第178話・誕生祭(表)2

「じゃあ、次のプレゼント!」


 ママはそう言って、次の包を取り出す。それは、まるで卒業証書でも入っていそうな筒だった。

 受け取って、中身を広げると、水彩画で書かれた僕の絵だった。

 とても、懐かしかった。それは、ママに拾われたばかりの、まだ髪を切っていない僕のイラスト。月に向かって、祈るように歌っていた。


「うわ! すごい! 綺麗……」


 そうとしか言いようがない。輪郭は淡くぼやけていて、だけどどこか息づいている。


「ソラちゃんだね! やっぱり上手だなぁ……。ママには水彩画はかけないもん」


 絵師と大きな括りで言ってしまえば二人は競合する。だけど、その絵の持つ持ち味は二人共全然違うのだ。


秋葉ソラ:会心……

くもり:やっぱりソラちゃんの絵、すごい


 異論なんて誰も唱えない。コメントは賞賛で埋め尽くされていた。


「はい、じゃあ次ね!」


 当然、プレゼントはまだある。そして、次が大問題だった。

 次は、プラスチックの包装に包まれた僕のフィギュア。おそらく、作ってくれたのは和葉お兄ちゃんだろう。


「うわすごい! プラスチック製なのに本当に布みたい!」


 さすがとしか言いようのない、謎技術の結晶だった。触るまで、プラスチックであることを本気で疑った。


「あ、メッセージカード。えっと……。『リンちゃんフィギュアの原型です。スカートの中に秘密があるので是非見てください』」

「え!? 自分で自分のスカートの中覗かなきゃいけないの!?」


 問題その一である。


「じゃあ、ママがみようか?」

「え、いや! ダメ! 自分で見る!」


 ママにスカートの中を見られるなんて恥ずかしすぎる。だから、僕は意を決してスカートの中を見た。

 おんなのこぱんつだった……。問題点その二である。


「ほら、自分だけ見てないで、視聴者さんにも見せて!」


 問題点その三だ。


「うぅ……」


 僕は、唸らずにはいられなかった。やはりVTuberとしては、見せないわけには行かない。

 結局、ママにも見られることになるのである。


Alen:KUMATYANくまちゃん!!!!

銀:これはまごう事なきじょじさん

さーや:かわいー! え? ガチでこういうの履いてる?

剣崎:男の娘の男の娘たるものがない。つまり、公式もリンちゃんが女の子だと認めたか!

ダン・ガン:待て、そのツメはなんだ?


「本当は履かせたいんだけどね……」


 ママの欲望に触れてしまった。問題点その四だ。

 若干鳥肌を立てながらも、僕はダンさんの言っているツメを探した。すると、確かにスカートの中にそれはあった。二つ……。


「なんだろ、これ……」


 僕は気になってそれを外した。

 すると、最大にして最悪の問題が姿を表す。服が脱げたのだ……。

 いや、服だけではない、フィギュア自体が一回り小さくなった。それに……。


剣崎:男の娘の男の娘たるものが現れた!!!!

銀:フィギュア一体に、二種の性別が詰め込まれている!?

Alen:へんたいよくできました

さーや:なんか……おいしそう……


 変態に技術を与えた結果がこれだよ……。


「和葉君! どうしてこんなの作ったの!?」


 服が脱げている。下着姿であり、スポーツブラまで身につけている。そして、とても女の子らしいポージングだった。


「あぁ……うぅ……」


 頭から立ち上るのは、もはや湯気ですらない。黒煙だ……。


秋葉和葉:性を確定させない。それをひとつのフィギュアで表現するならこれしかないと思った。二つの性を同時に持つフィギュア。これが最適解だと思う!

かえで:うちの和葉がすみません……。

秋葉孔明:和葉……ちょっと考え直せ……。リンは恥ずかしがり屋だ


 でも、ファンは確かに喜ぶかも知れない。でも、僕はこんな姿を販売されるのは恥ずかしい。でも、求められているかもしれない。

 ぐるぐると思考が無限ループに嵌った。


「絶対ダメだからね! 服が脱げる機能は無し!」


 でも、社長命令のおかげで僕はその危機を脱することができた。


「ごめん、和葉お兄ちゃん……」


 でもやっぱり、作品が世に出ないのはクリエイターとして悲しいことだと思う。


秋葉和葉:あ、いや。俺が悪かったんだよ! 冷静に考えればわかる! リンちゃんが恥ずかしがらないわけなかった。ごめん!


 と、お金よりも心情を優先してくれるのも秋葉ならではの気がした。

 そもそもの話、えっちな別の顔がなければこのプレゼントは素敵だ。誕生日に、フィギュア発売の案件をくれたのである。


「リン君、許してあげられる?」

「怒ってないよ。恥ずかしかっただけ!」


 頑張りすぎて、張り切りすぎただけ。そんなの、よくあること。だから、僕はそもそも怒ってない。


秋葉和葉:別の方法で考えるよ。本当にごめん……。


 後日、和葉お兄ちゃんは本当に別の方法を考えてくれた。

 半透明な黒いプラスチックを使って、パンツそのものが本当にちらっとしか見えないようにしてくれたのだ。そして、角度によってメッセージが浮かぶようにしてあった。

 そのメッセージは『プレイエリアの外です』だったのである。

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