば、ある意味でソレが反物質ということになりますね」
「脳波を物質と定義するってことか・・・。定義としてはいいかもしれんが、ソレがディミトリー中将の望む性能?を獲得できるのか?」
ヒュートとジェイクの2人もこの新たな考えの反物質についての議論に加わっている。この空間にいる13人のうち、この議論にまともに加われそうな人物は他にいないだろう。
「それは解らんっしょ?なんせ、新しい理論な上に、だれも検証なんてしたことないんだからさ」
「それもそうですね。で、局長はクルーガンの言う検証を、ここADaMaSでやろうと考えているんですか?」
「局長も技術屋だからな。自分たちもそうだが、コレはウズくでしょう」
「まぁ、そうなんだよな・・・リスクの率としてはそう高くはないが、度合いとしては大きいからな・・・」
技術者4人による討論がこれ以上白熱されては困るとばかりに、ナナジンが4人を手で静止する。
「オマエら、もう一つ重要なコト、忘れてないか?やるとしても、その経費の出どころはどこだよ?これがハッキリしないと、最悪、世界にとってキケンだぞ」
「それって、黒幕が居るってことですか~?なんか、映画みたいな展開ですね~」
「いいねソレ!あたしらヒロイン的な?」
どうにもギャル気質の3人が会話に加わると緊張感が薄れてしまう。これ以上の劣化を防ごうと、ローズがすかさず割って入った。
「黒幕って表現は合ってると思うわよ。けど、あの中将がその人物に踊らされるようには見えないけど・・・」
「黒幕だなんて、失礼しちゃうわね」
その声はローズの背後から突然発せられた。ここに集まっている13人のうち、誰の声でも無い。示し合わせたかのように、13人全員が、パーテーションが途切れ入口となっている場所に目を向けた。そこには、入口のヘリにもたれかかるように、腕組みをしたまま立ってこちらを見ている女性の姿があった。
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