第237話・ホテルニュー秋葉

 あと、紹介するのは二つのフロアである。途中階層を大量に飛ばして、15階。仮眠室フロアだ。

 仮眠室フロアが高層階にあるのは、ちゃんと帰れというメッセージである。かと言って、必要なものでもある。


「手前4部屋が個人利用向け、奥6部屋がペア利用向けなんだよね? ペア利用って、そういうことだよね?」


 てぇてぇ推進だと僕は思った。別のVTuberの家に泊まりに行く、その前に相性を確かめることだってここでできると思う。


「うん、ペア利用向けでも、手前2部屋は通常ルーム。奥4部屋が罰ゲーム対応型だって言ってたよね」


 孔明お兄ちゃんはそんなことを言っていた。わざとらしくも口にするのは、視聴者さんへの紹介をかねてだ。


「まず、個人利用の部屋……お、いいじゃん!」


 僕はドアを開いて、パッと見た印象を言う。ここも、住めると思う。仮眠とはなんなのか、それを考えるとこんなものは仮眠室ではない。ホテルの一室だ。

 ベッドは綺麗だし、広さも十分。僕がママの家で一緒に寝ていたベッドくらいの広さだ。


「ねぇ、リン君見て! バスルームがあるよ!」


 絶対に住める……。食事は、給料が悪くないのだから外食をすればいい。それでも高階層だから不便には感じるかも知れない。ちなみに、景色はいい。


銀:終電逃したら、使っていい感じか!?

さーや:外で飲んだ時も使ってOK?

シルフェ・オルコット:私も使える?

フォルセ・アフィグルー:まぁ、我々は無理でしょうね……


 カサ・ブランコの人たちは万が一のときは、自分の本社に戻りそうな雰囲気だ。だから、言おう。


「基本的に、秋葉家本社で収録や放送をした場合は誰でも使えるよ!」


 むしろ、なぜ秋葉家が使わせないと思うのか。これは、ママが確認したら孔明お兄ちゃんが当然と頷いたのだ。


「例外はペアルーム! こっちは、ホームページでお隣さん扱いとか友達扱いな人は、いつでも予約してもらえるよ!」


 秋葉家は、てぇてぇ配信を応援するのである。ただし、利用した放送から発生した利益の10%を秋葉家が頂くことになる。

 10%はバカみたいに安いのではあるが……。


シルフェ・オルコット:すごい……

フォルセテ・アフィグルー:今度、三森さんでも連れて行きましょうか……


 VTuberな視聴者さんたちは、自分がどう使うかの妄想を始めた。


銀:これも、福利厚生の一部って感じ?

初bread:俺、これからは秋葉家で収録しようかなぁ……

ベト弁:収録終わったら深夜とか、ザラだしな。緊張してトチることあるし……


 音楽家な人たちも、結構お気に召したようだ。もしかしたら、もう1フロアぐらい必要かも知れない。


「さて、次はペアルームの紹介! こっちはかなり充実してるらしいよ!」


 そう言いながら、僕は隣の部屋に向かう。シングルルームの、なんと3倍の広さがあるらしい。


「中の人たちが、その部屋で寝るんだよ! みんな、妄想はかどっちゃうかな?」


 きっとその妄想の内容は、僕基準でとてもえっちで、尚且つ一般基準で健全なのだろう。ママの性知識は、僕より少し進んでいるくらいだ。ママですら、一般的にえっちな妄想にはたどり着けないのである。今のところは……。


「通常のペアルームは飛ばすね! 罰ゲーム対応ルームとあんまり変わらないって孔明お兄ちゃん言ってたから!」


 罰ゲームルームの一部の設備を除外すると、通常のペアルームになるらしい。その一部の設備は、罰ゲームを絶対に執行するために存在するらしい。絶対にという部分、嫌な予感だ。


「リン君、ここだよ!」


 ただし、その執行を絶対化するための設備だけは事務室で開放する必要がある。要するに、ちゃんと信頼関係のあるペア以外には全機能を開放しないのである。

 また、開放するためには本人たちによる予約が必要だ。全力で、悪用防止策も取られている。

 ただし、今日は開放してある。


「うん、入ろっか……」


 見れば、普通に大きなベッドと豪華めな部屋ではないか。そう思って、僕は胸をなでおろしつつ、部屋の中へ入っていく。

 変わったもの……といえば乗馬マシーンくらいだろうか……。確かに乗馬マシーンに乗るという罰ゲームはある。

 コメントの流れが変わった。


銀:ラブホwwww

デデデ:いけません! センシティブです!

里奈@ギャル:つまり……こんなところで……うひゃああ

さーや:すごく、エッチです……

ダン・カン:興奮してまいりました!

剣崎:通報した


 そう、乗馬マシーンがあるということ以外、この部屋はラブホテル風なのだ。孔明お兄ちゃんは一体何を考えているのだろうか……。

 秋葉家がいかがわしくなってしまいそうだ……。

 そして、この部屋がラブホと言われて気づいた。僕たちの部屋もそれ風なのである。ラブホを知ったのはこの時である。


「えっと……そういうホテルってこんな感じなんだ……?」


 ただ、それだけならまだ救われた。ママは、見つけてしまったのだ。この部屋の、隠されし機能を……。


「わっ!? リン君……あの部屋みたいなのが入ってたよ……」


 隠し収納を開けると、飛び出してくる拘束具の数々。これを使って、罰ゲームを完遂せよということなのである。

 本当にいろいろなものがある。例えば乗馬マシーンにつけるベルト。これによって、決めた時間が経過するまで絶対にやらせるということなのだろう。

 ベッドに大の字に拘束する道具などもあり、説明としてくすぐり系罰ゲーム用と書いてある。確かに、くすぐって暴れるのを押さえつけるのに有効かも知れない。


ダン・ガン:SMルームだ!!!

デデデ:すぐに理解するなww

フォルセ・アフィグルー:通常ルームだけの利用にしましょうか……

里奈@ギャル:あくまで罰ゲーム用だよね?

さーや:えっちじゃん!


 そう、もう完全にえっちなのだ……。

 だけど、確かに使える場面はあるかもしれない。それに、これを見せておけば、罰ゲームが強制執行されるという信頼も得られるかもしれない。

 非道な使い方は、きっと孔明お兄ちゃんがさせないだろう。だから、絶対に必要なのだ。


「となると、あの部屋って罰ゲーム用なんだ……」


 と、僕は一人納得した。

 部屋を出るときに気付いたが、その部屋の予約は一週間分がユエさんと和泉さんの二人に独占されていたのである。

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