第177話・生誕祭(表)1

 来る、4月16日。今日は僕のもうひとつの姿、秋葉リンのチャンネル解説から一年の節目。つまり、生誕祭である。


 ママの家に、有形無形問わず様々なプレゼントが届き慌てたりもした。だけど、ママは案の定プレゼントを自分のことのように喜んでくれた。

 そして今日。誕生日放送はお母さんと一緒だ。


 何故11人のライブではないかというと、理由は二つ。まず、場所が確保できない。あの時は、カサ・ブランコが協力してくれたからできたのだ。そして、11人ライブは混沌を極める。僕の進行能力ではまとまらないのが目に見えている。


「おかえり、おちびちゃん。手は洗った? うがいした? 今日はリン君誕生日! みんなで祝ってあげてほしいなぁ」


 僕のチャンネルでの放送。だけど、挨拶はママから。特に理由もなく、なんとなくである。


「KCのみんな! お帰りなさい! 今日まで僕は頑張りました! なので、僕を祝ってね! 今日からも頑張るんだけどね!」


 その時、コメントは大いに盛り上がったのである。


銀:まだ一年だった!?

さーや:え!? マジ? どんだけバズってるの!? てか誕生日おめでとう!

デデデ:リン君は人外だからなぁ……

わー!ぐわー!?:おぉ、偉大なる時代の先駆者よ。あたかも世界を変えるような

麻辣:変革の寵児よ! 歌唱の女王よ!

春風唄:我らはただ平伏し、御身を崇め奉る!

秋葉文:偉大なる不死鳥の歌姫よ! 願わくば悠久の歌唱を!

お塩:なにこのノリ?

Alen:ついていけるほど、日本語堪能じゃない……。でも、リンちゃんおめでとう!

Ryo:あの時からもう一年か……。楽しかったぞ。さいっこぉにな!

初bread:胸張って言えるよ。リンちゃんとコラボしたんだって!

里奈@ギャル:どうしよう……エモ過ぎて泣いてる……。

チャイが好きィ!:この偉人と、俺はバンドやったんだ……

ベト弁:俺なんてヴァイオリン買ってあげたぞ!


 もう、コメントが多すぎて読みきれない……。

 これまでコメントしてくれた人が全員いた。コメント欄はもはや滝だ。そんな勢いで流れている。


「じゃあ、リン君には、誕生日プレゼントを開封してもらいたいと思います! まず、一つ目! これ、定君からだね!」


 包は細長い。それを解くと、ケースが出てきた。そして、それをあけて現れたのは……。


「わっ!? クルースだ! メッセージカードもついてる!」

「ママが読み上げます! 『誕生日おめでとう、歌姫! クルースを教えるって約束が後回しになっちまった。だから、先にモノを渡しちまうことにした。ちょっとは教える余地、残しておいてくれよ?』だって!?」


 こんな些細な約束を覚えて、守ろうとしてくれる。そんな人に囲まれて、僕はなんて幸せなんだろう。


 コメント欄では、予想が展開される。一ヶ月後にはどうせプロ並みと、みんな口を揃えていっている。ただ、お塩さんだけ別だった。


お塩:基礎はダメダメのまま超絶技巧に俺のフィンガーピックを賭ける!


「あはは、これから練習だから、やってみないとわからないよ!」


 それには、コメントが総ツッコミだった。僕だって初心者なのに……。

 でも、絶対基礎知識はつけてやる。お塩さんのフィンガーピックはプレミア品だ。


「じゃあ、二つ目! これは、孔明君からだね!」


 どうやら、秋葉家のバーチャル年齢順にプレゼントを渡してくれているみたいだ。


「なになに!?」

「本、だね! って、これパチもんだよ!」

「『尊師のへーほー書』ォ!? 手書きだ……」

「孔明君の字だ……」


 どう考えてもネタ枠なのだけど、それは時折ちゃんと役に立つ小ネタ集だった。


秋葉孔明:まぁ、時が来ればわかるさ!

婆ショック:自称尊師さんちっす!


 と、少し笑って、次のプレゼントに移る。どんどん行かなければ。十個ある。


「次はー、カゲくんだね! 『バーチャル六法全書(初版)』とバーチャル前科バッジだって!」


 カゲミツお兄ちゃんらしさと、ネタに富んでてとっても面白い。それに、完成形は是非見たかった。少しの間、僕の愛読書になりそうだ。

 でも……。


「前科バッジって何!? いらないよ!」


 何が悲しくて、前科をひけらかさなくてはいけないのだろうか……。


秋葉景光:良くない!? バーチャル法を犯すと発行されるバッジ!

虎太郎:いや、前科をひけらかしたい人はいないと思う……


「うん、絶対いない!」


 それに、てぇてぇ不供給はとても成立しやすいと思うのだ。おそらく、これをつけることなく引退まで活動できる秋葉家は存在しない。


「つ、次行こっか! 次はノラちゃんだね!」


 それは、桐の箱に入った小さなハサミだった。


「うわ! 銘が入ってる! 『眉切り三日月』!?」


 なんというか、すごい。僕にはそれしかわからなかった。


「すごいよリン君。これノラちゃんの本気の一作! 刃紋が入ってるよ! しっかり鍛えられた鋼で、肌模様まである!」


 それを後から調べたらとんでもないものだった。本来日本刀に現れるようなものが、この小さな眉きり鋏に現れているのだ。


「メイク道具だよね!?」


 メイク道具自体はとても助かる。今やすっかり、メイクは僕の日常だ。


「うん」


秋葉ノラ:張り切っただよ! いい鉄できたから、使ってみただ! 気に入ってくれたら嬉しいけんど!

たたら:ノラちゃん、本気すぎでは? 刃紋小乱れじゃんwww

さーや:え!? 直刃じゃないの!?

デデデ:さーや氏の知識量は何なんだ?


「これ、すごいやつじゃ?」


 間違いなく、眉きり鋏なんかの造りではない気がした。

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