第236話・遮音

 話をしていると、移動なんていうものはあっという間だ。地上3階、防音室とダンス用のスペースが複数用意されたフロアだ。ここにある部屋はいつでも、撮影用のスタジオに変貌する。


「ここが秋葉家の防音室施設だよ! 音楽の録音スタジオはもちろん、RTSを着れば中もそのまま撮影できちゃう! とんでもない施設だよね!」


 内装が完成している場所は、どこでもRTSが使えるのだ。MIXブースまで対応済みだ。MIXブース側を使う可能性が高いのは定国お兄ちゃんとRyuお兄ちゃんの二人。

 だけど、Ryuお兄ちゃんはRTS使用は多分無理だ。本人の体型と、モデルの体型が大きく異なるとそれは不可能になる。

 Ryuお兄ちゃんの中の人、立花お姉ちゃんは、秋葉家で一番胸が大きい。よっぽど高性能なBホルダー胸を潰すコスプレ用の小道具がないと、胸がモデルからはみ出してしまう。

 でも、女性型の3Dモデルを使うように勧めるのはありえない。だって、それは立花お姉ちゃんにとって鎧なのだ。男性から性的な目線で見られにくい男性モデルを使うことで、立花お姉ちゃんはようやく人前に立つ自信を持てる。性的魅力に溢れすぎるのも、考えものなのである。


「もちろん、2D配信も対応してるよ! カメラの映像は、事務室のパソコンに送られているから、それを2Dに配信に使ったりもできるの! 配信するときは、事務室でその旨を伝えればいいだけ!」


 ママが僕の紹介を補足してくれる。映像さえあればできる2D配信ができないわけもないのである。


シルフェ・オルコット:設備、整いすぎ……

デデデ:VTuberにとっては理想の本社だよなぁ……

銀:てか、シルフェちゃん来てたんだ?

チャイが好きィ!:ここで、バンドが……できる!?

もう詰まっとると?:チャイ、お前いつもそれだなwww


 設備が整いすぎているという点、僕も同意だ。秋葉家の財力が結集されたこのビル、金に糸目をつける必要がなかったのだ。

 そもそも、秋葉家は元々本業が高所得だった人が多い。いまに至っては、VTuberとしての収入もどんどん高所得化している。そんな出資者が11人集まって、お金を出し合ったのだ。ありえないものの一つや二つ出来てもおかしくないのである。


「VTuberの夢物語が実現したみたいな環境だよね……」

「アハハ……総工事費を知るのが怖いよ……」


 そう言いながら、僕たちは隣の部屋に移動する。

 紹介したのは、ダンススタジオに最も近い録音スタジオだ。


「んで、これがダンススタジオ! ここは、実質3Dのみ対応だね!」


 隣の部屋が、それである。


「2Dだとどうしてもダンスの可動域は出せないからね!」


 ママの言うとおり、それは無理な話だ。そのせいで、3Dモデルの出来上がっていないキャストはここで配信ができない。


お塩:仕方ないんだろうな……

Alen:私が、口出ししました(`・ω・´)

ベト弁:プロが携わってるしwww

初bread:おい、忘れてないか? 録音スタジオに、Ryuが口出したことを!

Mike:一流の芸能人も育てられそう!


 多分だけど、アイドルを育てるために必要なものは全部本社内にあると思う。足りなければ、作ることが出来る。そんなスペースは確保済みだ。


「じゃあママ、ちょっとここに残ってくれる?」


 左目に、指令が表示された。きっと、孔明お兄ちゃんが今考えついたのだ。


「うん、わかった!」


 一瞬ママと別れ、僕はさっきの部屋へ戻る。


「よし、OK!」


 僕がそう言うと、ママは隣の部屋でできるだけ大きな物音を立てるてはずなのだ。そういう指令だ。

 だけど、僕のいる録音スタジオは一向に無音のまま。本当に何も聞こえないのである。


銀:すげぇ! 全く聞こえてないのか!?

初bread:気密型防音室だもんなぁ……そりゃ、聞こえんわw

ベト弁:でも、空調室には丸聞こえだったりするんだよなぁw


 そう、この階層の部屋は、超高気密だ。それによって発生しやすくなる湿気やカビの問題は、空調施設が解決している。

 ただ、その空調施設とは配管がつながっていて、半ば糸電話のように音が伝達してしまう。

 でも……。


「みんな、ママは本当に騒いでるの?」


 それを疑いたくなるほどの静音性だ。


デデデ:ダンスしてるよ!

わー!ぐわー!?:ママってダンス意外とうまいんだね……。音感死んでるのに。

お塩:プレイヤー最大音量にしたw ママ、耳ふさいでるw うるさすぎたらしいw

里奈@ギャル:ママがビクってするの可愛いw


 そんなことをやっているのに、こっちには雑音が一切ない。

 そんなことをしていると、再び左目に指令が表示される。もういいそうだ。


「防音性能も紹介できたし、僕はママと合流して次の階層に行きます!」


 できれば、部屋を出てすぐにママと合流したい。一人だと、夜に会社内にいるシチュエーションが怖い。

 僕はママと合流し、再び視聴者さんとの雑談をしながら上の階層を目指す。

 次は、放送室フロアと中型シチュエーションスタジオフロア。参考にしたのはクロノ・ワールの本社だ。

 そこも、視聴者さんたちからは大絶賛。カサ・ブランコの人たちも軽率に見に来て、すごいと賞賛するのであった。

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