旅する二重奏

第180話・海外へ……

 4月18日。僕は、ママと二人で、ハイヤーに乗って翼田空港へとやってきた。最上さんは、謎に先に翼田空港にいるらしい。


 何故翼田なのかと、訪ねては見たものの、答えはママも知らないようだった。

 国際便といえば、鳴田である。翼田空港発の国際便は、隣の韓国までしか行かない。

 韓国は、とても近いのだ。それこそ、国内便を使う気軽さで、飛行機を飛ばせる。なんなら、沖縄よりも近い。


 閑話休題……。


 翼田空港に到着すると、最上さんが待ち合わせ場所で背の高い金髪の男性と話をしていた。


「最上さん、お待たせしました!」


 僕が最初に声をかけると、最上さんは振り返り、一緒に金髪の男性も振り返った。

 日本人だとは思えない彫りの深い顔、そして海のような青い瞳。そんなイケメンの男性が、僕を見ると破顔した。


「ワーオ! リンちゃん! ベリーキュート! ママも、とってもビューティー! まるで、マリア様だYO!」


 なんとなく、誰なのかがわかってしまう。僕のことを知っていて、シモンさんと交流の有る海外の人。そんなの、一人しかいない。


「もしかして……Mikeさんですか?」


 僕が尋ねると、Mikeさんは全身を使って渾身のガッツポーズを披露した。


「OH! MY! GOOOOOOOOOD! 嬉しすぎるYO! リンちゃん、ワタシ覚えててくれた! もう、ワタシ感激YO!!」


 海外の人は、やっぱり感情表現がストレートだ。でも、忘れるわけがない、僕の大切な古参ファンの人だ。

 そういえば、海外では親しい友人はハグをすると聞く。だから、僕はMikeさんにハグを求めた。


「はわ……はわわ……」


 Mikeさんの顔はもう大変なことになった。色々な表情が、ないまぜになって、もうどんな感情を表しているのかわからない。


 ただ、笑顔であるということだけが、辛うじて判別できた。


「リン君、それオーバーキル……」


 ママにたしなめられる。Alenさんの時も僕はやらかしている。

 僕としては、同性なのだから遠慮せず抱きしめてもらえればいいのだ。だって、相手の文化を尊重した親愛の表現のつもりである。


「傍から見ると、大変微笑ましい光景ですね……」


 と、最上さんが言った。

 僕とMikeは身長差が大きい。僕の身長は、Mikeさんの胸の中程までしかない。

 結局Mikeさんは、ハグを受け入れてくれた。小さな声で何度も……。


「oh my god」


 と、つぶやきながら。

 続いて、ママとMikeさんもハグをする。


「よろしくね、Mike君!」


 と、ママが声を掛けるも、Mikeさんはそれどころではない様子だった。

 五秒ほどして、気を取り直したMikeさんが言う。


「それじゃ、ブリテンに向けて出発デース! follow me!」


 歩き出したMikeさんの後を追うが、他の人とは行き先がちょっと違う気がした。

 高身長イケメン白人に連れられた、珍道中。それは、嫌が応にも人目を引く。

 たまに、声が聞こえるのだ。


「あれ? 秋葉リンじゃね?」


 や……。


「ウソ!? 超可愛い!」


 など……。

 時折、最上さんは僕たちから離れて、寄ってこようとする人を説得してくれたりなどした。

 その道中、僕は尋ねる。


「並ばないんですか?」


 みると、空港にいる人のほとんどは行列に並んでいる人のような気がする。


「ダイジョーブです! 十分もあればフライハーイ! できますよ!」


 待合室のような場所すら、素通り。そして、パスポートを提示したりと手続きをした。いわゆる出国審査である。

 金属探知機は、ランプを赤く点滅させて光ったりもした。でも、職員さんからかけられる声は……。


「どうぞお進みください!」


 どう考えても、赤く光るのは問題がある気がしたのに……。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そして、一旦建物を出ると、Mikeさんが紹介してくれた。


「ハーイ! ワタシが持ってきた、ジェット機です! ブリテンには、コレに乗っていきマース!」


 思っていたのとすごく違う。もっと大きいものを想像していた。それ以上に……。


「あれ? 四人で乗るの!?」


 飛行機は空を飛ぶ新幹線のようなものだと思っていた。座席が並んでいて、たくさんの人を一気に運ぶ。そんなものだとばっかり思っていた。


「機長と副操縦士合わせると、6人ですネー!」

「リン君、すごいよ! プライベートジェットだよ!」


 プライベート……つまり個人の。

 ジェット……ジェット機を意味するのだと思う。

 個人のジェット機……。


「え!? 個人用!?」


 いくらなんでもである。これだけの大きな機械がものすごい値段になることはなんとなくわかる。

 それに、その機械は空を飛ぶのだ。安全のため、色々な精密機械が詰め込まれているはずだ。

 一体どんな値段になるのか僕には想像がつかない。


「リンちゃんを、普通の飛行機に乗せたら、大騒ぎかもしれまセーン! なので、ワタシ、持ってきました!」


 ありえない。いくらなんでも、VIP対応過ぎる気がする。

 開いた口がふさがらないとはまさにこのことで、こんなものに乗ることが僕の人生にあろうとは思いもよらなかった。これではまるで、雲上人だ。

 VTuberだったはずなのに、こんな扱いをされている。ありえないが頭の中で堆積していく。


「特に帰りが問題ですね……。リン様のファン解析をすると、イギリスの方はとても多いので……」


 そうだった、僕はこれから海外に行くのだ。海外のファンの多い僕には対策が必須かも知れない。

 いやでも……と、また僕の常識はありえないを積み重ねようとしている。

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