第191話・Rollplay

 推しのサインが変わってゆく、それも含めて楽しむのが通である。それは尊師のへーホー書最終ページに書かれた一言である。このせいで、僕は孔明お兄ちゃんを尊師と認めてもいい気がした。

 ところで、今後の予定なのだが……、羞恥心的な意味で危機的状況に置かれている。


 最上さんが言うに、僕たちは屋外でRTS一枚になる必要があるそうだ。衆人環視の下で。

 イギリスには、日本でも放映された有名映画の舞台になった場所がある。観光名所としては外せない。

 僕の衣装には、驚く程のパターンがあり、中には魔法使い風のものも存在している。ゴシックロリータと、ファンタジーは親和性が高いのだ。


「ほ、本当に脱ぐの?」


 それはもはや一種の羞恥プレイである。ボディラインを一切隠してくれない特殊撮影用スーツで、人が多くいるところに行かなくてはならない。

 もともと、そこは観光名所で、最初から人が並んでいる。

 僕は、RTSを開発した人に苦言を呈したい気持ちでいっぱいだ。とはいえ、このスーツがぴったりとしている理由は分かる。


「うん! しっかり記念撮影しておこうよ! ママもちょっと恥ずかしいけどね」


 と、ママははにかんだように笑った。

 これだから、ママは本当に質が悪い。そんな魅力的な表情を見せられたら、僕はさらに恥ずかしくなってしまう。

 少しだけ、もやもやとした気持ちが募ってきた。そろそろ、我慢の限界だ。

 でも、言うべきは今じゃない……。恋愛経験の乏しい僕にも、それはわかる。


「わかったよ……」


 意を決して、僕はゴシックロリータのドレスを脱いだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 キングクロース駅、9と5分の4番線。有名な魔法使いが、魔法学校に向かう駅のホーム。その入口は、映画内では柱だが、観光名所としては壁にその看板が掲げられている。

 本来は長蛇の列に並んで、撮影の順番待ちをするところだ。でも、先んじて本日撮影があることを、看板で周知しており、並ぶ必要はなかった。

 だが、周知されているせいで、逆に撮影を見物しようとする人が集まっている。余計に恥ずかしい。


 もともと、壁に埋まったカートが設置されているが、それとは別に撮影用にもう一台のカートが用意されている。僕たちは今、魔法学校に向かう生徒なのである。


「リン君は何年生かなぁ?」


 と、ママがちょっと茶化すようなことを言う。おかげで少しだけ、恥ずかしさが紛れた。

 だが、本当に少しだけだ……。


「お、OBだよ……」


 件の魔法学校は、イギリスの学校制度を参考にしている。11歳から15歳は中学生で、その後二年間職業訓練を行うのだ。よって、魔法学校は7年間、卒業は17歳だ。


「えー? 新入生でもおかしくないと思うけどなぁ……」


 実年齢的にOBであっても、外見年齢は間違いなく在学の範囲に収まるだろう。


「そうやって、すぐ子供扱いするんだから!」


 だからといって、子供扱いをされれば僕はおこである。新入生など11歳だ。


「ごめんごめん。で、ママは先生かな?」


 非魔法使い出身の先生。そう見ることはできる。でも、別に在学でもおかしくはない。


「監督生かも?」


 でも、監督生になったら、あだ名はママになる気がする。ともあれ、もしその魔法学校に入学するのなら、ママとは同じ寮がいい。


「まだイケる?」

「うん、余裕で!」


 大人びた感じはするだろうが、ママはまだまだ若く見える。何よりも可愛いのである。魔法使いのローブなんて似合うだろうし、魔女なママも魅力的に決まっている。


「カメラ回しマース!」


 撮影が始まった。


「早く! 汽車に乗り遅れちゃうよ!」


 それに、そもそも設定はこうだ。ママは今、僕の先輩で、僕は先輩に引率される新入生。という、ロールプレイが出来る場所の紹介である。


「待ってください、お姉様……」


 というセリフが用意されている。お姉様、百合系の作品で多用される語句である。ファンの心をくすぐれるのはわかるけど、にしたって恥ずかしい。


「と、こんなことができる場所です! イギリス観光の際は是非訪れてみてください!」


 紹介は、ママが主体だ。シェフィールド宮殿では僕が主体だったから、今回はどうしても譲りたかったのである。


「あの、有名な映画の世界観に浸って、あなたも魔法使いごっこを楽しんでください!」


 そう言いながら、僕はママの横に立つ。すると、ママは僕の頭を撫でた。

 この撮影は、恥ずかしくてたまらなかった。

 その後、その撮影場面を撮影させて欲しいというファンの人が現れ、それを最上さんが面白いと受け入れてしまった。早いところ、服を着たいというのに……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る