第182話・Royal Akiha
イギリス、正式名称グレートブリテン及び北アイルランド連合王国。日本にとっては、仲のいい国家として名前を挙げることができる。というのも、女王陛下は天皇陛下を敬ってくれるのだ。
ロンドン、ガトウィック空港はロンドンの南部に位置する巨大な空港だ。
到着した僕は、盛大に混乱していた。
「え? え?」
というのも、僕がこれから通るであろう道の左右をベルトパーテーションが仕切っているのだ。
「リン君イギリス人のファンが多いのは、飛行機の中でさんざん聞いたでしょ?」
その主な原因が、これから会いにいくシモンさんだ。彼はイギリス南東部の都市で生まれた、売れっ子音楽プロデューサーだ。そんな彼の拡散によって多くのファンを得た僕が、イギリスでとんでもない人気を誇るのは当然なのかもしれない。
ただ……。こんな、まるでトップタレントのような扱いを受けるのは、現実感が沸かない。
「リンちゃん、覚悟してくだサーイ!」
Mikeさんはそう言って、僕たちを先導する。
本当に現実感がわかない光景は、さらにその先に待ち受けていたのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
駐機場を進み、空港建家を進む。入国審査も待ち時間はゼロで、到着と同時に審査開始。十分もあればそれも終わって、僕たちは入国ゲートをくぐった。
瞬間、空間を塗りつぶし飽和して、破裂するばかりの歓声が僕を迎えた。
ベルト一枚挟んだ向こう側から、たくさんの目線が僕たちに注がれていた。
「Rin Akiha!!!」
「Phoenix bard!!!」
と、いうのは勘違い。その視線は僕に注がれていたのだ。不死鳥の歌姫という異名はイギリスでは英語に翻訳され、さらに形を変えていた。
「バードはジャパニーズファンタジーの、歌うマジシャンの意味デース!」
イギリスにおいて僕は、魔法の歌を歌うファンタジックな存在とされていたのだ。それを、不死鳥の鳥とかけてバードになったらしい。
「あはは……そんなんじゃないけどなぁ……」
と、僕は照れていうけど……。
「何言ってるの? リン君の歌は、魔法みたいなものだよ!」
ママはそれを肯定した。
他のVTuberさんを見ていると、歌っている間もコメントが流れている。だが、僕の場合は歌い終わるまでみんなコメントすることを忘れるのだ。
「うーん、本当なのかなぁ?」
その反応が、本心である可能性は絶対ではない。推しを喜ばすためのオーバーリアクションは、往々にしてあるものだと思っている。
「ほら、ファンサしてあげて!」
「あ、うん!」
僕は、ベルトのむこうのファンの人に手を振った。
数人が胸を押さえる……。まるで心臓を貫かれたかのように。
さすが欧米人、オーバーリアクションが日本よりさらにオーバーだ。でも、悪い気はしない。向けられる視線は、好意的なものばかりだから。
やがて、その人ごみを抜けると、その先にはハイヤーが止まっていた。
ハイヤーに乗ると予定の話になる。話し始めたのは最上さんだった。
「本日はこのままホテルに向かいます。一流ホテルを予約していただいておりまして、当然日本語も通じるところです。そこで、放送をしていただいて、そのまま自由時間とさせていただきます。部屋は、おふたりは一緒です」
淡々と最上さんは言うけど、それではまるで本当に新婚旅行のようだ。
意識すると、顔がどんどん熱くなっていく。
「最上くん、スイートだったりする?」
「当然です。なんなら、
VIPオブVIP過ぎて、頭が情報の咀嚼を拒絶している。女王陛下が宿泊するようなところに、僕が宿泊する。そんなの、まるで王子様だ……。
「秋葉のお姫様が一緒で良かった! ロイヤル・ワラントなんて初めて!」
「あぅ……」
せっかく一瞬王子様になれたのに、ママにお姫様扱いをされてしまう。これでは、いつまでたっても僕は男として扱ってもらえないのではないかととても不安だ。
「ママも初めてなんだ?」
とりあえず、気を取り直して僕は笑顔を取り繕う。ママをちょっと神聖視しすぎているのかもしれない。ママだって人で、経験には限度があるのだ。
「うん、初めて! だって、普通に一泊十万円以上ホテルだよ? リン君が来る前の秋葉家には、そんなお金ありません!」
「え!? 十万円!?」
一日十万円、そんなの上限が二つ……。いや、Utubeの手数料を考えると、もっとだ。さらに、以上という言葉を考えると、さらにもっと。
頭がおかしくなりそうだ。
「そりゃそうだよ! 王様が泊まるんだよ?」
「ひええ……」
なんだか、すごいことになっちゃった。
「RTS手配済みなので、半リアル放送としましょう……」
僕だけじゃないかな、初めての海外旅行でこんなにお金持ちの体験をするのは。
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