第209話・Shall we

「行ってくるね!」

「頑張って!」


 短く言葉を交わして、僕は舞台袖につながる控え室へと向かう。


 頑張れという言葉は、エナジードリンクに似ている。気力を前借りできる代わりに、長期的に摂取し続けると心は枯渇する。だから、短時間をその言葉のターゲットとして指定し、決戦用のブースターとして満さんは使ってくれた。賢い活用法である。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 舞台袖には出場者達が集まっている。全員今か今かと、その時を待っている。

 日本人に比べ、海外の人はオープンだ。言葉を掛けるのに、敷居がないのではないかとすら思ってしまう。


 でも、そんな中でも言語の壁はやっぱり存在する。僕は日本人、そして、英語があまり堪能ではない。そのせいで、僕に向けられる視線は、話しかけたいけど……。といったものである。


「Hello! ah……コンニチハ!」


 その敷居を踏破したのは、14歳の黒人の少年だった。彼は、準々決勝で僕の前の出場者だった人だ。黒人なんて、このイギリスに来るまで出会ったことがない。僕にとっては、テレビの向こうのファンタジー世界の住人とあんまり変わりはない。つまり、出会ってワクワクできる存在だ。


「Hello!」


 英語が拙いと言っても、これを知らない人間はほぼいないだろう。

 僕が言うと、少年はポケットから紙を取り出して広げた。メモ……もしかすると僕と話すための台本だろうか……。


「ボク……の、名前……は……アーク。ボク……ハ……アキハ・リン……話したかっタ……」


 聞いてみれば、それは翻訳系のソフトを用いて作ったかのような構文だ。精一杯、僕と話すために自分でできることをやってくれたのだろう。彼の、伝えたいという思いが伝わってくる。

 そう言えば、シモンさんと初めて会ったとき、こんな状況にぴったりの英語を聞いた気がする。確か……。


「アーク! It is a pleasure to meet you!」


 最上さんが『お会いできて光栄です』と訳してくれた言葉だ。


「Oh me too! Let's do a video together when this is over!」


 どうしよう、速すぎて聞き取れない。英語なんて、単語単位ならいくつかキャッチできたけど、流石にネイティブは辛い。


「あー……」


 どうしようかと、悩んでいるとアークさんはハッとしたように紙に目を落とす。


「Oops……Sorry! ah……。これが終わったラ、一緒に動画を撮りたいデス! 君の声はとっても素敵デシタ!」


 言い終わると、アークさんは別の紙をポケットから取り出す。手紙で包まれた何かだ。


Can I open itあけてもいいですか?」


 でも困った、終わったあと僕は日本に帰ってしまう。飛行機の予定だってある。

 プライベートジェットだから、もしかしたらずらせる可能性はあるけど。でも、シモンさんにお願いするのは図々しい気がする。


「YES! Of course!」


 やさしい英語だった。日本人の僕にも聞き取りやすいようにゆっくり発音してくれる。

 それは、手紙に包まれたアークさんの名刺のようなものだった。カードに手書きで連絡先が書いてある。そして、そこには幸運なことにツブヤイッターのIDも。


「Wait a minute」


 携帯の持ち込みは別に禁止されていない。だから、僕は迷わず彼をフォローした。

 そして、ここまで繋がってしまえばあとはこっちのものだ。通訳を呼び出すことができる。そう、最上さんである。

 メッセージを一旦最上さんに送って翻訳、そしてアークさんへのダイレクトメールにコピー&ペースト。これで、僕たちの会話は成り立った。


『アークさん。フォローしました! ダンス、とても素敵でした! 動画撮影の件、お受けしたいのは山々ですが、僕はこのあと日本に帰らなくてはなりません。本当にごめんなさい……』


 僕が送ると、アークさんは一切の遠慮がない英語で返してきた。僕に翻訳は無理なので、一旦最上さんに翻訳をお願いする。


『それが遠まわしなお断りならごめん。そうじゃなかったら、僕が日本に行くのはどうかな?』


 確かに、日本人はこういう断り方をすることもある。でも、今回僕はどっちかといえばノリ気だ。僕にはない運動神経、その塊みたいなアークさんとは是非友達になりたい。実利を考えなくてもそうだ。勇気を出して近づいてきてくれた、それが嬉しいのだ。


『もちろんそれは大丈夫です。でも、渡航費かかりません?』


 別にオンラインでコラボ動画という形にしてもいいと思う。


『惜しくないよ、お寿司食べてみたいんだ! フジヤマもみたい! あ、リンはNINJA会ったことがある?』


 やっぱり、忍者は人気のようで、海外の少年にも憧れられている。

 どう返すか悩んでいると、最上さんからダイレクトメールが届いた。僕はそれを引用した文を翻訳してもらって、アークさんに返す。


『NINJAは色々な形で現代にもいるよ。ただ、スパイだったり暗殺者だったりするからね。NINJAだってバレちゃったら大変でしょ? だからね、ごく一部の人しか知らないんだ。でも、知り合いに一人、この人NINJAなんじゃないかなって人がいるよ!』


 それは、最上さんのことである。目の前でフッと消えるのだ。あれは絶対に忍者だと僕は思うのである。

 僕とアークさんはすっかり仲良しになった。ただ、二人で黙々と携帯をいじっているのが不審だったのだろう。みんな気になって寄ってきた。

 そして、僕は相互フォローの海外アーティストさんが一気に増えた。

 ただ、最上さんにすごく苦労をかけたのである。


――――――


 読者の皆様へ、お願い申し上げます。

 この度、本作品は、新作ともどもカクヨムコンテストに応募させていただいております。

 厚かましいのは、承知の上。ですが、本作品を挿絵付きの書籍や漫画媒体でご覧いただくのには、どうしても受賞が必要になります。

 皆様の★やフォローが受賞につながります。

 リンや満をはじめとした、キャラクターたちのイラストをご覧になりたい方。

 また、漫画媒体でのキャラクターたちの躍動を見たい方は、お手数ではございますがどうか★やフォローをお願いいたします。


 作者自身で、挿絵を依頼して皆様にご覧いただくというのが、読者様の懐には最も優しいのは承知の上。力不足を恥じ入るばかりでございます。


 また、謝辞を失礼いたいします。

 本当に長い物語となりました。こんなにも読んでくださる方が多く、作者も喜々たる思いでございます。

 読者様方に支えられ、本当に長く連載することができています。

 もう少し続きますが、どうぞよろしくお願いいたします。


 新作もございます。本埜の執筆は本作終了後も、長く長く続ける予定です。

 皆様どうぞ、今後共末永くお付き合い頂けるよう、平にお願い申し上げます。

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