第238話・ラブ・スウィート

 本社紹介、その最後の部屋は社長専用仮眠室だ。これから、しばらくここに住むとはいえ、本社の設備である。紹介しないことを強行すると、株主たちから追い出されるかもしれない。それは、法律上可能なことである。

 とはいえ、株主なんていうのは、全て秋葉家のメンバーだ。だから、紹介をしないとしても追い出されないかもしれない。ただ、秋葉家の人物の望みは可能な限り叶えたいというのも僕らの気持ちである。些細でくだらなかったとしてもだ。


「ここが、僕たち専用の仮眠室です! ……しばらく住んじゃう予定だけど」


 その作りは、ペアルームに収納とキッチンを増設したようなもの。


「ここすごいんだよ! ママが元々住んでたお家より、住み心地いいかも!」


 住み心地に関しては、本当にママの言うとおり。ただ、問題もないわけではないのである。


銀:お風呂スッケスケやがwww

デデデ:極上スイートだなぁ……ラブホの!

里奈@ギャル:こんな部屋で……エッチすぎる……

ダン・ガン:流石にそういうのまずいから、水着差分用意しない?

フォルセ・アフィグルー:冬用のRTSなら、水に入っても問題ありませんからね……

お塩:マジで!? そんなことできちゃうの!?

シルフェ・オルコット:何でできてるの?

フォルセ・アフィグルー:発泡ラテックスですよ

ダン・ガン:最高に! フェティッシュだ! 見たい!

さーや:理には叶ってるけど……エッチ過ぎない?


 RTSは性質上、生地が薄くなくてはいけない。そして、伸縮性のある生地でなくてはいけない。冬となると、通気性を遮断しないと寒くて仕方がない。なので、冬季用RTSは通気のほぼ完全な遮断が要求された。その全てを叶える生地が存在する。新型の発泡ラテックスだ。


 厚さ0.8mmにして驚異の断熱性と機械部分の完全防水が実現されるそれは、科学の粋であると言っても過言ではない。必要に駆られて作られたのはわかる。ただ、問題がないわけではない。


「あれ、締めつけがすごいって噂なんだよねぇ……。ママはパス。でも、リン君のは買おうかな……」


 ちなみに、夏季用に比べて、価格は1.5倍だ。


「ええ!? 僕も、遠慮したいんだけど!?」


 ママが拒否するような代物を、なぜ僕が着なくてはいけないのか……。だが、外堀は既に埋まっていた。


「リン君は筆頭株主だし、代表取締役でもない。だから、投資に対するフィードバックは必要だと思うんだよ! 放送の役にも立つし、リン君の収益を増やす可能性もあるから……ね? それに、ノラちゃんも冬には着るんだし」


 本社ビルの総工事費を考えれば、冬季用RTSの値段程度は端金である。僕の投資額から考えてもだ……。

 投資の余剰額から、僕のRTSの資金を出すなんて、今の秋葉家には造作もないのである。


「うぅ……わかったよ……」


 僕はそれを渋々受け入れざるを得なかった。


銀:リンちゃんの入浴シーンが見られると聞いて!

デデデ:リン君ちゃんが水着解禁すると聞いて!

里奈@ギャル:ビキニ希望!

ダン・ガン:スク水も捨てがたい!

さーや:女児水着着せない!?


 水着のデザイン案が次々飛び交う。そして、後にそれに目をつけるのはclockchildである。水着モデルはバーチャルでやれば問題ないという判断からである。

 僕の3Dモデルに水着デザインが供給され、そのとばっちりを受けたのが銀さんだ。彼の男性機能は、夏の間は封印を受けることになった。所謂タッキングである。南無……。


「どんなデザインで作ろうかなぁ……」


 ただ、未来のことなんて知る由もないママはデザインに思いを馳せ、僕はただただ冷や汗をかくのみだった。

 ふと、気づく。


「あ、あの部屋って罰ゲーム用かな?」


 現在の僕の認識では、SMルームとは罰ゲームのための執行室である。


「あ、そうかも!」


 それは、ママも変わらない……。そして、僕たちは併設されているSMルームの紹介に移った。


「ここなんだけどさ、明らかに充実しすぎだよね……」


 そう、罰ゲーム対応型ペアルームに比べて設備が圧倒的に多い。


「リン君、これ、やってみようか?」


 そう言いながら、ママは乗馬マシーンの上を叩く。


「あ、そうだね! 多分誰かがやる罰ゲームだしね!」


 それに、乗馬マシーンは列記としたダイエット器具。やましいことなんてどこにも無いと思った。それに、強制執行が過剰に辛いものでないことはリサーチしなくてはならない。

 だから、僕は乗った。


「それじゃあ、強制のやつつけるよ」


 それは腰のベルトと、取っ手に備え付けられた手枷だ。


「うん!」


 それをつけられると、確かに自力では降りる方法が思いつかない。


「五分ね! スタート!」


 そして、僕は腰を揺さぶられるのであった。


銀:SMプレイ始めたぞwww

ダン・ガン:ヤバイ……エロい……

デデデ:乗馬マシーンだから健全だもん!


「あっ!? わっ!? ほへ!?」


 腰があっちへこっちへ……。体勢を維持するのが精一杯で、変な声が出る。

 辛さは……大したことはない。むしろ、ちょっと楽しいところもある。

 ただ、この罰ゲームの本質は降りたあとだったのだ。

 腰とお腹が筋肉痛になった。五分でこれだ……。でも、僕は運動神経がダメダメだからこうなっているのだと思う。桜さんとかなら一時間とかでも、涼しい顔をしてそうだ……。

 SMルーム内にもベッドがあって、僕はそこに寝かされた状態で放送を締めたのであった。

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